初恋
戸木田順次に話し掛けられてから3日ほどたった
俺はかなり人見知りをするタイプだが"妄想"という共通の趣味?を持つ順次に対しては別だ
だからといってあれから他の人と喋っていない訳でわない
ただ喋るけど会話が続かないだけさ……
「なぁ幸弘ー」
「なんだい、順次?」
体操着に着替えて、体育館に移動している途中、順次が話し掛けてきた
何時見ても順次はイケメンだ
それなのに趣味が妄想なのはとても不思議だ
「体育何やるんだろーな?バスケかな?」
「体育館でやるし、そうかもね」
順次は大のバスケ好きで、当然バスケ部に即効で入部した
ちなみに優は空手部に入部したらしい
………あれ以上強くなってどうするんだ?
ますます怖いよ
体育館に着くと先に着いた奴らが跳び箱の準備をしていた
それを見て順次は明らかにテンションが落ちていた
「ドンマイ、順次!!」
「あぁ……すまねぇ、今日はダメだぁ。バスケやる妄想でもしてるわ」
………そこまで凹むか(笑)?
よく見ると準備をする人達の中に女子の姿もあった
「おい、今日の体育は女子と合同だぞ!!元気出せ!!!」
そう言いながら順次を見ると………
順次は天を仰ぎながら微笑んでいた
-順次's妄想-
爽やかにシュートを決める俺!!
『キャー順次くーん!!』
『素敵ーー抱いてー!!』
『HAHAHA、落ち着きなよみんな。僕はみんな平等に………愛するか~ら☆』
『キャー!!』
「うふふ………ははは………」
順次は一人で笑っている
………ダメだこりゃ
とりあえず順次はおいといて、俺は跳び箱の準備をすることにした
跳び箱の準備が終わり、あとはマットを持ってくるだけだ
すると優が1人でマットを抱えながらこっちに向かって来た
マットってそんなに軽かったっけ(笑)?
ここで俺は何故か妄想を始めた
-幸弘's妄想-
『大丈夫かぁい、優?』
『ゆ、幸弘……手伝ってくれるの?(上目遣い)』
『ハ、ハ、ハ、当たり前だろう。君のようなレディにこんな重いものを持たせるなんて、ジェントルマンのすることじゃないからなぁ』
片手でマットを持つ
『す、素敵……今すぐ私を……』
ここまで妄想した刹那、優が俺の背後から腰に手を回し抱きついてきた
「ちょ……優!?ななな何を?」
ま、まさかの妄想が現実に!?
次の瞬間、優は腰に力を入れて俺にジャーマンスープレックス(投げっぱなし)をしかけた
ゴンッ
俺の頭は見事にマットに激突した
薄れゆく意識の中で俺は思った
………せめてバックドロップにしてくれ
気がつくともう体育の授業は終わっていた
あの後ジャーマンをかまされた俺は体育館の隅でのびていたらしく、それを見た妄想中の順次が何故か優に襲いかかった
結果、順次は優のDDTをくらい俺と一緒にのびていたらしい
………てか、優はどこでそんな技を習得したんだ(笑)?
まぁそんなこんなで意識がはっきりしないなか、次の授業が始まった
科目は数学………
ただでさえ何を言ってるかわからないのに、頭がクラクラする今聞いて解る訳がない
ということで、ジャーマンの借りを返すために、優をネタに妄想を始めた
授業が始まって約20分後、俺は口を半開きにして頬杖をつきながら悦に浸っていると、左横の席から
「………クスッ」
と小さな笑い声が聞こえた
………な、なんだぁ?
左横の席を見ると、成宮栞が俺を見ながら微笑んでいた
「………クスッ」
彼女の笑顔を見た瞬間、体に電気が流れたような感じがした
一瞬にして頭は冴えた
成宮栞は俺のクラスでは一二を争う美人だ
髪はセミロングで目はクリクリっとしていて、とても可愛らしい顔立ちだ
体はほっそりしていて、順次の目測によれば胸はCカップぐらいらしい
そんな彼女が俺を見て天使と見間違うような笑顔をしている
俺は1秒程彼女と見つめあっていたが、急に恥ずかしくなり、前を向いて授業を聞くふりをした
ドクッドクッドクッ
心臓が周りの人にも聞こえるんじゃないかってぐらい高鳴っていた
その後は授業が終わるまで俺は黒板の一点をただ見つめていた
授業が終わるといきなり成宮さんが話し掛けてきた
その瞬間、心臓がドキッと脈打つのを感じた
「田山くん、さっきすごく幸せそうな顔してたよね(笑)?何を考えてたの?」
成宮さんは若干上目遣いで聞いてきた
………そ、そんな目で見ないでくれぇぇぇ
「そそそりゃあ~もちろんもう………」
「もう………?」
……って言えるかーー!!優をネタに色々と妄想してたなんて言えるわけねぇし!!言ったら成宮さんにドン引きされるし、優に今度こそ殺される!!
どどどうしよう………
も、もう…まで言っちゃってるし
なんとかしなくては……
「もう……も…う……もーう………」
「………もーう?」
「もーう………う…牛さん……牛さんもーう…」
「……え(笑)?」
「い、いや、なんで牛さんはもーうってなくのかなぁ~と思ってさ♪全く可愛らしいなぁ牛さんは………は、はは、は…」
「???」
………最悪だーーーー!!
あぁ俺の高校生活も終わったな……
「……クスッ」
「…へ?」
「フフフ、田山くんって面白いね。確かに牛さんは可愛らしい!」
そう言って成宮さんはクスクスと笑い出した
「だ、だよねー(汗)成宮さんなら分かってくれるって…し、信じてたよ(笑)」
………よかったよかった
そう心で呟き、ホッとする一方で、より激しく心臓は高鳴り、感じたことのない幸福感が俺の心に満ちていた
この幸福感は家に帰ってからも止むことがなく、むしろベットに横になってからのほうが、より幸福感が俺の心に充満していた
心臓は百メートル走を全力で走った後のように早く、大きく、脈打っていた