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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第四章 ガロリオン王国の動乱

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96.潜伏する人々

「ジスタス家では駆けつけ五杯と言いましてな。まずは飲ませて頂きます」


 プリオン神父はそんなことを言って、白い僧服を着たまま、赤ワインを手酌(てじゃく)で飲み始めた。




 政人たちは、ムーヤが入れてくれた紅茶とお菓子でお茶会をしていたのだが、そこへ、ムーヤに呼ばれてプリオン神父がやってきた。


 神父は年齢は四十代前半といったところだろうが、髪はかなり後退している。

 顔が大きいわりに、クリっとした小さな丸い目はアンバランスで愛嬌がある。

 がっしりした体つきで肩幅が広く、僧侶というよりもレスラーのようだった。


 ロッジの顔を見た神父は破顔一笑し、ロッジと抱き合って歓迎の意を表した。

 その後、政人たちを紹介し、じっくり話を聞こうとしたところ、どこから持ってきたのか、赤ワインを開けて飲み始めたのだ。



「昼に飲む酒はなぜ旨いのか。いつかこの神学的な問題を解明しなきゃなりませんな。がっはっは!」


 一同が(あき)れて見ているのをよそに、訳の分からないことを言って飲み続けている。


「プリオン神父はとても良い人なのですが――」


 ロッジが言い訳をするように言った。「ジスタス家では、男は酒に飲まれてこそ一人前という家風がありまして……」


「ひどい家風であるな」


 ハナコが代表して感想を述べた。


 ムーヤも嘆かわしいという様子を隠さずに言った。


「ロッジ坊ちゃんは一人前にならないほうがいいですよ」


 政人も呆れていた。

 すでにかなりできあがっているようだ。とりあえず、話が通じるうちに話を聞いておかねばならない。


「ジスタス公領が王領に編入されてから、そろそろ三ヶ月になりますが、住民の様子はどうですか?」


 政人の質問に、神父は飲みながら答えた。


「王家は、重税を取り立てる以外のことは、何もしとらんですなあ。この町はまだマシな方ですが、それでも自ら奴隷になる者が出てきています。奴隷になりゃあ、少なくとも食わせてはもらえますからな。もともと貧しかった村などでは、老人を山に捨てたり、赤子を間引いたりしたという話も、聞いてまさあ」


 政人は気分が悪くなった。


「そんな状況の中、あんたはいいご身分だな。真昼間から酒を飲んで」

「信者が寄進してくれるんでさ。いやあ、神父になってつくづく良かったと思いますよ」


 プリオン神父は、政人の皮肉にも気付かぬ様子で飲み続けている。

 ミーナがキレた。


 メモ帳になにやら罵詈雑言(ばりぞうごん)を書き込んでいたが、面倒くさくなったのかメモ帳をしまい、ワインのボトルをつかんで、残っている中身を神父の薄くなった頭に、どぼどぼと流しかけた。


 神父はきょとんとした顔で固まっている。

 誰もミーナを非難する者はなかった。むしろよくやった、という顔をしている。


「みなさん、ごめんなさいね」


 ムーヤが神父をタオルでふいてやりながら言った。「飲まなきゃ、この人もいい人なんですが」


(今はこれ以上、話を聞けそうにないな)


 政人たちは気まずい雰囲気のまま、解散した。




―――




 夕食後、神父とムーヤは隣の教会に出かけて行った。信徒たちと共に、五神への祈りをするのだそうだ。


 酔って酒臭い状態で信徒たちの前に出るのかと不審に思ったが、ムーヤによれば神父としての仕事はちゃんとやっているそうだ。


 確かに酒を飲み過ぎなければ、悪い人物ではなさそうだ。官憲に通報されることはないだろう。


(寝るまでの時間、何をするかな)


