表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第三章 玉座への道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/370

78.逃亡

 政人たちは裏門から脱出した。政人はタロウの後についていく。

 そこでは、木に繋がれた一頭の馬が草を()んでいた。


「申し訳ありません。一頭しか連れてこられませんでした」

「それは仕方ないさ。一人で二頭の馬を制御するのは難しいからな」


 タロウが手綱を握り、政人は後ろに乗ることになった。


「はっ!」


 タロウが馬を駆けさせた。徐々に王都から遠ざかっていく。

 地面がぬかるんでいて走りにくそうだったが、やがて舗装された街道に出ると、スピードを上げた。


「ホークランへ行くのか?」


「はい。その前にまずは、ソームズ公領との境界にある検問所に行きます」


 タロウはそこで、すまなそうに付け加えた。「ミーナちゃんをそこに預けて、ホークランまで連れて行ってくれるように、兵士の人にお願いしてきました」


「俺はおまえに、ミーナをホークランまで連れて行くようにと、命令したぞ」

「申し訳ありません。あとでオレに罰を与えてください」

「命令に従わなかったのか」


「命令を破ってでも、御主人様を助けに行くべきだと判断しました。御主人様はきっと王都で捕まっているだろうと思ったからです。それで王都に侵入し、御主人様の匂いを探っていたところ、兵士たちに捕まっている御主人様を見つけたんです」


「なぜ俺が王都で捕まっていると思った? 俺が何をするつもりか、話していなかったはずだが」


「考えたんです。御主人様ならどうするだろうかと。あの時の御主人様は、とても思いつめた様子だったので、危険を顧みずに、女王を問い詰めるのでは、と思ったんです」

「そうか」


(実際には問い詰めるどころか、ただ怒りをぶつけただけだったがな)


「御主人様に初めて会った次の日、オレにおっしゃいましたよね。命令がなくても、自分で判断して、適切な行動を取れるようになれと。だからオレは、たとえ御主人様から罰を受けることになったとしても、命令に背いて御主人様を助けに行くことにしたんです」


(そういえば、そんなことを言ったな)


 イヌビトにとって、飼い主の命令に従わないことは、それだけで強いストレスになる。

 それでもタロウは、命令に背いた。政人を助けるために。


「罰など与えないさ」


 政人はタロウの頭を()でた。「罰を受けるべきは、俺の方だな」




 馬が走るのをやめてしまった。

 政人とタロウの二人を背に乗せ、全速力で走り続けていたが、限界がきたようだ。へたりこんで、動かなくなってしまった。


「申し訳ありません。ペース配分を考えるべきでした」

「仕方ない、馬は置いて行こう」


 周囲を見回した。まだ時間が早いため、街道を行く人の姿は見当たらない。

 だが、追手が迫っていると考えた方がいいだろう。


「もうかなり進みましたから、頑張ってあと三、四時間街道を走れば、検問所に着くはずです」


(フルマラソン並みだな)


 だが走らねばならない。

 死を覚悟していたはずの政人だったが、一度「助かるかも」と思ってしまったため、死の恐怖がぶり返している。


 政人とタロウは走り始めた。


 だが、まったく疲れる様子を見せないタロウに対して、政人は三分ほど走ると、もう息が上がった。体力がないのに加えて、靴のサイズが合っていないために走りにくいのだ。

 しかもかなりの傾斜の上り坂である。


 それでもなんとか力を振り絞って走り続けたが、三十分後にはもう走れなくなった。


「頑張ってください、御主人様。追手が来ているかもしれません」


 そう言われて、なんとか足を動かし続けた。


「うあっ!」


 政人はつまずいて、倒れこんだ。


「大丈夫ですか!」

「くっ……、足首をひねったみたいだ」


 走ることはできそうにない。無理をすると、さらに痛めることになるだろう。

 政人の足の状態を確かめたタロウは、政人の前に腰をかがめた。


「オレが背負っていきます」


 そうするしかなさそうだ。政人はタロウにおんぶしてもらった。


 それから十五分ほど進んだ時だった。

 タロウの耳が、その音を聞きつけた。


「御主人様、あれを!」


 タロウにうながされて振り向くと、はるか眼下に見下ろす街道を、騎馬の集団が十人ほど、こちらに向かって駆けてくるのが見えた。向こうも政人たちの姿を認めているだろう。


 政人は絶望的な気分になった。


(街道を進まず、森の中を突っ切るべきだったろうか。……いや、それじゃきっと道に迷っていたな。それに、今さらそんなことを考えてもしょうがない)


 馬から逃げ切ることは不可能だ。覚悟を決めなければ、ならないようだ。


「もう駄目だ、逃げ切れない。タロウ、おまえだけでも逃げろ」


「その命令は聞けません」


 タロウは再び前を向き、走り続けた。「大丈夫です。もう少し進めば、安全なところに出ます」


(安全なところなどあるわけがない)


