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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第三章 玉座への道

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75.狂者と悪魔

 政人たちは闇の神殿を出た。


 政人は聖司教の死体を見た後、放心状態でしばらく立ち上がれなかったが、今は足取りはしっかりしている。


 かと言って、立ち直ったわけではない。

 その顔は、彼を知る者が見れば別人かと思うほど、憔悴(しょうすい)している。


 タロウは自分もショックを受けているのだが、政人の様子を見て、自分がしっかりしなければと思った。


「御主人様、ホークランに戻って、ルーチェさんと合流しましょう。そして休んでください。御主人様には休息が必要です」


「俺なら大丈夫だ」


 全く大丈夫とは思えない声で、政人は言った。「タロウ、お前はミーナを連れて、ホークランに戻ってくれ」


「え……、御主人様はどうされるのですか?」

「俺にはやることがある」


「だったらオレも一緒に――」

「ミーナを一人にできないだろ」


 ミーナは不安そうな表情のまま、政人の腕にしがみついている。


(俺がこれからやろうとしていることに、誰も巻き込むわけにはいかない)


「御主人様を一人にするわけにもいきません。今、ひどい顔をされていますよ。いったい、何をしようとするつもりなんですか?」


「それは言えない」


(こんなことを考えている俺は、既に壊れているのかもしれない)


 タロウは、政人が一人で何か危険なことをするつもりなのではないか、と思った。

 なんとかそれをやめさせるため、説得しなければならない。


「まずミーナちゃんと一緒に戻りましょう。ルーチェさんやクオン君もいますし、ソームズ公も力を貸してくれるはずです。御主人様ひとりで背負わないでください」


「タロウ」

「はい」


「ミーナを連れてホークランに戻れ」


 そして政人は付け加えて言った。「命令だ」


 飼い主の命令は絶対である。命令と言われたタロウは、うなずくことしかできなかった。




―――




「税の減免には応じられません。あなたの村だけが苦しんでいるわけではないのよ」


 シャラミアは玉座から男を見下ろし、冷淡に告げた。


「し、しかし陛下、もう村には食べる物がないのです。自分たちの分まで税として取られてしまったのです」


()()()()? 税は取られるものではなく、()()()ものです。言葉を間違えないように」


「し、失礼しました。ですが、このままでは飢えて死ぬ者も出てくるでしょう。どうかお慈悲を頂けないでしょうか」


「あなたたちジスタス公領の民は、今まで王領の民が重税で苦しんでいた間、ずっといい暮らしをしていたのでしょう? 国の財政が落ち着くまで、しばらく我慢しなさい」


 陳情者は、かつてジスタス家が治めていた村の村長である。

 ジスタス家を取り潰したことで、ジスタス公領は王領に編入されることになったのだが、旧ジスタス公領の町や村には重税を課していた。


「陛下は心優しい方と聞いておりました。このようなことを続けていては、陛下の御名に傷がつくのではと心配いたしております」


「心配ですって!?」


 その言葉が、シャラミアの逆鱗(げきりん)にふれた。「私は女王です。あなたなどに心配されるいわれはありません!」


 シャラミアは男に指を突きつけた。


「衛兵! この者を刑場に引っ立てて、首を――」


「無礼者! 身の程をわきまえろ!」


 シャラミアが言葉を言い終わる前に、隣に立っていたネフが男に近づき、殴りつけた。「さあ、衛兵! こいつを追い出せ!」


「はっ」


 男は衛兵に、玉座の間から連れ出された。


 その様子を見て不快な表情を浮かべるシャラミアを、同じく隣に立っていたギラタンが(いさ)めた。


「陛下、感情的になって人を殺そうとしてはいけません。後で後悔しても取り返しがつきませんよ」

「私は冷静です」


(そうよ、あの時だって――)


 シャラミアの苛立(いらだ)ちは募るばかりだった。

 隣に立つネフとギラタン、そして部屋の隅に控える廷臣たちは、そんな彼女を気遣わしげに見ている。


(私は間違ってない)