 人目を避けなければならない身で、外出するわけにはいかないだろう。

 皆が見ている前でルーチェといちゃつくのも嫌だった。

 読書でもしようかと思ったが、この家にある本を勝手に読むのも気が引けた。


 そこで、最近タロウと遊んでいないことに思い当たった。ここに来るまでの山道では、ボール遊びができる場所がなかったのだ。


 政人は恋人ができたからといって、ペットをないがしろにするような飼い主にはなりたくなかった。

 とはいえ、外でボール遊びをして目立つわけにはいかない。


「タロウ、なにかボール遊び以外で、やりたい遊びはあるか? 家の中でできるのがいいんだが」


 本人に希望を聞いてみることにした。

 タロウはうーんと考え込んでいる。


「お気持ちは嬉しいのですが、今は大変な時なので、オレのわがままのために御主人様に迷惑をかけたくはないです」

「タロウ、遠慮するでない。イヌビトが御主人様に遊んでもらうのは、当然の権利である」


 ハナコはそう言うと、懐から愛用のタオルを引っ張り出した。


「おぬしも一緒にタオルの引っ張り合いをせぬか? 一度もやったことがないであろう。楽しいものであるぞ」


 タロウは微妙な表情をした。

 彼は普段から、政人とハナコがタオルを引っ張り合っているのを見て、どこが面白いのか理解できない、といった顔をしている。


 そんなタロウの表情を見て取ったハナコは、タロウを無理矢理立たせた。


「やってみもせずに、つまらんと決めつけるでない。なんでも試してみるものである」


 タロウは仕方なくタオルの端をつかみ、ハナコと向かい合った。

 皆が居間に集まって、その様子を見物している。


(まあ体力的に考えて、タロウの方がかなり強いのはわかりきってるから、手加減ぐらいはしてやるだろう)


 政人はそう思ったが、初めてのタロウには加減の仕方がわからなかったようだ。


「はじめ!」


 政人の開始の合図と共に、タロウは思いっきりタオルを引っ張った。


「んわっ!」


 引っ張られたハナコは、タロウに向かって突っ込んでいく。


 タロウは、ハナコがここまで弱いとは思わなかったようで、あまりの手応えのなさに驚き、タオルを引っ張った勢いのまま後ろへ倒れていく。


 そこへハナコが、タロウに体当たりをするようにしてぶつかった。


「わわわっ!」

「んわあーっ!」


 タロウの後ろには祭壇がある。

 その場にいた全員がまずい、と思ったが時すでに遅かった。


 ドガシャーン!!


 後ろにあった祭壇に、二人の体は激しく衝突した。


 幸いにも、木製の祭壇それ自体は壊れることはなかったが、祭壇に安置されていた五神の像や、ろうそく、花などが辺りに散乱した。


「ごめんなさいーっ!」

「心よりお詫び申し上げまする」


 土下座して謝る二人を前に、政人はため息を吐いた。


「仕方ない、片付けよう。そして、後でムーヤさんに謝ろう」


 皆で手伝って、片付けはじめた。


「えーっと、確か光の女神が真ん中だったよな。その左が火の神だっけ?」

「火の神は土の神の隣ではなかったかのう」

「神父かムーヤさんに確認した方がよさそうですね」


 とりあえず五体並べておく。順番は後でそろえよう、と思っていると、肩をぽんぽんとたたかれた。


(ん?)


 ミーナが何か言いたそうに立っていた。その顔は青ざめている。


 彼女は黙ったまま、その手に握られている神の像を政人に見せた。


 政人は祭壇を確認する。既に五体の像がそこに置かれていた。


 と、いうことは、今ミーナが手に持っているのは――六体目の像?


「闇の神……」


 クオンがつぶやいた。

 そう、それは両目を閉じた、長髪の男性の神――闇の神の像だった。ここにあるはずのないもの、あってはならないものである。


「どこにあったのですか? 私がさっきここで祈った時には、そんなものは……」


 ロッジが戸惑っている。

 ロッジだけではない。全員が、これを異常な事態だと認識している。


「御主人様、これを見てください」


 タロウが祭壇の上部を指差している。


 見ると、そこに描かれているのは正五角形のシンボル――ではない。六つの辺と頂点を持つ図形、正六角形だ。


 タロウの足元には、正五角形の絵が描かれた紙が落ちている。

 どうやら、さっきの衝撃で紙が剥がれ、その下に描いてあった絵が表れたようだ。


 メイブランド教の象徴である正五角形の各頂点は、光、火、土、風、水の五柱の神を表しているらしい。


 とすると、正六角形は――


「見つかってしまったか」


 その声に振り返ると、部屋の入り口に、プリオン神父とムーヤが立っていた。あり得ない発見に夢中になって、彼らが帰ってきたのに気付かなかったようだ。


「神父、どういうことですか、これは!」


 ロッジがプリオン神父に詰め寄った。

 神父は答えられずに(うつむ)いている。その体からはもう、酒の匂いは感じられない。


 政人はすでに理解していた。

 以前に本で()()()()()()()がいる、と書かれていたのを読んだことはあったのだ。だが、本当にいるかどうかは半信半疑だった。


「神父とムーヤさん、私たちは決してあなたたちを非難するつもりはありません」


 政人は二人を安心させるように、おだやかな口調で言った。「あなたたちは、()()()()()()()ですね?」


「わしらだけではない」


 神父は諦めたように言った。「ここ、エルクールの町の住民は、全員がそうだ」

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黒蛇の紋章

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