【13】
農家のおじさん、下着姿の私を見て鼻の下を伸ばすのでなく、照れて嫌がるところが、よく考えると上品だ。
やはり、このあたりは中央大聖堂からそこまで遠くないし、教会のおしえが行き届いていて、みんな道徳的にちゃんとしているんだろう。
あのクソ教会、それなりに世の中のためになっていたのかもしれない。
ともあれ、私とローランドは、おじさんの家にお世話になることにした。
古いながらも、意外に広くて立派な家だ。
部屋もいくつかあり、ちょっとしたお屋敷と言ってもいい。
なんでも三代前まで庄屋をやっていたのだとか。
「うちは家が広いで、旅人が来たときは宿もやっとるんだァよ。
あんたら、|銭{ぜぜ}は持っとるだか?」
値段は、ふたりで1泊、3ココズ(日本円にして約3万円)。
そんなに安い値段ではなかったが、森で疲れていた私たちにはありがたかった。
「ローランド、お金はありますか?」
「問題ない」
彼は物入れの袋からお財布の革袋を取り出すと、目の前でジャラッと中のお金を鳴らしてみせた。
「この通り、十分にある。
報酬を前金でもらっているからな」
私を大聖堂から脱出させた報酬のことだ。
そういえば、そんなことを言っていた。
横で見ていたおじさんも、まるまる膨らんだお財布を見て安心したようだった。
「実は、あんたらのフトコロ具合を心配をしておっただァ。『追いはぎに遭った』と言っとったからの。
――|銭{ぜぜ}があるならゆっくりしていくがええ。
今、女房に飯を用意させるだで」
「助かります」
「それと、お嬢さんに服を持ってきてやっただ」
服は、くすんだベージュのドレス。
いかにも農村の村娘が普段から着ているような、飾り気のない服だった。
奥さんのお古というだけあって古めかしいが、そんなに嫌いなデザインじゃない。
私は隣のお部屋で着替えるが、ひとりで着替えるなんてひさしぶりのことだったので大変だった。
いつもは小間使いに手伝ってもらってたので。(ちなみに式典用のドレスを脱ぐときも、ただ脱ぐだけなのにうんと手間取った)
着替え終わって広間に行くと、ローランドとできたてのお料理が待っていた。
「なかなか似合っているぞ。悪くない」
ちゃんと褒めてくれるのが、このゴリラの紳士たるところだ。
お料理は、白くて柔らかいパンに、川魚と野菜のシチュー、山鳥の脂身の塩漬けを炙ったもの。
パンは、大聖堂で食べていたものほど白くて柔らかいわけではなかったが、森で食べていた保存食の『兵隊パン』みたいに固くもなければ嵩増し用の雑穀や草も入ってないので、おいしくて二度もおかわりを頼んでしまった。
シチューも鳥肉も、農村らしく塩味が強いが、それもまた最高だ。
今の私は、農家のおじさんたちより疲れて塩分を必要としていたのだから。
私は、おじさんたちがあきれるほどの量を食べ、
ローランドは逆に『あんた体がでかい割にはそんなに食べねえだな?』と驚かれる程度の量を食べ終えた。
(おじさんたち、きっと私を『はしたなくて育ちの悪い女』と思っているでしょうね……)
食べている間は必死だったが、落ち着くと顔から火が出そうだ。
◆ ◆ ◆
その後、私たちはふたりで一息ついていた。
「さて……。
そろそろ、きみにも言った方がいいだろうな」
ローランドが、おじさんと奥さんが広間から出ていったのを確認したのち、
やたら神妙な顔で、うんと声をひそめながら耳打ちしてきた。
「なんでしょう? 重要なお話なのですか?」
「ああ、重要だ。
実はだな――」
彼は、皮袋のお財布を取り出し、私に見せる――。
「実は、金が無い」
「……えっ? 嘘でしょう!?」
教会からの報酬をもらったはずだし、今、現にお財布が|貨幣{コイン}でジャラジャラ鳴っているのに。
「本当だ。
私はたしかに教会金貨16枚を前金でもらったのだが……
あの美しい修道女マーヤ・ヤーマにいっぱい食わされたらしい」
革袋を開けると、中には――、
「――ジャラ、ジャラ、ジャラ、ジャラ」
という声で鳴く、コイン型の土くれが16枚入っていたのだ。
鳴き声は、表面についた小さな唇が発していた。
「これは……
小型の簡易ゴーレム!?」
「もらったときは、たしかに金貨だった。
あの美しい修道女め、こいつを金貨に見せかけていたのだ」
“秘蹟”(神聖魔法)だ。
『ゴーレムの法』。
その上で、このゴーレムたちがさらに『見た目だまし』の術を自らにかけ、しばらくは金貨のふりをしていたのだろう。
かなり高度な術だった。
(この唇……マーヤ・ヤーマにちょっと似てる。
ゴーレムの顔は術者に似ると聞いているけど――)
だとすれば、あの老修道女が術者ということになる。
とんだ食わせ物だった。
「でも、どうしましょう……!
このままじゃ、おじさんと奥方に宿代を払えません!!」




