第4話 最期の反撃
ショウとサイの目の前にいる悪魔はいままで倒してきたような、人間一人では到底太刀打ちできる相手ではなかった。それはあれだけの短時間で何人もの人間を殺してきたことから簡単にわかることであろう。
「うーんこれはどうしましょうか、姿も見られてしまったし殺すしかないですが、こいつを早くあの方に献上しなければ……」
そういいながらエリカのほうを見る、サイの予想通りエリカは人質で、何かしらの作戦のためにエリカが必要だったということだろう、ではなぜエリカなのか……そんなことを考えながら悪魔が次の攻撃をしてきてもいいようにショウは悪魔に向かって剣を構え続ける。サイはなぜか困惑した表情をしながら顔をキョロキョロと動かし剣を身構えている。
「エリカを返して投降するんだ!」
おそらく絶対にないであろうが、悪魔がエリカを離して投降するように促す。しかしその言葉が悪魔の琴線に触れていたのか、怒りの表情をあらわにし始める。
「人間ごときが私に命令ですか……まぁ私も……いえ、早く殺して急いで戻らなければ……」
怒りを鎮めながら行動しているようにみえるが、プライドが高いのかショウたちを心底見下した様子を見せながら剣を持った手とはもう一つの手でエリカを抱えながらナイフのような短刀を投げる動きを見せた。腕を使うことなく手の力だけで、普通の人間には飛ばせない速さでナイフを投げる。ナイフを一本ではなく二本投げたということはサイとショウに対して一本ずつ投げるのであろう。予想通り黒く染まった短刀のようなものがショウとサイに1本ずつ飛んでくるが、軌道がわかっていたのでショウは避ける。しかしサイは避ける様子もなく黒い短刀がサイの腹部に突き刺さる、予想だにしないサイの負傷にショウは困惑しながらサイに駆け寄る。
「サイさん!大丈夫ですか!?なんで避けなかったんですか!!」
サイは刺さった後も訳が分からない様子を見せながら腹部に刺さった短刀を見る。
「どこから飛んで来たんだ!!クソっこんな攻撃どこから……」
そういいながら腹部に刺さったナイフを抜こうとする、しかしまったく抜ける様子はなく力技で抜こうとすると激痛が走る。ナイフを抜くのをあきらめた様子を見せながら短刀が飛んできた方向を見て衝撃の言葉がサイから飛び出てくる。
「おい!ショウ!あそこに悪魔がいるぞ!!俺にはわかる、人間の振りをしているが確実に人間じゃねえ!!それにエリカも」
「はぁ!?何言ってるんですか!!さっきからあそこにいましたよ!」
ショウは何を言っているのか分からないという表情をしながらサイに詰め寄る、ずっと悪魔二人とも見えているという前提で話していたが、確かにサイが悪魔と会話した記憶もないし、先ほどからキョロキョロと顔を違う場所に向けていた、これもショウにしか見えていのか、だとしたら攻撃を受けた時にサイが見え始めていたことに疑問も持てる。
「はっはっは、愚かな人間ですねぇ、あの白銀の兵士たちもこんな表情を浮かべながら死んでいきましたよ、あなたたちがここへ来たときコウモリを見ませんでしたか?」
店を出た時確かにコウモリを見た。二匹ほどのコウモリが自分たちの目の前に姿を現し、逃げていく様子を見た記憶がある、しかしそれと見えなかったことの何の関係があるのだろうか。
「私の能力はそのコウモリを見せた人間から私の存在の認識を一度攻撃するまで奪うことができるんです、なので貴方も私が剣で攻撃するまで気づかなかったでしょう、まあなぜか剣を避けられたんですがね」
いきなり剣が目の前に飛んできた上に、剣が生えるように持ち主が認識できなくなっていたのも能力のせいだ、ショウはその時点で攻撃を食らい、悪魔の存在が認識できるようになっていたが、サイは攻撃を食らっていなかったので、まだ悪魔の認識を確認することができなくなっていた。
「クソ、俺はその能力とやらに騙されてまんまとこのナイフを受けちまったわけか、不甲斐ねえ」
サイは攻撃を受けて重症にも関わらず、ヨロけながらも剣を構える、普通に戦える状態ではないのにここまでするのは、サイの先輩としての威厳を保つためなのか、国を守ろうという心なのかは分からない、しかしサイの中には何かしらの覚悟があることを感じさせた。
