冒険者ギルド.2
その後ジェシカさんに、ライムが恐らく希少種であることと、従魔契約が出来たことを伝える。
俺の報告と目の前の出来事に、理解が追い付いていないジェシカさんだったが、やがて平静を取り戻し、ゆっくりと話し始めた。
「そうね……この子、ライムちゃんは希少種でしょう。人語を介するスライムなんて、初めて見たもの。そもそも、希少種をテイムした事例も聞いたことがないわ……」
「ですよね……自分でもビックリしてます」
「これから書面の方でも、報告が必要になってくると思うわ。勿論、情報提供の見返りとして、別途報酬は本部より出ます。面倒だとは思うけど、いい?」
「それは……頑張ります」
正直書くのは苦手だ。だが、そんなことも言ってられない。
報告義務があるとはいえ、ちゃんと見返りもある。お互いに良いことずくめだ。
ジェシカさんは俺の返答に頷き、その後、机にいるライムへと話し掛ける。
「ライムちゃん、で、良かったわね?」
「なにー?」
「……や、やっぱり慣れるまでは、少し時間が掛かりそうね」
狼狽えながらも、話を進めるジェシカさん。
「いい? ライムちゃん。ちゃんと、カイル君の言うことを聞いてね? それと、ライムちゃんが悪い魔物じゃないことは、なるべく早くここの皆に伝えるから、それまではカイル君と一緒に行動して欲しいな。お願いできる?」
「うん、わかったー!」
偉いわね、と笑顔でライムを優しく撫でるジェシカさん。ライムも嬉しそうだ。
「カイル君も……まだ言ってなかったわね。【従魔士】への第一歩、おめでとう」
これからも期待しているわ、とジェシカさんは笑顔で、一歩を踏み出せた事を祝福してくれる。
「ありがとう、ございます……!」
二年以上、俺の事を気に掛けてくれていたんだ。その言葉にめ危うく泣きそうになったが、辛うじて我慢出来た。
「報告は承ったわ。これからも、変化があったりすれば都度教えてね。後の用件は、Fランク任務の受注だったわね?」
「はい、一通り見てみようと思って」
報告が終わり次第、改めて掲示板を眺める予定だ。
本来、掲示板に貼ってある依頼は、早い者勝ちだ。ランクが上がるにつれて、まとめて受注できるようにもなる。
ただ、Fランクの掲示板だけは勝手が違い、Fランクの冒険者しか、受けれない様になっている。
これはジェシカさん含め、ギルド職員が精査して、受注出来るランクを決めているからだ。
もし、Fランクの任務を失敗したとしても、ギルド職員が、カバー出来るようになっている仕組みだ。
所謂、なりたて冒険者への救済仕様だ。この仕様のお陰か、ここの冒険者達は気負うことなくFランク任務を受け、殆ど成功し、早々にEランクへ昇格している。
俺がオルサフォルムにいた時、他のメンバーはEクラス以上だった。だから、ソロで受けていたんだけど、ことごとく失敗していた。
そんな嫌な思い出を、頭を振って追い出す。
Fランクの掲示板には基本、何枚か依頼書が貼られているので、今の俺達がどこまでやれるか、確認しようと思っていた。
「そういうことなら、ちょっと待ってね……確かここに、あったあった。はい、これ!」
ジェシカさんは、机の引き出しを探って、中から一枚の紙を取り出し、渡してきた。どうやら依頼書のようだ。
「さっき依頼されたばかりのものなの。内容と金額が釣り合わないから、どうしようか迷っていた所なんだけど……お祝いも兼ねて、カイル君に。どう? やってみない?」
確認してみると、依頼書にはこう書かれてあった。
『迷子の捜索願い。報酬、十万ゴールド』
「これ……報酬のところ、間違ってません?」
「私も、何回か確認したわよ。そしたら、大事な大事な娘なんです! 一刻も早くお願いします! って、言われちゃって……まぁ、依頼人が良いって言うならと思って、受理したけど」
やっぱり高いわよね? とジェシカさんは困った様子でこちらを見てくる。
この依頼者の様に、人探しの依頼も確かにある。しかし、こんなにも報酬が高いのはおかしい。
俺達が泊まった宿は、一泊三千ゴールド。一月は泊まれる計算だ。朝食のサンドイッチも、三百ゴールド程度だ。
人探しの相場が、何百からいっても何千ゴールド。余程高くても、数万ゴールド位なのに。
「何か……ヤバい人だったりしません?」
俺は、思わず口に出していた。
「失礼な! 身分はちゃんと確認してるわよ。この近くの村に住んでいる、農夫だったわ。娘を預かっているみたいで、探しているのはその娘のようね」
農夫。俺も村出身だ、ある程度のお金事情は、分かってるはずなんだけど……。
「で、どうする? 受けてみる? 期限は定まってないけど急いでる様子だったから、遅くなれば、その分値引き交渉をされるかも」
依頼者が一刻も早く、と言っていた事から、予想を話してくれるジェシカさん。
どうにも気になったが、俺はその依頼を受けることにした。
「じゃあ、よろしくね! 良い報告を待ってるわ」
依頼受理を処理するジェシカさんも、悩みの種が一つ消えた様子で、晴れやかな笑顔で俺達を見送ってくれた。