 そう自分に言い聞かせ続けなければ、罪の意識に押しつぶされそうになる。


 クロアの町を焼き尽くすように命令をしたときは、自分の正しさを全く疑っていなかった。住民は皆、地獄へ落ちるべき六神派信徒である。だが――。


幼子(おさなご)もいたはずだわ)


 そう思うと、自分の正しさが疑わしくなってくる。

 あの後、生き残った者たちを助けるように命令したのも、その迷いの表れだ。


(いいえ、幼子も成長すれば、闇の神を信じるようになってしまう。だから、今死んでゆくことは、彼らにとっても幸せだったでしょう)


 シャラミアは自分を正当化し続けた。


(私は女王よ。私の行いが間違っているはずがないわ)


「そうよ、私は女王なのよ」

「陛下、大丈夫ですか?」


 ネフが心配そうにたずねてくる。どうやら声に出していたようだ。

 あの日以来、ネフやギラタン、そしてティナとは、なんとなく距離ができたような気がする。


 彼らの口から、シャラミアを責める言葉は出てこないが、シャラミアを見る目つきは変わった……ような気がしてしまう。


「そうね、疲れているのかもしれないわ。今日の残りの面会者は断ってちょうだい」

「わかりました」


 部屋に帰って休もう、と立ち上がったところで、玉座の間に騎士が入って来た。


「失礼致します。フジイ・マサト殿が、陛下に面会を求めておりますが、お通ししてもよろしいでしょうか」

「マサトが!?」


 シャラミアは慌てた。政人のことを忘れていたわけではない。できるだけ考えないようにしていたのだ。


「すぐに連れてきて」

「はっ」


 シャラミアは、政人になんと言い訳をしようかと考えた。

 政人との約束では、シャラミアは女王となった後、闇の神の加護を聖司教に授けてもらい、闇の勇者となるはずだった。


 だが、シャラミアのやったことは、その聖司教を含めてクロアの町の住民を皆殺しにしたことだった。


 魔法使いでもあった聖司教が死んだので、もう闇の勇者誕生の儀式を行える者はいない。

 また、他の六神派の僧侶も全員殺してしまったので、後継者もいない。


(マサトは怒っているでしょうね)


 その時シャラミアは気付いた。


 自分がクロアの町を焼き討ちした理由の一つに、闇の勇者になどなりたくない、という気持ちが、心のどこかにあったことを。


 力を得るために利用するだけだ、と納得しようとはしてみたが、やはり異端である闇の神の加護などは、受け入れたくなかったのだ。


(とすれば、クロアの町の焼き討ちは、マサトにも責任があるわ。敬虔(けいけん)なメイブランド教徒である私に、異端の神の加護などを、与えようとしたからよ)


 第三者が聞けば無茶な論理である。嫌ならば最初から断れば良かったし、たとえ途中で気が変わったとしても、拒否すればいいだけの話だ。無関係な四万人を殺す理由にはならない。


 だが、シャラミアはなんとか自分の責任を回避したかった。いくら自分は正しいと思い込もうとしても、罪の意識は捨てきれない。


 政人が玉座の間に入って来た。

 入り口で一礼もせず、そのまままっすぐにシャラミアに近づいてくる。


 ネフもギラタンも反応できなかったのは、彼らの知る政人とはあまりにも違う、その鬼気迫る様子に気圧(けお)されていたからだった。


 その血走った目つきは、正常な人間のものではない。


「マサト、どうしたの?」


 驚いたシャラミアが声を上げたが、政人はそのまま近づいてくる。


 そして、シャラミアの目の前に立つと、シャラミアのかぶっていた王冠をつかみ上げ、投げ捨てた。


 シャラミアが、そして玉座の間にいる者たち全てが、信じられない行動に呆気(あっけ)にとられる中、政人はシャラミアに指を突きつけ、言い放った。


「おまえに女王の資格はないっ!!」


 政人の目つきは狂人のものだった。

 そしてその瞳には、悪魔が映っていた。

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