 と思ったが、口には出さなかった。


 後ろを振り返ると、追手はさらに距離を縮めているのが見えた。間違いなく、政人たちを認識している。


 それからしばらく進んだところで、タロウは鼻をくんくんさせた。


「ここで街道を外れます」


 そしてタロウは、道の左側の(やぶ)の中に入って行った。


「タロウ、そっちに行くと、検問所から遠ざかるぞ。右に行った方がいい」

「いえ、こっちで間違いありません。オレを信じてください」


 そう言われては従うしかない。タロウに任せることにした。

 タロウは息を切らさずに走り続ける。足元には獣道(けものみち)があるようだ。


 それからしばらくして、タロウが妙な事を言い出した。


「……御主人様、オレは悪いイヌビトです」

「ん? 何を言ってる?」

「でも、どうか……嫌いにならないでください」


 政人が不審に思っていると、崖にぽっかりと洞穴が開いているところに出た。


 洞穴の幅は大人が手を広げたほどだ。高さはやや低く、入るには、かがまねばならないだろう。奥行きがどうなっているかは、わからない。


 タロウは洞穴の奥に向かって、大声で呼びかけた。


「オレだ、タロウだ! 出てきてくれ!」


 すると、洞穴の中から十歳ぐらいの少年が出てきた。

 頭から獣のような丸い耳がはえており、目の周りには黒い隈がある。政人はこの少年に見覚えがあった。


「ポンチャ?」


 政人がそう言うと、少年の顔はほころんだ。


「オイラなんかの名前を覚えててくれたんですね」


 忘れるわけがない。

 人に化けることができるタヌキビトの少年で、以前に政人の万年筆を盗んだかどで、棒叩きにされそうになっていたところを、助けてやったことがある。


「タロウ、オイラの出番が来たってことだよな」

「ああ、そうだ。すぐに街道に出てくれ。十人ほどの騎馬隊が迫っている」

「わかった」


 そしてポンチャは、葉っぱを頭にのせ、両手で印を結ぶと「ドロン」と声を出した。


 ポンチャは政人になった。

 顔、髪型、体型だけでなく、服装も今の政人と同じく、白黒ボーダーの囚人服になっている。


 ポンチャのやろうとしていることを、政人は察した。


「おい、タロウ!」


「検問所から王都へ向かう途中、この辺りでポンチャの臭いを嗅ぎつけたオレは、彼に会って()()()をしました」


 タロウは政人と目を合わせずに言った。「もちろん、この手を使わずに済めば、それで良かった。でも万が一に備えて、打てる手は打っておきたかったんです」


「タロウを責めないでやってください」


 ポンチャの声は落ち着いていた。「あれからオイラ、いろいろ考えたんです。オイラの化ける能力を使って何かできないかと。でもなかなか思いつきませんでした。そんな時、タロウからこの話を聞いて『これだ!』って思ったんです。オイラの尊敬する人を助けられるなら、オイラの力には意味があったんだって」


 政人は愕然(がくぜん)とした。


「俺がおまえに『考えろ』と言ったのは、そんなくだらないことを――」

「ポンチャ、後は頼んだ」


 タロウは、政人の言葉を途中で遮った。


「任せろ」


 ポンチャは街道に向かって走り始めた。


「おい、待て!」


 政人は叫んだ。「タロウ、あいつを止めろ!」


「その命令も聞けません」


 そう言って、タロウは政人を背負ったまま、ポンチャとは違う方向に走り出した。


(バカ野郎! 俺は子供の命と引き換えに助けられるような、立派な人間じゃないんだぞ! 間違えてシャラミアに協力してしまったために、大虐殺を引き起こしてしまうような間抜けなんだ!)


 ポンチャの背中はどんどん遠ざかり、見えなくなった。




―――




「いたぞ、マサトだ!」


 ダンリーは街道の向こうに政人の姿を見つけて、歓喜の声を上げた。一旦は藪の中に入っていったが、道がなくて進めなかったのだろう。また街道に姿を現したのだ。


 白黒の囚人服を着た政人はこちらに気付いたのか、街道を右に逸れ、草原に入って行った。


「馬鹿め、馬を相手に逃げ切れるものか」


 ダンリーは部下に命じた。「弓を構えろ。射程距離に入ったら、射ち殺せ」


「はっ」


 政人は必死に逃げていく。

 その背中に恐怖を感じ取ったダンリーは、ニヤリと笑った。


(ふん、口だけは達者な奴だったが、逃げる姿は無様だな)


 だんだん政人との距離が縮まっていく。

 そして、弓の射程範囲に入ると、部下の一人が馬上で弓を引き絞り、狙いすました一射を放った。


 矢は狙いを(あやま)たず、政人の心臓を射貫(いぬ)いた。

 政人は倒れて動かなくなった。


「でかした!」


 部下を褒めると、ダンリーは政人の死体に近づいて行った。




「どういうことだ……?」


 政人を殺したはずだ。

 だが近づいてみると、その死体は政人とは似ても似つかない、小さな子供のものだった。

 頭からは獣の耳が、おしりからは尻尾が生えている。ケモノビトだ。


 ダンリーは死体を足で仰向けにした。


「タヌキビトか」


 ダンリーは、タヌキビトの少年が政人に化けていたことを理解した。

 政人を逃がすために、自らが犠牲になったようだ。


「クソッ! この僕が化かされるとは!」


 ダンリーは地団駄を踏んで悔しがった。そして、改めてタヌキビトの少年の顔を眺めた。


「それにしても……なんでコイツはこんな満足そうな顔で死んでやがるんだ?」


 ポンチャの表情は、偉業を成し遂げた男の誇りに満ち(あふ)れていた。


 そしてその右手には、高級感のある万年筆が、まるで大切なお守りのように、しっかりと握られていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on 新作長編
黒蛇の紋章

― 新着の感想 ―
俺はこういう展開に弱い あまりにも弱過ぎる 心が砕けそう
[一言] ぽんちゃあああああああ;;;;;; どう再会するかなと思っていたらまさかこういうことになるなんて・・・
[一言] 読んでてめちゃくちゃツラいっす… それでも、先が気になるから読んじゃう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