崩れゆく日常
今回少しだけ長くなったので2つに分けての投稿となります。
「笠置の後継者に相応しいのは満場一致の文句なしで竜司だな」
「…でもあの子次男でしょ…?長男を差し置いてそんな…」
「今はもうそんな時代じゃないんだよ。今は実力至上主義…年功序列の世界じゃなくなったんだよ、霊能者は…」
またこの夢か、記憶の夢…。
思えばPhantom絡みの事件に巻き込まれてからずっとだ……。
俺って昔から霊能者だったんだな。
朧げだけど少しずつ記憶が戻ってきてる、そんな実感が湧いてきた。
◇◇
目を覚まし起き上がる、いつも通りの朝。
たった4年程度ではあるが住み慣れたボロい一軒家の我が家。
家中隈なく探しても俺の家族の痕跡はどこにも見当たらなかったから、きっと恐らくここは俺の生家ではないのだろう。
「……」
ふと自分が今まで何を目標に生きていたのかが気になった。
この4年間の中に生きがいというかそんなものは全くと言っていいほど見つからない。
せいぜい勉強や読書をして自分の知識を高めるぐらいだったが、それも別に目的らしい目的があるわけでもなかった。
「…くだらないな」
らしくもなく感傷に浸ってしまった。
最近おかしな事件にばっかり巻き込まれているからか、自分が自分じゃなくなっていくような錯覚すら感じる。
ーー今さら記憶なんて戻らなくてもいいのに…。
◇
竜司「…いっ!?」
恋「……なに?」
竜司「い、いや何でもない…」
家を出て少し歩くと何故かレンの奴が立っていた。
…まさかこいつ俺が出るのをわざわざ待っていたのか?
もしかして、こいつ昨日の一件で俺のことを…。
「…君が1人でぼんやり出歩いてPhantomに捕まったりでもしたら後が面倒」
…どうやら気のせいらしい、またらしくもないことを考えてしまったな。
「というかそんな頻繁にPhantomなんて現れるのか?この前の通り魔は九条先生の仕業だし、それ以前はそんな兆候どこにもなかったぞ?」
「普段はそこまで気を張らなくても大丈夫だけど、昨日の「黄昏」が気になる。あんな芸当が出来る人間がこの町に潜んでいるなら警戒するに越したことはない」
昨日の一件、そんなに大変な事態だったのか…。
よく考えてみれば学校に人の気配が無かったのってもしかして…。
とんでもない想像が頭を過り、俺は生唾を飲み込む。
「…そんなにあの「黄昏」っていうのはヤバいのか?」
「少なくとも私の知る限りでは鷲也クラスの霊能者じゃないと扱えない」
つまり、九条先生に相当するレベルの危険人物か…。
いくら俺が霊能者としての才能があるって言っても、実の所は今まで何故死ななかったのが不思議なくらいのド素人だ。
そろそろ何か手を打たないとヤバいか…。
◇
何事もなく学校に到着したはいいが、いつもお決まりのダル絡みが始まる…。
「お、笠置!おはよー!」
◇
「おっす笠置!ってお前いつのまに九条さんとそんな仲良く…!?」
◇
「笠置おはよう!この前の部活の助っ人助かったよ!また頼むわー!」
◇
「…ねぇ」
「…なんだ?」
「君ってもしかしてクラスで人気者だったりする?」
「誓ってそんな覚えはない」
…俺もいつも疑問に思っていた。
正直俺はクラスの連中にはまともな対応をした覚えはないし、本来なら話しかけすらされない嫌われ者なはずだ。
何故こんなにも連中から慕われているのか不思議でならない。
「…多分だけど可能性があるとしたら例の特異点じゃない?」
「…虎太朗のことか?」
確かに今思えば偶に休み時間や放課後に意識がなくなっていることがあったような気がしたが、あれはそういうことだったのか…。
「アイツ…余計なマネを…」
「君がクラスで浮かないように気を利かせてくれたんでしょ?」
「んなわけあるか。奴のことだ、十中八九面白がってやってるに決まってる」
「(この前話した感じだと、彼は竜司くんにかなり入れ込んでいる。この行動は彼の無意識の願望を叶えようとしてるようにも見えるけど…)」
◇◇
学校のちょうど向かい側に位置する雑居ビルの屋上、そこに双眼鏡を手にしながら片手に携帯電話を持ち会話をしているサングラスの男が1人。
「ーーあのガキが笠置の後継者…?冗談も休み休み言えよ」
「俺が冗談でそんなことを言う人間に見えるか?」
