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ハーブ発見!


 それからしばらくは同じように勉強の毎日だった。2日に一度ほど歴史や文字、計算など基礎的な座学を行ない、それ以外は話し方やテーブルマナーなど、貴族としての立ち振る舞いのお作法を勉強する。そんな毎日を一月ほど過ごす頃にはストライフと私、そして侍女のミリアはすっかり仲良くなって、ミリアを経由して家に仕える召使いの人や厨房で働く人とも仲良しになった。


 今日は勉強がお休みの為、自宅の周りを散策する予定だ。一人歩きは危険なので、ミリアとフォメール家の護衛騎士であるフォンネルが付き添ってくれている。家の周りはぐるりと庭で囲まれており緑が多い。モーリスやリーサの趣味なのだろうか。暖かな風が頬を優しく撫でていく。絶好の散策日和だね。

 ふと、庭の隅にビニールハウスのような建物を見つける。


「ミリア、あれは何?」

「あちらはハーブ園でございます。旦那様はお城の騎士寮で治療師をしていらっしゃいますので、研究の一環としてハーブを育てていらっしゃるのですよ」


 あっ、ふーん。お父さんってお医者さんだったのね。初めて知った。どうりで家でモーリスをあんまり見かけないと思ったら、騎士寮のお医者さんだったのか。大変そうな職業だな。


「中に入っても良いかな?」


 新しいものに興味津々状態の私に、ミリアとフォンネルが優しい眼差しを向ける。幼い子を見守る大人の目だ。まあ、実際見た目が子供なので間違ってはいない。


「旦那様からは指定された場所以外は好きに見てよいとご許可を頂いている。問題ない」

「良かったですね、ソフィア様」


 大人の許可を得たので、早速中に入ってみる。中は綺麗に整理されていて、部屋いっぱいの緑で溢れていた。ハーブの良い香りで満ちている。端から順番に眺めていくと、色とりどりの見慣れぬハーブの中に、見覚えのあるものを見つける。


「……ローズマリー?」


 これってローズマリーだよね。あれ、あっちにあるのってバジルじゃないかな?


 思わず駆け寄ってしげしげと眺める。間違いない。日本での記憶にある形と一緒だ。


「シリーヌ草がどうかされましたか?」


 後ろから声を掛けられてハッと我に返る。心配そうにこちらを見つめるミリアに一瞬躊躇いを覚えるが、思い切って口を開いた。


「ミリア、シリーヌ草は主にどういう用途で使うの?」

「え、シリーヌ草ですか? 私はハーブにはあまり詳しくありませんが……一般的には回復薬や胃薬の調合などに使われると旦那様から伺った事がございます」

「他のハーブも薬の調合に使われる以外に使用用途はないの?」

「ハーブは薬草ですから、薬の調合以外で使うなんて聞いた事がないですね……」

「私も旦那様にお仕えして10年は経つがそんな話は聞いた事がないな」


 こちらの世界では薬草という認識だから、薬の調合以外では使わないのか。料理に使ったら絶対もっと今より美味しくなるのに……。


 これを言うべきか私は迷った。言ったら絶対変に思われるとわかりきっているからだ。一ヶ月ほど生活してみて気付いたのだが、こちらの世界は日本での文化と比べると、なんというか、劣っているのだ。魔法ありきの生活を送っているからというのもあるだろう。灯りや水道などの設備は基本的に魔道具だし、魔力を流せば使えるので特段生活していく上で困りはしない。でもベッドはスプリングはなく木のベッドだし、料理は単調な味付けが多くレパートリーが少ない。数字の計算もそもそも計算式というものがあまりないのか計算過程の無駄が多い。魔道具の種類もそんなに多い訳ではないし、基本的には魔法ありきか、全て手作業なのだ。


 心配そうな目線を受け止めながらしばらく悩んでいた私は、一度目を閉じた後、言おうと決意して顔を上げた。魔道具云々はともかく、ハーブを料理に使うのは消化不良の改善や病気の予防にも繋がる。知っていて損はない知識だ。もしかしたらモーリスの仕事にも何か繋がるかもしれない。


「あの、少し試してみたい事があるの。ハーブを少量もらっても良いかしら?」

「試してみたい事、ですか?」

「ええ。家のどこかにあった本で見かけたんだけど、薬として用いられてる通りハーブには不眠改善や消化促進、病気の予防など様々な効果があるの。そのハーブを料理に用いて日常的に摂取する事によって、料理を食べながらにして体調改善出来るのではと思うのだけれど」


 というのは建て前で、少しでも料理の味を改善したいというのが本音なんだけどね。


 私の真剣な訴えを見た二人が、お互いに顔を見合わせる。そして頷き合って、また視線をこちらに戻した。


「私が旦那様にハーブの採取を確認してみよう」

「ソフィア様、私感動致しました。そのような素晴らしい考えをお持ちだなんて」


 二人とも感動で目に涙を滲ませている。え、そんな情に訴えかけるような事言ったっけ?


「コーディナル」


 フォンネルが首に右手の人差し指と中指を当てて、耳慣れぬ言葉を呟く。フォンネルの周りの空気が微かに揺らめいて魔力を使ったのだと理解した。


「旦那様、お勤め中申し訳ございません。……いえ、そういう訳では。はい、実は……」


 魔法でモーリスと会話しているようだ。フォンネルにはモーリスの声が聞こえているのか。先程「コーディナル」と唱えた魔法は携帯電話みたいな役割なのだろう。モーリスとフォンネルがスマホで会話しているのを想像してしまって、思わず吹き出しそうになってしまった。

 そんな事を考えている内に会話を終えたらしいフォンネルが首から手を下ろして私を見た。


「旦那様からのご許可が出ました。ただし、夕食時にハーブを使った料理を旦那様に召し上がって頂く事が条件だそうです」

「お父様に? ……わかったわ。厨房をお借りしましょう」


 少し予想外の方向に話は流れてしまったが、まあ大丈夫だろう。私は了承してハーブを何種類か摘み取り、厨房へと向かった。


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