表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第四章 ガロリオン王国の動乱

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/370

99.ホークラン攻防戦、開戦

 ダンリーはソームズ公領の公都、堅城として知られるホークランの威容を目にして、戦慄(せんりつ)を覚えた。


 人口は三十万に近い大都市で、城壁の高さは十メートルを優に越える。

 海に面しており、北は港湾、南に正門、東西にもそれぞれ門がある。


 城壁の要所要所には塔が建てられており、そこには多くの兵士が詰めていて、こちらの攻撃を待ち構えている。


 厄介なのは水堀である。深さはここからではわからないが、海から引き込まれた海水が都市を取り囲んでいる。

 幅は八メートル程度だが、高い壁と合わせて敵を寄せ付けない。


 話には聞いていたが、聞くと見るとでは大違いだ。

 王都の城壁も鉄壁だと思っていたが、ここと比べれば雲泥(うんでい)の差がある。



 ダンリーはホークランからおよそ二キロ離れたところに、陣営を築いた。


 敵は当然、連合軍が攻めてきていることに気付いている。

 すでに跳ね橋は上げられ、ホークランは水に囲まれた孤島と化していた。



「これは力攻めでは落とせませんね」


 副将のギラタンが淡々と言った。


(何をわかりきったことを言ってやがる)


 ダンリーはいら立っていた。

 城壁を越えるためにハシゴをかけて兵士を登らせたとしても、死体の山を築くだけであるのは、王都攻めのときに経験している。


 では、あのときソームズ公がやったように、攻城塔で攻め込んではどうか。


 しかし、攻城塔を城壁に取りつかせるには、堀が邪魔である。


 まず堀を埋めなければならないが、それには大量の土が必要になるだろう。

 そして埋める作業をしている間、敵が黙って見ているわけがない。上からは矢の雨が降ってくる。


 堀はただ埋めただけでは駄目だ。地面をきれいに(なら)さなければならない。均した地面でなければ、攻城塔の車輪が動かないからだ。


 敵の攻撃をかいくぐって堀を埋め、攻城塔を城壁に隣接させるなど、とても可能とは思えない。


 また、港から物資が入ってくるため、兵糧攻めも不可能である。敵は何年でも籠城を続けることが可能だろう。


 ホークランの港を封鎖することができるのは、近くに海軍を持っているタンメリー家だけであるが、シャラミアの再三の要請にもかかわらず、まだ動こうとはしない。

 タンメリー家には期待しないほうがいいだろう。


「そんなことは言われなくてもわかってる。じゃあ、どうすりゃいいんだよ!」


 ダンリーはいらだって聞いたが、ギラタンはまた、わかりきったことを答えた。


「敵を城外におびき出して、野戦で勝負をつけるしかないですね」

「それができりゃ苦労はない。敵は出てこないだろう。数では圧倒的にこちらが多いんだから」


「ソームズ公は、頭に血が上りやすい性格という評判です。挑発すれば、怒って出てくるかもしれませんよ」


「挑発か……まあ、それしかないかな」


 ダンリーはやってみることにした。「ギラタン、おまえはそういうの、得意そうだよな」


 ギラタンは首をすくめた。


「ダンリー殿ほどじゃありませんよ。あなたは人を怒らせる天才ですからね」


(言ってくれるじゃないか)


 ギラタンがダンリーを嫌っているのはわかっているが、それはお互い様だ。

 こんな奴でも、他に優秀な部下がいない以上、うまく使わなければならない。


「挑発はおまえに任せる。声がでかい兵士を集めておけ」


 そう命令した。




「おい、腰抜け公、いつまで城にこもってガタガタ震えてやがる!」

「そんなに俺たちが怖いのか! この恥知らずめっ!」

「悔しかったら、出てきて戦ってみろ!」


 連合軍の兵士たちは、矢の届かないギリギリの場所から、罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせ続けている。