「見えるから言ってんだろうが……ま、俺の「黄昏」を破壊したからにはただのガキじゃねーとは思ってたが……まさか笠置とはな…」
昨日の一件を引き起こした犯人らしい男は苦々しい表情を浮かべる。
どうやら「笠置」という名は彼にとって鬼門らしい。
「あまり乗り気じゃないみたいだな」
「テメェ、俺が笠置にトラウマがあんの知ってて言ってんだろ!」
「とはいえ、あれはまだ未完成…。潰すなら今しかないと俺は思うがね」
電話の主は男を誘導するかのように言葉を続け、それを聞いた男も先ほどの表情から一転し真剣な表情になる。
「…それは俺も分かってる。今はビビってる場合じゃねーな」
「それじゃ前に言ってた件、よろしく頼むよ」
「おー、任せとけって鷲也」
男は電話を切り、後ろに置いてあるアタッシュケースから何かを取り出し下準備を始める。
「さてと、笠置のガキ…。テメーには悪いが悪友の頼みだからな。ーー恨むなよ…?」
男はモシン・ナガンM1891/30と呼ばれる狙撃銃を構え、スコープを覗く。
ーー平和な日常が崩れ落ちるカウントダウンが始まった。
◇◇
「!?」
何かの気配、いや殺気を感じ取った俺は勢いよく椅子から立ち上がり周りを見渡した。
とんでもなく嫌な予感がする…。
レンも俺と同じタイミングで椅子から立ち上がっていた、どうやらアイツも同じく殺気を感じ取ったらしい。
「ど、どうした?笠置…九条…」
ただならない雰囲気を感じ取った教師が恐る恐る俺達に声をかける。
ーー来る…!窓の外…!
「伏せろ!/伏せて!」
俺とレンが同時に叫んだその瞬間、教室の窓ガラスが粉々に飛び散った。
「な…!?なにがどうなってる…!?」
「じ、地震か…?」
窓の近くに寄って外を確かめる。
学校の近くには校舎とほぼ同じ高さの雑居ビルがあるが、その屋上に誰かいる…?
目を凝らさないと分からなかったがそこにいたのはサングラスをかけた男。
その手に握られているのは、狙撃銃…!?
◇
「…あのガキ、俺の攻撃に勘付きやがったのか?チッ、面倒だな…」
銃口を校舎から校庭へと変更し、発砲を続ける男。
どうやら弾痕で何か模様を描いているようだ。
「…校庭に銃弾で陣を精製っと。簡易式だがこれで結界が張れる。「黄昏」には及ばねぇが、今回の作戦にはこっちのが都合がいい」
◇
「!銃声…!?」
再び銃声が聞こえてくるが、こちらに銃は向けていない?
…?校庭に銃弾で模様が、嫌な予感がする…。
「あの模様は…結界の陣…?」
「結界だと…?まさか「黄昏」…!?」
「違う。「黄昏」はもっと大掛かりな準備が必要だから、こんな即席じゃ作れない。だからあれは、簡易式の結界」
「簡易式…?じゃあ大したことはないのか?」
「簡易式は範囲が狭い分強力なPhantomを行使することが出来るから場合によっては特殊結界よりも脅威になることもある」
つまり校門付近は完全にアウト。
だが裏を返せばそこ以外を通れば簡単に結界を突破して逃げることは出来る、だが…。
「か、笠置…?」
俺達の指示を聞いて咄嗟に身を伏せていたからか生徒や教師に大きな怪我はなかったようだ。
いつも話しかけてくるクラスメイトが俺に恐る恐る声をかけてきた。
「…おいレン、簡易式結界ってのはどうやったら解除できるんだ?」
「校庭に撃ち込まれている模様を崩してしまえば解除できるけど……竜司くん?」
俺の行動を察したらしいレンが意外そうな顔を向けてくる。
「あぁ…逃げるのはナシだ。結界を解除して、可能ならあのサングラス男も叩く」
「…てっきり君のことだから結界なんて無視して逃げるかと思った」
「俺もそうしようと思ってたんだけどな、ここまで巻き込んどいて俺だけ逃げるのもカッコ悪いだろ?それに放っておいたら学校そのものが潰されかねない」
それに俺自身とは大した関わりはなくとも、虎太朗が仲良くしてたんだったらそれはもう俺と無関係じゃない。
だったら俺も最低限の筋は通すとしよう。
ーーじゃないと目覚めが悪いからな。
「…わかった、私も手伝う」
「助かる。よし、それじゃ…」
「その心意気、確かに受け取ったわ。そんじゃお膳立てぐらいはしといたる、ありがたく思えよ?」
頭に突如響く聞き慣れてしまった声。
アイツ、また勝手に…。