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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第三章 玉座への道

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68.政人とクオン

 シャラミアとダンリーがクオンの処遇について話しているのを、政人たちは聞いていた。


 クオンを殺すべきだというダンリーの言葉を聞いて、腹が立った。政人にとって、子供を傷つけることは許せないのである。

 すぐに「ふざけるな」と言ってやりたかったのだが、自重(じちょう)した。

 それを言うのはシャラミアの役目だと思ったからである。


 だがシャラミアは、クオンをかばおうという意志は示すものの、ダンリーの言葉をはっきりと否定しようとはしない。


(何をやってるんだ、シャラミアは)


 政人は我慢できなくなって声を上げた。


「ふざけるなっ! その子に何の罪があるというんだ!」


 そう言って政人が近づくと、ダンリーの表情は怒りにゆがんだ。


「またおまえか。誰がここに来ていいと言った。関係ない奴は出ていけ!」


「俺はここにいて当然の人間だ。お前よりずっと早くからシャラミアに協力しているんだからな。それより答えろ! その子に何の罪がある?」


「さっきも言ったが、クオンは女王となるシャラミア様にとって、危険な存在だ。将来シャラミア様に復讐しようとするかもしれないし、野心ある者に利用されるかもしれない。王であることが罪なのだ」


「おかしなことを言うな。『将来やるかもしれない』は罪とは言わない。まして『他人から利用されるかもしれない』は、本人には何の関係もない」


「屁理屈をこねるな! シャラミア様にとって危険な存在だから、殺すべきだと言っている」


「シャラミアにとって危険な存在なのは、子供を殺すように(そそのか)し、王としての道を踏み外させようとする人間だ」


(おまえのようにな)


 ダンリーは苛立ちを隠せない様子だ。


「そいつは国民が貧困に苦しむ中、高価な陶器の人形を壊しまくって、国費を浪費していたんだぞ!」


「クオン王はまだ十一歳だぞ! 子供が悪いことをしていたら、それを注意するのは大人の責任だ。悪いのは周りの大人たちだ!」


 政人はダンリーに指を突き付けた。「本当に罰するべきは、無謀な城攻めを強要し、何千人もの民兵の命を奪った人間の方じゃないのか?」


「貴様!」


 ダンリーは政人に殴りかかろうとしたが、ルーチェの眼光に射すくめられて動けなかった。

 政人はシャラミアに向き直った。


「シャラミア、君までクオンを殺すなどとは言わないだろう?」


「え、ええ……そうね」


 シャラミアは戸惑っているようだ。「でも、彼をどう扱ったらいいかしら。この城に住まわせるのはどうかと思うし……」


(女王になると決意してからかなり経つのに、クオンをどうするか考えてなかったのか?)


「彼には教育が必要だ。だが、その前に心のケアが必要だ。しかるべき家に預けて、保護してもらおう」


「でも、誰に預ける? さっきダンリーが言ったように、野心ある者が担ぎ出す恐れは、確かにあるぜ」


 ギラタンが言った。


「シャラミアが、絶対に信用を置ける人間に預ければいい」


 政人はソームズ公にちらっと目をやって、言った。「ソームズ公に預かってもらってはどうだ?」


「私が?」


 成り行きを見守っていたソームズ公は、突然自分の話になったので驚いたようだ。


「閣下、あなたはクオンを擁立(ようりつ)して、権力を得ようという野心がおありですか」

「あるわけがない」


 政人はシャラミアに向き直った。


「シャラミア、君もソームズ公なら信用できるだろう?」

「それは……もちろんそうです」

「ならば、クオンをソームズ公に預けることに同意してくれないか」

「ええ……」


 シャラミアは迷っているようだ。意見を求めるように、ネフとギラタンに顔を向けた。


「シャラミア様のご随意(ずいい)に」

「俺はいい話だと思いますよ」


 二人とも賛成なようだ。

 それでもためらう様子のシャラミアに、政人は言った。


「俺が五千万ユールの戦費を提供したことについて、その功績にいつか報いると約束してくれたよな?」

「はい、そうでしたね」


「今、報いてくれ。俺の提案を受け入れ、クオンをソームズ公に預けることに同意してほしい」

「そこまでしてクオンを……。わかりました。あなたの言う通りにしましょう」

「ありがとう」


 ソームズ公はやれやれという様子で、ため息をついた。


「マサト。君は、私がクオンを受け入れると決めつけているようだな」

「クオンを預かって頂けないのですか?」


「こうなった以上、断れるか。だが、言い出した君にも責任を取ってもらうぞ」

「私がですか?」

「クオンと一緒に公都に来てもらう。そして、しばらく彼の面倒を見てもらおうか」


(まあ、仕方ないな)


「わかりました。そうします」


 政人は部屋の隅で震えている少年に近寄っていった。

 そしてしゃがみ込み、笑顔を見せながら、少年の肩をぽんとたたいた。


「もう大丈夫だぞ。俺はマサトだ。これからよろしくな」


 クオンは大きな目で政人を見つめている。


(うーん、俺の顔は怖いらしいからな。あまり怖がらせない方がいいな)


 政人は立ち上がろうとした。

 だがその前に、クオンは政人に抱きつき、その腹に顔をうずめた。


「ああああああああっ! うああああああああっ!」


 (せき)を切ったように泣き出した。

 クオンには、この世で自分の味方は、政人しかいないように思えたのだろう。


「ひっく、……ひっく、……ううう、ひっく」


 やがて、しゃくりあげて、肩を震わせた。

 政人はクオンの頭をなでてやりながら、話しかけた。


「大丈夫だよ。もう誰も君を傷つけない。俺が一緒にいてやるから」


 政人は服が涙や鼻水で汚れるのも構わず、クオンが泣き止むまでそのままでいてやった。




 翌日、形だけの譲位(じょうい)の儀式を行い、王位はクオンからシャラミアへと移った。


 この後の予定としては、即位式を行うために諸侯を招集し、シャラミア女王に忠誠を誓わせる。

 その際に「降神の儀」を行い、火、土、風、水のいずれかの神の加護を受けることになる。


 その後は政人との約束通り、ケンブローズ聖司教に闇の神の加護を授けてもらうことになるが、それは政人がソームズ公領から帰って来てから、ということになった。


 気がかりなのは、王太后が見つからないことだ。城内をくまなく探したにもかかわらず、見つからない。これからは、城外を含めて捜索を続けることになる。


 ソームズ公は即位式に出席するため、ソームズ軍の半数の兵士と共に、王都に残ることになった。


 政人たちとクオンは残りの半数の兵士と共に、公都ホークランへと向かった。

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黒蛇の紋章

― 新着の感想 ―
[気になる点] この主人公自分が頭いいと何か勘違いして自分の私怨だけで世界を引っ掻き回すだけのクズですね。もう読むことはないと思いますがここまで読んでしまったのでありがとうございました。
[気になる点] 『子供のやったことだ!!』・・・・え・・・これで済ませれるのか、バカ親思考じゃねぇか:(;゛゜'ω゜'):
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