【18】
「――ジャラッ!! ジャラッ!! ジャラッ!!
我ラノ主人、偉大ナルごーれむ使イ まーや・やーまノ話ヲ聞ケ!!」
土くれ製の金貨たちに言われるがままに、ローランドは革袋を開ける。
次の瞬間、偽金貨たちは表面に刻まれた唇にて、
「――委任請ケシ者ガ、聖女トソレヲ遣ワシ神る・うーすノ名ニオイテ命ズル!
目ヨ、遠キ姿ノ幻ヲ見ヨ! 耳ハ、遠キ声ノ木霊ヲ聞ケ!」
と、16枚で声を合わせた。
おそらくは“秘蹟”の呪文を詠唱したのだ。
同時に、宙に幻が浮かぶ。
美しき修道女、マーヤ・ヤーマの姿であった。
「――ごきげんよう、ローランド様」
幻が喋った。
しかし驚きは無い。
地球のゴリラであるローランドは、それがSF映画に出てくるホログラム通信と同様のものであると瞬時に理解することができたからだ。
『たすけてローランド、あなただけが頼りです』だ。
「マーヤ・ヤーマ女史か。相変わらずお美しい」
「――ありがとう。
我が教会では異民族を差別することを禁じています。それゆえ私はあなたを素敵と思っておりますし、それに交渉可能な相手であるとも考えております」
「そうかね。
それで、どんな交渉なのだ?」
「――我々は中央大聖堂の脱出に成功いたしました。
|聖{ウー}エウァンシェリル猊下をお渡しください。
脱出に成功すれば、あの御方はまた教会に必要なのです」
「あるいは逆に、好きにウロウロされては邪魔というわけか」
「――さすが、ご聡明。
どこか帝国軍の勢力の及ばぬ地の聖堂まで、聖女猊下をお連れくださませ。
そこで、このゴーレム金貨を、三倍の本物の金貨とお取替えいたします」
ローランドの返事を聞かず、マーヤ・ヤーマのホログラム通信は切れた。
幻は消え、偽金貨たちも沈黙する。
全ては、あの美貌の修道女の思惑通りということらしい……。
その後、ローランドはエウァンシェリルの部屋を訪ね、宿の百姓屋敷を脱出するに至る。
金貨の袋は、捨てずに持ち歩くことにした。
――そして、時系列はもとに戻る。
◆ ◆ ◆
私――エウァンシェリルは、ローランドの背中で無理やり、ドレスにドレスを着させられた。
ドレスが自ら動いて、|自分{ドレス}を私に着せたのだ。
うまく説明できない状況だけど、私だって初めてのことだから仕方ない。
「エウァ、どうするかね?
むりやりドレスを破くこともできるが」
「いえ……。
仕方ないから着てあげましょう。
愛着も沸いてきましたし」
「そうかね。
きみがそう言うなら構わないが」
「でも、こうなると、私たちおじさんを騙したことになりますね。
このドレスを着て逃げると、宿代を踏み倒してしまいます。
――戻って、謝った方がいいのでしょうか?」
「律儀なのは結構だが、戻るのは賛成できないな」
「では、せめてお手紙を書いておきましょう。
ドレスについては申し訳ありません、って」
私はローランドから、たまたま持っていたというペンとインクと紙を借りると、謝罪の手紙をしたため、街道の目立つところに石で置いた。
これでよし。
「済んだかね?
では、あらためて出発するとしよう」
こうして私たちは三人で――
人間ひとりと、ゴリラ1頭と、ドレス1着で、連れだって旅を続ける。
ふたたび、あの広大な森へと入るのだ。
「今回は前より楽なはずだ。
逃げるとき、食料をいくぶんか失敬してきた」
ローランドが物入れの袋を開けると、中に入っていたのは
ひとかかえもある量の、パンと塩漬けの鳥肉だった。
私はおじさんに謝罪の手紙をもう一通書いた。
その後、いったん街道を北へ向かうふりをして、こっそり引き返して森へと入る。
次の目的地は、東のかなたの辺境地帯だ。
「|辺境{アマトラ}は私も初めてだが、おそろしい怪物や、異民族の中でも特に野蛮な連中が跋扈する地だという。
怖いかね、エウァンシェリル?」
「いいえ、ちっとも」
ゴリラのローランドがいっしょなのだ。
こわいことなど、あるはずなかった。