「まぁそこに転がっている兵士たちも同じ手で殺してるんで生きているだけでもすごいと思いますよ、その短刀、吸血ヒルの短剣と言って刺したものに寄生して血を
奪い続けるんです、あなたそろそろこの世から退場してください」
その心ない言葉にショウは怒りを浮かべ、その吸血鬼のような見た目をしている悪魔に向かって攻撃をし始める、しかし昔のショウとは思えないほどの速さで紅い眼を光らせながら悪魔に向かって剣を振る、エリカを持っている腕を、エリカに当たらないように腕だけを切り刻むことは少し前のショウには到底できなかったことであろう、これも紅き眼の能力であるのかは現時点ではわからないが、ショウも自分自身の身体能力の向上に驚きながらも使いこなす。
「まずい……!あの方に献上する供物が!!」
悪魔の腕が切られたと同時にエリカが悪魔から離れる、その隙を突きエリカを抱えサイに身を渡す、サイはもう戦える体ではないため、エリカと一緒にいてもらい休ませ、自分が戦えばいいと思っていた。しかし目覚めたばかりの能力で互角に悪魔と戦うには限界があるようだ。
「よくも!!……私の腕を!!人間ごときがあああああ!!!」
吸血鬼の悪魔は怒り、ショウに剣を振るいながら攻撃を続ける、何度も何度も剣を振るい、それを何とかショウは受けさばいているが、先ほどから自分の身体能力以上の動きを続けているせいで、体は限界を迎え動かなくなってきていた。
「くそ!せっかく戦えるかもしれない力をもらったのに、結局死ぬのか!!!」
ショウは何とか受け流しながら限界を超えるように動く、その様子をエリカを休めていたサイは、何かを覚悟したかのように見ている。
「エリカ……俺、お前らの未来を命で買うことにするよ、何とか生き残ってくれよな、二人とも」
サイはそう一言気絶しているエリカに話しかけると青い液体の入ったビンのようなものを持ち、吸血鬼の悪魔に向かって走り出す。
「ショウ俺に任せろ!!」
サイは現在も吸血ヒルの短刀で血を吸われ続けているとは思えないような動きで悪魔に向かって剣を振る。
「おかしいですねえ!!もう今頃あなたは血がなくなって倒れていてもおかしくはないんですけどね!!」
吸血鬼は突進するように向かってくるサイを刺すように剣を前に突く、ショウは突きが来たところで避け、がら空きになったところを攻撃するサイの作戦、そう思った。しかし悪魔が放ったツキはそのままサイの心臓を貫く。サイは表情を変えることなく悪魔の顔を見る。
「冥途に一緒に付き合ってもらうぜ悪魔さんよォ!!」
サイは悪魔を自分と固定したところで持っていた青い液体の入った瓶を割る。するとその割れた液体から漏れた青い液体は悪魔の顔を直撃した。
「ギャアアあああああああああああ!!クソ人間めえ!!!何をしやがった!!」
悪魔はその液体が触れた瞬間激痛が走り、皮膚が溶けていく、どうにかして顔から液体を取り除こうと切り取られてないほうの手で触るも液体が触れ手の皮膚も解け始める。
「聖水だ……クソ野郎!!、弱い悪魔に投げる為なんだが……おまえにも効いたようだな……!」
サイは血を吐きながら悪魔にしがみつく、しかし貫かれたことにより力が抜けたのか、悪魔にそのまま蹴られ、ショウの方向に飛ぶように攻撃を受ける。
「サイさん!!なんであんなこと……」
すると倒れこんだサイは最後の力を振り絞るように言った。
「先輩に最後くらいかっこつけさせてくれや……、お前とエリカが楽しく暮らしているところをあの世からしっかり見てやるから、絶対悪魔をぶったおしてエリカを救うんだぞ」
その言葉を残し、サイは動かなくなる、これが死、目の前に起きた出来事に現実から目を背けられないままショウも一言だけ残す。今まで言えなかった言葉を、もう聞こえているか分からないまま一言だけ、サイに伝えた。
「サイさん……かっこよかったです」
その言葉を聞いた後サイは、何故だか少し穏やかな表情になっているような気がした。