 城壁の上に立つ兵士たちは、それを黙って聞いている。相手にしないようにと命令が出ているのだろう。


 だが、どの兵士の顔も怒りに赤く染まっている。

 とうとう我慢できなくなった兵士の一人が、言い返してきた。


「閣下をこれ以上侮辱するな! この矢をくらえ!」


 そう言って矢を射かけてきたが、もちろん届かない。挑発を続ける兵士たちの、はるか手前に矢は落ちた。

 矢を射かけた兵士が上官に殴られているのが見えた。おそらく軍令違反で罰を受けることになるだろう。


 ダンリーとギラタンは、そんな光景を離れたところから見ている。


「効果はそれなりに出てるんじゃないですか?」


 ギラタンの言葉を、ダンリーは否定した。


「雑兵が怒ってもしょうがないだろ。かえって向こうの士気が高まるぞ。ソームズ公が怒らなきゃ意味がない」

「まあ、そうですね。ひょっとして、ソームズ公は城内の部屋にこもっていて、聞いてないのかも」

「いや、間違いなく聞いている。奴は常に前線で兵士たちの中に身を置く奴だ」


 王都攻めの時もそうだった。だからこそ、兵士たちからあれほど慕われているのだ。


 ダンリーは、今のやり方では、手ぬるいと感じた。


「これ以上続けても無駄だ。やり方を変えるぞ。僕が挑発の指揮をとる」


 ダンリーはそう言うと、ギラタンに指を突き付けた。「僕が人を怒らせる天才だって? いいだろう、そこまで言うなら、手本を見せてやろうじゃないか」




―――




 ソームズ公は城壁に立つ塔から、敵が放つ罵詈雑言を聞き流していた。

 連合軍が挑発をしてくるのは予想していたことだ。


 敵にとって、ソームズ軍がこの堅城に閉じこもっている限りは手の出しようがない。なんとか野戦に誘い出そうとするのは当然だ。


(だが、私はそんな挑発に乗るほど愚かではないぞ、ダンリー)


 敵の総大将がアクティーヌ・ダンリーだと知った時も、ソームズ公は決して気を緩めなかった。


 ダンリーは王都攻めの時には、(つたな)い戦術で民兵たちの多くを無駄死にさせた。


 だが、だからといってダンリーが無能だとはソームズ公は思っていない。

 民兵たちを死なせたのは、彼らの命がダンリーにとって、どうでもよかったからだ。


 民兵たちは全て王領の民であって、アクティーヌ公領の民ではなかった。

 だから平気で彼らを死地に追いやったのである。


 一軍を率いる将として、それはもちろん許されざることだ。ソームズ公もダンリーに対しては嫌悪の情しか感じない。

 だが、ダンリーは酷薄(こくはく)ではあるが、無能ではない。


 王都での戦いでは、結局アクティーヌ家の兵は一人の戦死者も出さなかった。

 にもかかわらずアクティーヌ家は、美味しいところだけを手に入れている。


 シャラミア女王はアクティーヌ家の領地を加増し、アクティーヌ公を宰相に、ダンリーを大将軍に任命した。

 つまり、王領の政治と軍事を、共にアクティーヌ家が担うことになったのである。これ以上の成功はあるまい。


 ダンリーの将としての力が非凡であることは、ここから彼らの布陣をながめていてもよくわかる。


 連合軍の整然と組まれた隊形は、まったく隙が見当たらない。

 兵士たちの動きはきびきびしており、規律が保たれている。


 敵は王家の軍の他に、アクティーヌ家、ルロア家、カルデモン家、そして傭兵からなる寄せ集めの軍だ。


 五万人を超える寄せ集めの軍を、ここまで見事に統率できる大将は、なかなかいない。


「腰抜け公、出てこいや!」

「ギャハハハ、きっと今ごろ、どうやって逃げるか考えているんだぜ!」

「こんな臆病な領主の下で生きている民衆はかわいそうだな!」


 敵の罵る声が絶え間なく聞こえてくる。


 悪口を言われて、平気なわけではもちろんない。

 誇り高いソームズ公にとって、腰抜けと罵られるのは我慢ならないことだった。


 だが、挑発を繰り返している兵士たちの後ろには、闘気に満ちた敵の大軍が控えているのだ。


 怒りの感情に任せて、負けることが確実な戦場に出て行くわけにはいかない。

 彼は一万人の兵士と三十万人の住民たちのリーダーであり、味方を危険にさらすような真似ができるはずがない。


 それからしばらくして、外が静かになった。どうやら、挑発をしていた兵士が引き揚げるようだ。


「なんだ、もう終わりか? もう少し聞いていたかったものだがな」


 ソームズ公は、周囲の兵士たちに余裕を見せた。


「我らが反応しないので、諦めたのでしょう」


 近くにいた騎士が答えた。


(ふむ、ダンリーも思ったより諦めが早いな)


 だが、それから数時間後、また敵陣から兵士たちがぞろぞろと出てきた。

 その中には、おかしな衣装を身にまとった者たちがいる。女の恰好をした者までいるようだ。


「何を始める気だ?」


 ソームズ公をはじめ、騎士、兵士たちがいぶかしげに見守る中、「人を怒らせる天才」ダンリーの脚本、演出による喜劇の幕が上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on 新作長編
黒蛇の紋章

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