お呼び出し
次の日からは通常の勉強に加え、ハーブの研究も追加された。料理はもちろんだが、紅茶を飲む習慣があるようなのでハーブティーを作ってみた。あとは個人的に香り付きのリンスが欲しかったのでラベンダーをドライハーブにして香油を作り、余ったドライハーブで香り袋も作ってみた。ハーブティーと香油はリーサとグレダリアに大層喜ばれました。
そんな日々を過ごしていたある日。季節はもう夏に突入していた。いつものようにストライフに勉強を教えてもらっていると、リーサの身の回りの世話をしている侍女のアナが慌てた様子で部屋に駆け込んできた。
「何事ですかアナ! 来客中ですよ!」
「ソフィアお嬢様、奥様がお呼びです。至急、来るようにと!」
「えっ」
バタバタと部屋に駆け込んできたアナを叱責するミリアだったが、アナの言葉に驚き弾かれたように私へと視線を向ける。え、私何かしたっけ。
「ただ事ではないようですね。本日はお暇致しましょう」
ただならぬ雰囲気を感じ取ったストライフが空気を読んで席を立つ。
「ストライフ先生、申し訳ございません」
「良いのですよ。気になさらないでください。また四日後にまいります」
優しい笑みを浮かべるストライフを見送って、私は急いでリーサの部屋へと向かった。ミリアがリーサの部屋をノックすると、すぐに「お入りなさい」と返事が返ってきて、部屋の中へと入る。椅子に腰掛けたリーサが硬い表情で私を迎えた。
「そちらにお掛けなさい」
促され、緊張した面持ちでリーサの向かいに座る。一体何を言われるのだろうか。知らず、ごくりと喉が鳴った。
「……こちらをご覧なさい」
リーサが差し出したのは一枚の手紙だった。
「お母様、これは?」
「ご領主様の第一婦人からの手紙です。先程届きました」
領主の第一婦人。……領主の第一婦人!?
「え、なぜそのような御方から!?」
全く繋がりが見えないんですけど?
突然の出来事に全く頭がついていかない。戸惑いを見せる私とは対照的にリーサは深く溜め息を吐いて頭を押さえた。
「……モーリスがね、治療していたお城の騎士の方に貴女のハーブ研究の事について話してしまったそうなのよ。そこから人づてでご領主様の耳に入ってしまってね。第一婦人のオーレリア様が大層気になっていらっしゃるそうで、是非一度お話を聞きたいと……」
え。ええええー!!
「……それって断ったりは」
「出来るわけないでしょう」
「デスヨネー……」
わかってましたけども。
何をどうやったらそこまで話が膨れ上がるのか。なぜ領主の耳にまで入る事態になるのか。
「三日後の一の刻に第一婦人のお茶会に招かれなさい。わたくしも同席します。ハーブ関連のものを持って行くように」
「……はい」
私もリーサも気乗りしないまま、お城に何を持って行くのか相談してこの日は終わった。夜、夫婦の寝室からはモーリスの必死に謝り倒す声が聞こえたとか聞こえなかったとか。