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聖女と世界一かっこいいゴリラ  作者: 毒アリクイ先生
16/17

【17】

 私――エウァンシェリルが、ローランドの背中で夜空を見上げていると、


「……あらっ? ねえローランド、あれはなんでしょう?」


「どれだね?」


「空です! なにか白くてふわふわするものが、空を飛んで追ってきます!」


 月や星に照らされながら、それはふわふわひらひらと飛んできた。


 農村の方から、あんなにふわふわとしているのに驚くほどの速度でだ。


(あの形、もしかして――?)


 よく見ると、それは見覚えのある形をしていた。


 飛んできたのは、なんと――。


「あれって、私のドレスです!

 宿代がわりにしたドレスが飛んで追ってきています!!」


「……どうやら、そのようだな」


 あの例の聖女の式典用ドレスだったのだ。


 風に飛ばされてきたのだろうか?


 一瞬、そう思ったが、どうやら違っていたらしい。


 なぜって、飛んできたのは純白のドレスと紋章入りのケープだけでなく、


 黄金でできた冠や、かかとの高い靴といった、重くて飛ばないようなものまでいっしょであったのだから。


「あれは、どういうことなのでしょうか?」


「わからんな。

 だが、これは憶測だが――きみに着られたくて、追ってきたのではないのかね?」


 どうやらローランドが正解らしい。


 ドレスはひらひらと私たちのすぐそばまで来ると――


 私の着ていた奥さんのお古の服を無理やり脱がそうとするのだ!

 服が。勝手に動いて。

 ドレスの長手袋の指で、留めてあるボタンや紐をほどいて。


 なんというなめらかな動きだ。

 まるで生き物。

 たとえば透明な人間がこのドレスを着ていたとしても、これほどなめらかには動けまい。


「ちょっと!

 なにをするのです! おやめなさい!」


 だがドレスは言うことを聞かず、私を下着姿にすると、今度は無理やり自分を着させるのだ。


「ローランド、助けてください!」


「う、うむ、わかったとも。だが――」


 もう遅い。

 助けを求めたときには、すでに私は式典ドレスに着替えさせられ終わっていた。


 ご丁寧に、冠と靴まで。


 ――それも、今まではっきり述べるのを避けていたが、私は今、ローランドの背中の上にいた。

 私は彼の背中で着替えさせられたのだ。


 下着がドレスとセットのものでよかった。

 そうでなかったら下着まで着替えさせられていたに違いない。


「これは、やはり魔法なのかね?」


「魔法でしょうね。教会の“秘蹟”。

 にせもの金貨と同じで、『ゴーレムの法』の応用です」


 だとすれば、にせ金貨と同様、老修道女マーヤ・ヤーマの仕業だろうか。


『私を囮にするために、絶対にこの目立つドレスのままでさせる』という強い意思が感じられた。

 あのばばあ、性格悪い。陰湿だ。


「エウァ、どうするかね?

 むりやりドレスを破くこともできるが」


「いえ……」


 ただの服とはいえ、こうして命がある(ように見えるもの)を殺すのは気が引ける。


 それに、このドレス、私から奥さんのお古の服を脱がす際、破らないよう丁寧に脱がし、ちゃんと畳んで仕舞っていた。


 同族(服)を殺さないという道徳心を持っているのだ。


「仕方ないから着てあげましょう。

 愛着も沸いてきましたし」


「そうかね。

 きみがそう言うなら構わないが」




◆          ◆          ◆




(『着てあげましょう』か……。

 エウァンシェリル、優しい娘だ。

 ドレスをまるで人のように)


 きっと、なにかの罠であろうに。



 ――傭兵ローランドは思い出す。


 彼がエウァンシェリルの部屋を訪れる、およそ半時間ほど前のことだ。


 そのとき、すでに彼は百姓夫妻が自分たちを帝国に売ったと勘づいていた。

 料理には小細工がしてあったし、窓の外からは視線を感じる。


 それは命を狙う狩人の視線であり、同時に自分たちを監視する視線。

 ゴリラにとっては馴染み深い視線であった。


 地球においては、彼らの種は常にハンターたちのライフルスコープに狙われていたし、同じくらい動物ドキュメンタリー映画のカメラにも監視されていたのだから。


 宿を脱出すべく、身支度をしてエウァの部屋を訪ねようとした、そんなとき――。



「――ジャラッ! ジャラッ! ジャラッ! ジャラッ!」



 革袋に入れていた偽金貨どもが、急に騒ぎ出したのだ。


 そういえば捨てていなかった。

 持っていても価値の無いものであったのに。


「――ジャラッ!! ジャラッ!! ジャラッ!!」


 土くれの金貨16枚は、なおも大きな鳴き声を出し続け、ついには――


「――ろーらんど、ろーらんど!

 財布ヲ アケロ!

 我ラノ主人ガ呼ンデルゾ!!」


 意味のある言葉を、財布の革袋の中から発したのだ。



「――我ラノ主人、偉大ナルごーれむ使イ まーや・やーまノ話ヲ聞ケ!!」




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