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魔法の授業


 昼食を終えると今度は魔法についての授業だ。お腹も膨れたし、休憩して頭もスッキリしたし、ファンタジーな世界どんとこい、の態勢である。


「さて、午後からは魔法についての授業になります。魔法については今回は初めての授業になりますので、基本的なところからまいりましょう」

「はい、よろしくお願いします」

「まず、基本的に魔法が使えるのは王族と貴族のみになります」

「平民は使えないのですか?」

「いえ、そういう訳ではありませんが、平民は神の御手みてを持ちません」

「神の御手?」


 神の御手とは、神々から祝福され産まれてきた時に授かるものらしい。神の御手を持たぬ平民も魔力自体は微量ながらに持って産まれるが、神の御手を持たぬ為魔力を操る事は難しく、生活魔法くらいしか使う事はできない。


「使える魔法というのはそれぞれが持つ属性に左右されます。授かる属性は生まれた季節によって決まっており、例えば春に産まれた子は春の女神フィルルミリアの祝福により風、火、光の属性を持ちやすいのです。基本的には風が優先的に授かりやすいのも春の女神フィルルミリアの特徴ですね」


 春に産まれた子は春の女神フィルルミリアの祝福により、風、火、光の属性を授かりやすい。夏に産まれた子は夏の神デュオニソスの祝福により火、土、光の属性を。秋に産まれた子は秋の女神ヘレスティネーの祝福により土、水、闇の属性を。冬に産まれた子は冬の神エーシュリオンの祝福により水、風、闇の属性をそれぞれ授かる。


「属性は複数授かる事はできますか?」

「もちろんです。私の場合は冬の産まれですので、水と風の属性を持っております。ソフィア様も冬のお産まれですので、水、風、闇いずれかの属性をお持ちだと思います。そして太陽の神アポトロス、月の女神セレフィアーナの加護を受けた者は特別です。一般的には季節の神々の祝福を持って産まれる子は最大3つまでしか属性を持ちませんが、始祖神に愛された子は全ての属性に対して適性がございます。かの英雄王アトラスは太陽神アポトロスに愛された御方でしたので、全属性の持ち主でございました」

「属性によって何が変わるのでしょう?」

「冒頭でご説明したように、使える魔法に偏りが生じます。例えば私の場合は水と風の属性持ちですので水と風の魔法は得意ですが、火や土など他の魔法は使えないわけではございませんが苦手なのです。まあ、中には全く使えないという方もいらっしゃいますが」


 属性に適性がないからといって使えないわけではないらしい。威力が落ちるとか、魔力を操りづらいとか、そういう感じなのだろうか。


「ストライフ先生は適性が無くても使えるんですね」

「はい、幸いな事に。といっても、せいぜい中級魔法程度までしか扱えませんが」


 私もその内魔法を使えるようになるのだろうか。ちょっと楽しみだ。


 一通り初心者向けの座学を終えたところで休憩に入る。ミリアが紅茶とクッキーのような形のお菓子を用意してくれて、ストライフと共にまったりとしたひと時を過ごした。

 簡単な知識は覚えたけれど、神の話の時も感じだが魔法の話もやはりファンタジーな内容なだけにいまいちピンと来ない。こればかりは体験してみない事には実感はわかないのかもしれない。


「さて、そろそろ休憩は終わりにしましょうか」


 軽く両手を叩いてストライフが休憩の終わりを告げる。次は何をするのだろうか?


