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聖女と世界一かっこいいゴリラ  作者: 毒アリクイ先生
15/17

【16】

 一方、村にて――。


「申し訳ねえ。逃げられただ」


 村から12000キョリ―(約12km)離れた代官所から兵4名が来たのは、聖女とおぼしき娘たちが逃げて1時間も経ってからであった。


 家に聖女と護衛を泊めたという百姓の男は、帝国代官のお叱りを怖れて何度も頭を下げていたが――、


(……どうせ、この人数ではローランドにはかわなかったでゴゼーマス)


 ――傍らにいた少女は、軽く唇を噛んだ。


 少女の名は“赤い実”チュカ。

 森林地帯の異民族出身。


 わずか12歳でありながら、腕利きの『野伏{のぶせ}』であり、“斬首姫”メルウ・グルゼ軍事伯配下の斥候である。


 この百姓夫婦に『代官所から帝国軍に報せろ。軍が来るまでの時間稼ぎに、聖女の方にだけ腹を壊す果実を入れるといい』と助言したのも彼女であった。

 ――もし、たまたま村を訪れていたチュカの助言がなくば、夫婦は自分たちだけで聖女を襲って捕らえようとし、ローランドに返り討ちで殺されていたに違いない。


(あの毛むくじゃらの“大剣”野郎め……)




 少女チュカは、“大剣”ローランドとの戦いを思い出す。


 夜の森の中で、帝国軍の斥候たちはひとりずつあの巨漢に襲われ、ふたつ名のもととなった剣で、あるいは素手や素足の蹴りで無残に殺されていったのだ。


 チュカ自身も追い詰められた。


「てめえ、この野郎……!

 ぶっ殺してやるでゴゼーマス!!」


「幼いとはいえご婦人が汚い言葉を使うのは感心しないな。

 それに、殺すもなにも追い詰められているのはきみの方だ」


 悔しいが、この毛むくじゃらの方が正しい。


「たしかきみは、前に私の脇腹を射った弓使いだな?

 あの矢はうるわしのエウァンシェリルを心配させた。それも感心できない」


「うるせえゴゼーマス!!

 てめえ、なにが『平和的な種だ。命は奪わん』でゴゼーマスか!

 聖女と話してたのを聞いてたでゴゼーマス!」


「――ああ、あれを聞いていたのか。照れるな。

 あれは嘘だ。

 うるわしいエウァンシェリルの前で、かっこつけたかっただけなのでね」


 だから今は、聖女の眠っている間に、こうして命を奪っていったのだ。


「悪く思わないでくれたまえ。

 殺しも嘘も罪ではあるが、私の手は過去にもっとひどい罪で汚れている。

 彼女がぐっすり眠るためなら躊躇はない」


 その後、拳による一撃を腹に喰らい、チュカは意識を失った。


 だが死んではおらず、大きな怪我もしていなかった。

 自分が女で子供だから手加減をされたのだ。


 それは死を上回る屈辱だった。


(あの毛むくじゃら野郎、絶対に殺してやるでゴゼーマス……!!)


 聖女とローランドは、街道に出たふりをして、本当は森へと戻るはずだ。


 次は決して逃がさない。



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