62.反乱軍への疑念
政人とルーチェは闇の神殿で、タロウとクリッタが来るのを待っている。
そして、政人がクロアの町に着いてから二日後、タロウがやって来た。
「ハナコは大丈夫か?」
「はい、元気になりました。セリー社長が、ハナコの世話をすると約束してくれました」
「そうか……ハナコが無事で安心したよ。タロウもよくやった。ところで――」
タロウの背後を指さして言った。「なんでそいつを連れてきたんだ?」
「そいつって何よ! マサトさん、この町に帰って来てたのに私に挨拶に来ないってどういうことよ!」
ミーナだった。
「御主人様がいるかと思って、まずデモンド家に顔を出したら、ミーナさんがいたんです。御主人様は来ていないとのことなので、『じゃあ闇の神殿にいるのかな』とオレが呟くと、それを聞いた彼女がついて来ました」
政人はため息をつき、ミーナに弁解する。
「挨拶しなかったのは悪かったよ。でもな、俺は大事な仕事をしているんだ。ミーナにかまってやる余裕はないんだよ」
「仕事って何? 本読んでるだけじゃん」
政人はタロウたちを待つ間、ほとんど読書をして過ごしていた。今もそうである。
「まあ、今は休憩中だからな」
「休憩中なら、私と遊んでもいいでしょ。そうだ! タロウ君とルーチェさんも入れて、四人で遊ぼうよ。タロウ君、ボールで遊ぶのが好きだったよね?」
「え、ああ、うん、そうだけど」
「じゃあ、そうしよう。マサトさん、ルーチェさん。私たち、先に広場に行って待ってるからね!」
ミーナはそう言って、返事も聞かずにタロウの手を引っ張って出て行った。
(なんでアイツは人の話を聞かないんだ)
「諦めなマサト、これは遊んでやるしかなさそうだぞ」
ルーチェが笑いながら言った。
「ハア……仕方ないな」
そう言って、政人は重い腰を上げた。
なんだかんだと言いながらも、政人はミーナの相手をするのが嫌いではなかった。
―――
さらに三日たち、ようやくクリッタが帰って来た。
「ヤバイことになってるぜ」
挨拶もそこそこに、クリッタはそう切り出した。
彼によると、すでに戦闘が始まっているらしい。
アクティーヌ軍と民兵を合わせた反乱軍は王都への攻撃を始めた。だが、高さ十メートルを超える城壁を越えられず、苦戦しているらしい。
アクティーヌ軍は二千、民兵は四万は集まっていたが、すでに戦死者が二千人、負傷者は六千人も出ている。それでも反乱軍に参加しようとする者は、毎日のように各地から集まってきているとのことだ。
「兵糧はどうしてるんだ? アクティーヌ家は四万人以上の兵を食わせてやれるのか?」
「それがな……アクティーヌ公はガンフェランの関を攻め落として、そこにあった兵糧を手に入れたらしい。関所の兵は戦うこともなく降伏したんだが、アクティーヌ公は兵士たちが持っていた武器まで、全て取り上げたんだ」
「ガンフェランの関は、確かウェントリー王国に対する守りの要だったはずだろう。武器がなくて、どうやって守るんだ?」
「ウェントリー王国とは友好関係を保ってるし、『美食王』は他国を攻めるような積極的な王じゃないから大丈夫だとは思うが」
「それにしても備えは必要だろう。どうやらアクティーヌ公は、王家に反旗を翻したものの、王家を倒した後のことは考えていないようだな」
政人がそう言うと、クリッタは複雑な表情になった。
「なあ、驚かずに聞いてくれ。反乱軍のリーダーになってるのは、アクティーヌ公じゃない。どうやら……シャラミアのようなんだ」
「な!?」
驚きのあまり、言葉が出なかった。
「どういうことですか。シャラミアさんは、戦争を嫌がってたなずなのに」
タロウの問いに、クリッタは、「俺にもよくわからねえんだ」と言って首を振った。
「ひょっとすると、シャラミア様にはその気がないのに、無理矢理、祭り上げられているのではないでしょうか」
シャラミアの侍女のティナが言った。「シャラミア様が民を犠牲にしてまでも王都を攻めるなんて、考えられませんから」
「そうだとすると、裏で糸を引いているのはアクティーヌ公か」
政人の問いに、クリッタが首をかしげる。
「アクティーヌ公に、そんな大それた真似ができるもんかな。世間の評判じゃ、凡庸な人物だってことになってるが……まあ、ガンフェランの関を攻めたこともあるし、有事の際には思い切ったことができる奴なのかもしれんな」
「それはそうと、クーデター計画については、御破算になったってことでいいのか?」
ルーチェが聞いてきたので、政人が答える。
「ああ。王都が戦闘状態に入ったんじゃ、隙をついて兵を侵入させるのは無理だからな」
「そうなのか。ちぇっ、せっかくマサトが五千五百万ユール手に入れたってのに、台無しにしてくれやがって」
「は!? 五千五百万ユール!? 傭兵百人どころの金額じゃねえぞ! どうやって手に入れたんだ?」
「悪いが金の出所については話せないんだ。でも、やましいところのある金じゃない、とだけ言っておく」
クリッタは「ウーン」とうなった後、「これからどうするんだ?」と聞いてきた。
「シャラミアに会って、話を聞く必要がある」
政人は言った。「反乱軍の陣地に行ってみよう」




