【12】
私――エウァンシェリルと傭兵ローランドは、
ついに、あの広い森を抜け、人里へとたどり着いたのだった。
小さい、ささやかな農村だ。
「さっそく食べ物を分けてもらいましょう。
それに、できれば泊めてもらいたいところですね。
ひさしぶりにベッドで眠りたいです」
森の中では、枯れ葉の上に、穴だらけの毛布一枚で眠っていた。
ベッドとお布団とシーツが恋しい。
もちろん文句を言ったら、自分の毛布を譲ってくれたローランドに悪いのだけど。
ローランドは『自分はゴリラで毛皮があるから毛布は不要だ』と言ってくれていたけど、本当にいらないなら毛布は持ち歩いていないはずだ。
「行きましょう!」
「いや、その前に……。
エウァは、その恰好で村人の前に出る気かね?」
そうだった。
私が着ているのは、教会の式典用ドレス。
頭には冠までかぶっていた。
これでは、私は聖女だと宣伝して歩いているようなものだ。
「どうしたものか。着替えなど用意していないのだし……。
私が人間なら、自分の衣類を貸すのだが。
今ほどゴリラであることを悔やんだことはない」
「ローランド、全裸ですものね」
だが、どうしたものか。
まさか、服を脱いで裸で村に行くわけには……。
「――そうだ、いい方法を思いつきました!」
わりと、その『まさか』の手だ。
◆ ◆ ◆
私たちは村に入ると、ちょうど野良仕事をしていた村人に声をかけた。
「あのお、そこのお方――。
私たち、旅の者なのですが、この村に1日か2日、お世話になりたいのですが……」
私の言葉に、|鋤{すき}を引いていた村人のおじさんは、
「お嬢さん、そのかっこう、どうしただね!?」
――と、私の姿に驚いていた。
「なんで、往来を下着姿で歩いとるだ?」
「これは、その……いろいろ理由があるのです。
つまり、ええと――追いはぎにやられて」
そう。
私は下着姿に、上から毛布を一枚羽織った状態でここにいた。
下着といっても、上流階級用のやつだから、モコモコのかぼちゃズロースにキャミソールだ。
前々世の地球の日本じゃ、下手をするともっと薄着でみんな町を歩いてた。
その上、(あちこち穴だらけとはいえ)毛布を羽織っていれば、なんとかなると思っていたのだが……。
(というか、村人のおじさん、下着を意識しすぎじゃない?
べつにセクシーランジェリーってわけじゃないんだし!)
野良仕事中の土だらけの顔で、思いっきり照れていた。
ちなみにローランドは、真っ黒いゴリラの顔を苦々しくしかめていた。
「エウァ、だから言っただろう。
いちかばちかで、はしたない姿を晒すものじゃないと」
みたいね。
穴だらけなのは毛布でなく、私の考えだったらしい。
「とにかく、あんたら、わしの家に来るがええ。
女房のお古でよければ服を譲ってやるだで、そんなかっこうで歩くでねえ」
「ありがとうございます……」
結果としては、どうやら上手くいったらしい。
正体も気づかれずに済んだ。
『はしたない女』と思われたかもしれないが、まさか聖女だとは思われてはいないようだ。
「けンど、このへんにも追いはぎなんて出るだあな……。
大聖堂で戦があったというし、世の中物騒になってんのかもしれねえだ。
――そっちの黒くてでっかい旦那も、お連れをしっかり守らにゃあ」
「そうだな、面目ない」
ローランドは、ばつが悪そうに頭を掻く。
しかし、おじさん、よく考えたら、私の下着よりゴリラで驚きなさいよ。
ゴリラの方が珍しいでしょ。
(まあ、このへんは教会の中央大聖堂からそこまで遠くないし、影響強い地域だから当然か……。
教会の教義で、異民族を差別しないように教えてたから)
神聖ル・ウース教会は、全体的には悪徳宗教のくせに、信徒相手には立派なことを言っていた。
それとも悪徳宗教だからこそなのだろうか。
ともあれ私とローランドは、村人のおじさんの家へと向かう――。




