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聖女と世界一かっこいいゴリラ  作者: 毒アリクイ先生
12/17

【13】

 農家のおじさん、下着姿の私を見て鼻の下を伸ばすのでなく、照れて嫌がるところが、よく考えると上品だ。


 やはり、このあたりは中央大聖堂からそこまで遠くないし、教会のおしえが行き届いていて、みんな道徳的にちゃんとしているんだろう。

 あのクソ教会、それなりに世の中のためになっていたのかもしれない。


 ともあれ、私とローランドは、おじさんの家にお世話になることにした。


 古いながらも、意外に広くて立派な家だ。

 部屋もいくつかあり、ちょっとしたお屋敷と言ってもいい。

 なんでも三代前まで庄屋をやっていたのだとか。


「うちは家が広いで、旅人が来たときは宿もやっとるんだァよ。

 あんたら、|銭{ぜぜ}は持っとるだか?」


 値段は、ふたりで1泊、3ココズ(日本円にして約3万円)。

 そんなに安い値段ではなかったが、森で疲れていた私たちにはありがたかった。


「ローランド、お金はありますか?」


「問題ない」


 彼は物入れの袋からお財布の革袋を取り出すと、目の前でジャラッと中のお金を鳴らしてみせた。


「この通り、十分にある。

 報酬を前金でもらっているからな」


 私を大聖堂から脱出させた報酬のことだ。

 そういえば、そんなことを言っていた。


 横で見ていたおじさんも、まるまる膨らんだお財布を見て安心したようだった。


「実は、あんたらのフトコロ具合を心配をしておっただァ。『追いはぎに遭った』と言っとったからの。

 ――|銭{ぜぜ}があるならゆっくりしていくがええ。

 今、女房に飯を用意させるだで」


「助かります」


「それと、お嬢さんに服を持ってきてやっただ」


 服は、くすんだベージュのドレス。

 いかにも農村の村娘が普段から着ているような、飾り気のない服だった。


 奥さんのお古というだけあって古めかしいが、そんなに嫌いなデザインじゃない。


 私は隣のお部屋で着替えるが、ひとりで着替えるなんてひさしぶりのことだったので大変だった。

 いつもは小間使いに手伝ってもらってたので。(ちなみに式典用のドレスを脱ぐときも、ただ脱ぐだけなのにうんと手間取った)


 着替え終わって広間に行くと、ローランドとできたてのお料理が待っていた。


「なかなか似合っているぞ。悪くない」


 ちゃんと褒めてくれるのが、このゴリラの紳士たるところだ。


 お料理は、白くて柔らかいパンに、川魚と野菜のシチュー、山鳥の脂身の塩漬けを炙ったもの。


 パンは、大聖堂で食べていたものほど白くて柔らかいわけではなかったが、森で食べていた保存食の『兵隊パン』みたいに固くもなければ嵩増し用の雑穀や草も入ってないので、おいしくて二度もおかわりを頼んでしまった。


 シチューも鳥肉も、農村らしく塩味が強いが、それもまた最高だ。

 今の私は、農家のおじさんたちより疲れて塩分を必要としていたのだから。



 私は、おじさんたちがあきれるほどの量を食べ、


 ローランドは逆に『あんた体がでかい割にはそんなに食べねえだな?』と驚かれる程度の量を食べ終えた。


(おじさんたち、きっと私を『はしたなくて育ちの悪い女』と思っているでしょうね……)


 食べている間は必死だったが、落ち着くと顔から火が出そうだ。



◆          ◆          ◆




 その後、私たちはふたりで一息ついていた。


「さて……。

 そろそろ、きみにも言った方がいいだろうな」


 ローランドが、おじさんと奥さんが広間から出ていったのを確認したのち、


 やたら神妙な顔で、うんと声をひそめながら耳打ちしてきた。


「なんでしょう? 重要なお話なのですか?」


「ああ、重要だ。

 実はだな――」


 彼は、皮袋のお財布を取り出し、私に見せる――。


「実は、金が無い」


「……えっ? 嘘でしょう!?」


 教会からの報酬をもらったはずだし、今、現にお財布が|貨幣{コイン}でジャラジャラ鳴っているのに。


「本当だ。

 私はたしかに教会金貨16枚を前金でもらったのだが……

 あの美しい修道女マーヤ・ヤーマにいっぱい食わされたらしい」


 革袋を開けると、中には――、



「――ジャラ、ジャラ、ジャラ、ジャラ」



 という声で鳴く、コイン型の土くれが16枚入っていたのだ。


 鳴き声は、表面についた小さな唇が発していた。


「これは……

 小型の簡易ゴーレム!?」


「もらったときは、たしかに金貨だった。

 あの美しい修道女め、こいつを金貨に見せかけていたのだ」


“秘蹟”(神聖魔法)だ。


『ゴーレムの法』。

 その上で、このゴーレムたちがさらに『見た目だまし』の術を自らにかけ、しばらくは金貨のふりをしていたのだろう。


 かなり高度な術だった。


(この唇……マーヤ・ヤーマにちょっと似てる。

 ゴーレムの顔は術者に似ると聞いているけど――)


 だとすれば、あの老修道女が術者ということになる。

 とんだ食わせ物だった。


「でも、どうしましょう……!

 このままじゃ、おじさんと奥方に宿代を払えません!!」



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