美味しいは正義
そして夕食の時間。モーリスとリーサ、そしてグレダリアと私の4人で夕食を迎える。指定の席に座ると、続々と料理が運ばれてくる。
「ソフィアよ、フォンネルから聞いている。ハーブを使った料理を作ったそうだな?」
「はい、お父様。とても美味しくできたと思います」
マーニーから太鼓判をもらったのだ。きっと皆も喜んでくれるだろう。因みに本日の料理は柑橘類のドレッシングを使ったサラダとカプレーゼ、トマトスープ、メインはシーフ肉のハーブソテーだ。さすがにパンは難しいので私は関与せずいつものパンをマーニーに焼いてもらった。
「早速食べてみましょう」
「とても良い匂いだわ」
リーサとグレダリアは目の前に並べられた料理に目が釘付け状態で、モーリスも二人の声に頷いてフォークを手にする。それぞれが思い思いの料理を口にして、三者三様の反応をする。
「この白いものは何かしら? とっても濃厚で美味しいわ」
「ポムの実のスープ、とても美味しいわ! 野菜の旨味がギュッと詰まってる!」
「これはシーフ肉か? 臭みもない、脂っこさもない、香りも上品でとても美味だな……」
私が作った料理は気に入ってもらえたらしい。こっそりと後ろに控えているミリアを見てふふ、とお互いに笑い合った。
「ハーブを使う事によって、こんなにも美味しくなるとは思わなかったな」
一通りの食事を終えた頃、家族皆で紅茶を飲みながら夕食の料理について話し合う。
「独特な味付けだったけれど、とても美味しかったわ」
「わたくしはあのチーズというのが一番お気に入りだわ」
「あれだけ美味しく食べやすい料理を作れれば、食欲のない者でも食べれてしまいそうだな」
マーニーから聞いたのだが、基本的にこちらの料理の味付けは塩、胡椒、砂糖くらいだ。野菜を煮込んだりするので野菜の旨味は感じられるが、それ以外はほとんどない。バターとか鶏がらとか、工夫すればもっと味付けのバリエーション増やせるのになあ。
「それでソフィアよ。今回の料理には一体何のハーブを使ったんだ?」
一頻り語り合って満足したのか、モーリスがハーブについて尋ねる。さて、ここからどう話を持っていくか。
「今回の料理には、シリーヌ草、キャラフィム、スティーリー、マーメルを使っております。お父様はそれぞれの効能をご存じでしょう?」
「もちろんだ。消化促進、抗菌作用、血液循環、鎮静、便秘改善などが一般的だな」
「さすがお父様です。私が思ったのは、ハーブは基本的に薬の調合に使われます。ハーブの効果は薬に用いられる通り間違いなくありますが、体の不調を訴える人しか摂取しません。そこで、毎日の食事にハーブを用いる事で、体調改善や病気の事前予防が出来るのではと思ったのです」
食生活は生きる要だ。偏った食べ物ばかり食べれば当然体に不調も出てくる。薬膳料理の要領でハーブを摂取すれば、体内環境が改善され大きな病気に掛かりにくく、美容にも効果がある。やらない手はないのだ。
「……うむ。一考の余地はあるな。ソフィア、しばらく続けてみなさい」
「ありがとうございます、お父様」
「でもなぜいきなりこんな事を思いついたんだ?」
「っ……」
無事許可が下りてほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間。次に飛んできた質問にドキリと胸が脈打つ。言えない。あっちの世界では料理にハーブを使うのはよくある事だったので、なんて絶対言えない。
「……おっ、お父様は領主様のお城の治療師でしょう? 少しでもお父様のお仕事の役に立てればと思って必死に考えたんです」
「……」
えーその沈黙怖いよ! ……この言い訳失敗?
「……ソフィアは私の事をそんなにも考えてくれていたのか。良い子に育ってくれて父は嬉しいぞ」
モーリスの目が感動に潤んでいる。あ、誤魔化せたみたい……よかった。