「先程は魔法について簡単なお勉強を致しましたが、次は実際に魔力を感じてみましょう」

「魔力を感じる?」


 ついにファンタジーを体験できるのかな。


 何をするのかとドキドキしている私に、ストライフは両手を差し出すように指示してきた。言われた通りに両手を前に出すと、軽い力でストライフの手によって両手を握り込まれる。


「今から私がソフィア様に魔力を流しますので、目を閉じて集中し魔力を感じて下さい」

「はい」


 そっと目を閉じて集中していると、握り込まれた両手の内右手がじんわりと温かくなっていく。


「右手が少し暖かい気がします」

「それは私が流し込んでいる魔力です。右手がじんわりと温まってきたら、今度はそれをゆっくりと体に巡らせて下さい」

「巡らせる……?」

「そうです。感じた温度をエネルギーに変えて、血液の流れに添うように体内に循環させて下さい」


 感じた温度をエネルギーに……。


 右手に感じる温度を指先からゆっくりと血液を流すように体中に巡らせるイメージを思い浮かべる。その熱は手から腕、そして肩へと移動し、胸元を通って心臓へ。心臓に溜まった熱を酸素を送り込むように吐き出し、吐き出された熱はお腹から腰へ、そして足から足先まで巡っていくようにイメージを膨らませていく。右足から今度は左足へ、心臓に返ってきた熱を今度は左手へ。そうしていくと、熱は体内に留まり、ゆっくりと全身を巡っていく。


「……上手に魔力を留めていらっしゃいますね。今度はその熱を私に流してみて下さい」


 ストラフの指示に従い、左手を握っているストライフの手へ熱を吐き出すように送り込んでみた。


「これは……素晴らしい。なんと心地の良い魔力でしょう……」


 魔力を受け取ったストライフが、私の魔力を感じて目を細める。そっと握られた両手が離され、私は目を開けた。


「大変結構です。きちんと魔力を体内に留めていらっしゃいますね」


 体に仄かな熱を感じる。これは先程まで感じなかった熱だ。これが魔力なのか。自分の体の変化に少しの不安と、大きな期待が膨らむ。私、今ファンタジーしてる!

 そういえば先程ストライフは私が流した魔力を心地の良い魔力と言っていたっけ。


「あの、ストライフ先生。心地の良い魔力って言ってましたが、そうじゃない場合もあるんですか?」

「もちろんです。むしろほとんどがその逆ですね」


 他者から送り込まれる魔力とは、一般的には気持ち悪く感じる事が多いらしい。人によって魔力の性質というのは異なる為、異物に感じるのだとか。魔力が枯渇状態に陥った時、場合によっては他人に魔力を流して分け与える事もあるけれど、不快に感じる行為のためほとんどしない。人によっては痛みを感じる人もいるそうだ。一方、仄かな熱を感じるだけであったり、心地良く感じる事が多いのは家族や恋人といった親しい間柄の人が多い。親密度によって変わるって事なのかな?


「でも私、ストライフ先生の魔力は別に不快に感じませんでしたよ?」


 つまり相性が良いという事なのだろうか。きょとん、と首を傾げるとストラフはクスクスと楽しそうに笑った。


「私が魔力をお流しした時は、ソフィア様はまだ魔力を自覚していらっしゃらない状態だったので、そもそもお体が魔力に慣れていないため不快に感じたりは致しません。ご自身の魔力に慣れた時に同じように魔力をお流ししたら今度は不快に思われてしまうかもしれませんね」

「不快に感じなかった場合は?」

「もしも不快に感じず、むしろ甘美なもののようにお互いが感じられた場合は……」


 ――それは運命の相手という事です。


 口元に人差し指を当て、声を潜めてこっそりとストライフが告げる。え、それって恋愛的な? 結婚しちゃう的な意味で?

 思わぬ恋話への展開に恥ずかしさと弾む乙女心で仄かに顔が熱くなる。その様子を見てストライフはまた楽しそうに口元を緩めた。


「ソフィア様にはまだ早いお話でしたね。さて、本日はここまでに致しましょう。しばらくは体内で魔力を循環させる事を意識して、魔力を安定させてください」

「はい。ありがとうございました、ストライフ先生」


 しっかりと復習しておくように、と言い残してストライフは帰宅していった。

 魔力が安定したら炎とか出せるようになるのかも、と思うとワクワクが止まらなくて、私は三の刻を知らせる鐘が鳴り夕食のお時間ですよ、と声が掛かるまで夢中で魔力を循環させる作業に没頭した。

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