消えない記憶
「………さて」
成宮さんに住所を教えてもらった俺は早速手紙を書こうと、数ヶ月ぶりに自分の部屋にある机に向かって考え込んでいた
………何書けばいいんだ?
手紙とか書いたことねぇーし!!
どーしよう……
スリーサイズとか聞くか?
いや、確実に嫌われる!!
でも気になる!!
悩んだ結果、趣味、好きな歌手、休日はどうやって過ごしているのか、について聞くことにした
………学校で聞けばよくねぇか?
いや、いいんだよ、これで………
そう自分に言い聞かせていた
成宮さんからの返事は俺が手紙を出してから一週間程たってからきた
俺はあまりの嬉しさから部屋で叫びまくった
「ウオオオォォォォォ!!!」
只今幸せ絶頂期でございます
止められるんなら、止めてみやがれぇい!!
「幸弘!!うるさいわよ!!」
「………ぁぃ……」
落ち着きを取り戻した俺は早速手紙を読むことにした
………成宮さん、字が綺麗やぁ~
萌えるわぁ~
手紙の内容は俺の他愛もない質問に対する返答だ
しかし、そんな質問一つ一つに対してちゃんと答えてくれていた
………めっちゃいい人だ、成宮さん
その日は成宮さんからの手紙を何回も読み返しては何とも言えない幸福感に満ちていた
次の日の朝、いつも通りの時間に学校に着き、教室に入ろうとしたときだった
「みっちゃ~ん、朝から暗い顔してるね~どうしたのかな~?」
隣のクラスから不快な声が聞こえてきた
何やら胸騒ぎがしたが、気になったので隣のクラスを覗き込んでみた
窓際から3列目で前から4番目の席に俯いている女の子がいた
あれが恐らくは"みっちゃん"と呼ばれる人だろう
みっちゃんの席の両側にはガタイのいい男が二人、ニヤニヤしながらみっちゃんを見ている
そして周りの人達は気にはなっているが、見て見ぬフリをしている
………間違いない
イジメだ!!
「シカトですかぁ~ヒドイね~~」
そう言うと一人の男が彼女の髪を引っ張り、無理矢理に顔を起こした
かなりの力で引っ張られているらしく、彼女は苦悶の表情を浮かべている
「シカトするからいけないんですよー♪
わかったら返事ー」
彼女は小さな声で
「………はい」
とだけ答えた
それで満足したのか二人の男は彼女から離れていった
すると彼女は再び俯き、体を小刻みに震わせながら泣いていた
俺には、今みっちゃんがどんな気持ちなのか、何を考えているのかが手にとるようにわかった
………なんてヒドイ奴らなんだ!!
でも、俺には何もできない
理由は簡単だ
彼女をかばえば、今度は俺がイジメの対象になるからだ
みんな同じことを考えているから見て見ぬフリをする
俺は彼女の苦しみを一番理解しているはずなのに………
何もできない
俺は……………
結局何も出来ずに俺は自分の教室に戻って、席に座った
「お、おはよう……田山くん」
席に座ると成宮さんが話し掛けてきた
彼女の笑顔を見ると、不思議と嫌なことを忘れられた
「田山くん、手紙……ちゃんと届いた?」
彼女は頬を赤らめ、手をモジモジさせながら聞いてきた
照れてる成宮さんは何時見ても萌えるね!!
「う、うん………ちゃんと届いたよ!!
ありがとう……
成宮さんって字が綺麗だね!!」
「そそそんなことないよ……
でも、ちゃんと届いてよかった…」
そう言うと、頬は真っ赤に染まっていた
………可愛い過ぎる!!可愛い過ぎるぞぉぉぉ!!
その後、ふと目が合った
俺達は何だか恥ずかしくなり、お互い俯いてしまった
授業中、俺はずっと隣のクラスの"みっちゃん"と呼ばれる人について考えていた
あの辛くて、悲しそうな表情………
それを見て、何もできない自分
そんな自分に腹がたった
………彼女のために何かできることはないだろうか
そんなことばかり考えていた
でも、所詮は考えるだけで何も出来ない
……本当は怖いんだ
イジメの対象になることではなく
彼女に触れることで
俺の中の"あの"記憶が蘇ってしまうのが………