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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第三章 玉座への道

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60.クーデター計画の頓挫

 政人とルーチェは、クロアの町へと街道を急ぐ。

 街道沿いには、いくつか町があったのだが、どの町も殺伐(さつばつ)とした雰囲気に包まれていた。


 人の集まる場所には立札が立てられ、ガレンの町で扇動者(せんどうしゃ)が話していたのと同じ内容の檄文(げきぶん)が書かれていた。


 話を聞いてみると、やはりアクティーヌ家の人間がやって来て演説をし、それを聞いて発奮した人々は、アクティーヌ家の軍と合流するため、アクティーヌ公領に向かったという。


 元々、何かきっかけがあれば、武器を取って立ち上がろうと考えていた人々なのだろう。アクティーヌ公は、うまくきっかけを作ったと言える。


 クロアの町がどうなっているかわからない。政人たちは、日が暮れるまで馬を駆けさせた。

 暗くなってきたので、野営することにした。


 野営は今まで何度もやってきたので、もう手慣れたものなのだが、今回の旅は少々勝手が違っている。


 ルーチェと二人きりなのである。


 今までは常に、他に誰かがいたのでそれほど意識しなかったのだが、こうなると彼女が「女」であることが気になってきた。


 これまでも、ルーチェやハナコが着替える時は、政人は後ろを向いていたし、その逆の場合もそうしていた。


 だが、二人きりになってみると、そんな行為も気恥ずかしいものに感じられる。

 ルーチェは客観的に見れば「美人」と言っていい顔立ちである。


 化粧などしたことがないであろうその顔は、つり目だが鼻筋が通っており、肌は絹のようになめらかで、すっぴんのままでも十分美しい。


 さらには、笑うとかわいい。

 そんな女が、真っ暗なテント内で、隣に寝ているのである。


「どちらかが見張りをしなくていいのか?」

「アタシは殺気を感じれば、目が覚めるから大丈夫だ。マサトもしっかり眠っとけよ」


 そう言ったかと思えば、既に寝息を立てている。


(なんでこいつは、この状況ですぐに眠れるんだ。俺のことを男だと思ってないのか?)


 政人はルーチェが女であることを意識してしまった。こうなると、なかなか眠れない。

 やがて、ルーチェが寝返りを打ち、顔を政人の方に向けた。


 寝顔というものは、誰しもが無防備な顔をさらすものである。「殺気で目が覚める」などと言っていた彼女だが、あどけない顔をして安心しきったように眠っている。


 ため息をつき、反対側に寝返りを打ってルーチェに背中を向けた。


(意地でも眠ってやる)


 そして目を閉じて、何も考えないようにした。

 しばらくすると、後ろから寝言が聞こえてきた。


「マサトは……むにゃ……アタシが……守る」


 その声を耳にした政人は安心感に包まれ、いつしか眠りに落ちた。




 政人たちはクロアの町にたどり着いた。

 町の様子は、以前と変わっていないように見えた。行き交う人々は、普段通りに落ち着いているようだ。


「ちょっといいですか?」


 通りすがりの人に聞いてみる。


「なんでしょうか」

「この町にアクティーヌ家の人間が来て、演説をしていった、ということはありませんでしたか?」


「さあ、聞いたことないですねえ。この町に諸侯の関係者が来たら、かなり話題になるはずなんですが」

「そうですか、ありがとうございます」


 どうやら、クロアの町には扇動者が来ていないようだ。まだ来ていないだけ、という可能性もあるが、おそらくは無視されているのだろう。ここが六神派信徒の町だから。


 シャラミアたちに会うため、闇の神殿に向かった。

 入り口にいた僧侶に用件を告げると、シャラミアの部屋に案内してくれた。

 扉をノックすると、侍女のティナが顔を出した。


「あっ、マサト様。お帰りなさいませ、金策はうまくいきましたか?」

「ああ、金は手に入れた。シャラミアはいるか?」


「それがシャラミア様は、ネフ様とギラタン様を連れて、町の外に出ていかれました」


(出て行っただと? 当分この町に隠れていると決めたはずだが)


「どこに行ったんだ?」


「それが……私にもよくわからないのです。傭兵を探しに出ていったクリッタ様が帰ってきて、アクティーヌ公が兵を挙げ、民衆がそれに呼応して蜂起しようとしている、という情報を仕入れてきたのです。

 それを聞いたシャラミア様は『こうしてはいられないわ』と(おっしゃ)って、出て行きました。私もお供します、と言ったんですが、危険だから残るように言われて……」


「きっと、アクティーヌ公に会いにいったんだろうな」


(俺のクーデター計画はかなり狂ってきたな。戦争は避けられないのか?)


「クリッタはどこに行った?」

「情報を集める、といって出て行かれました」


「どうする、マサト」


 ルーチェが聞いてきた。


(どう動くのが正解なんだろうか。俺たちもシャラミアたちを追って、アクティーヌ公に会いに行くべきか? しかし状況がわからないまま出て行くのも、危険な気がするし……)


「各自がバラバラに動けば、連携がとれなくなる。ここでクリッタとタロウが来るのを待とう」


(スマホがあれば、連絡が取れるんだがなあ)


 レンガルドにそんなものがあるはずがない。




―――




 シャラミアは、アクティーヌ公領へと馬を駆けさせながら、アクティーヌ公の意図について考えていた。


(なぜこんな無鉄砲なことを? 民たちは武器さえ、ろくに持っていないはずよ。戦う力のない者を集めても、犠牲者が増えるだけなのに)


「シャラミア様、よかったのですか?」


 ネフが馬を並べて話しかけてきた。


「なんのことかしら」

「マサトが戻るのを待ってからの方がよかったのでは? 我々が単独で動けば、彼の立てた計画をつぶすことになるかもしれません」


 それを聞いたシャラミアは意外な気がした。


「あなたはマサトのことを嫌っているのだと思っていたわ」


「もちろん好きではありません。あいつはシャラミア様に対して敬意を払いませんし。でも、あいつの能力は認めざるを得ません。クーデターの計画を聞いたときは、確かにこれなら成功する、と思いましたから」


「状況が変わってしまったのよ。マサトは『状況が変化すれば作戦は変わってくる』とも言っていたわ。今はアクティーヌ公の真意をただすのが先決よ。このままでは、戦争が起こってしまう」


「『革命』と言ったほうがいいかもしれませんよ。民衆が王を倒すんですからね」


 ギラタンの言葉が無責任に聞こえて、シャラミアは腹が立った。


「アクティーヌ公が主導しているのなら、民衆は彼に利用されているだけよ。アクティーヌ公を説得して兵を収めさせれば、民衆も解散するでしょう」


「シャラミア様、そりゃあ無理でしょう。既にアクティーヌ家は王家に対し、反旗を(ひるがえ)してしまってるんです。やっぱりやめます、なんて今さらできるわけがない。王家としても、アクティーヌ家を許すわけにはいきません」


 ギラタンは、さらに続けた。「民衆の方は、なおさら止められませんよ。反乱を起こすなんて、死ぬ覚悟を決めてなきゃできない。もう彼らには、王家を倒すか、自分たちが死ぬかのどちらかしかないんです」


 シャラミアは言い返さなかった。おそらくギラタンが正しいのだろう。それでも戦争を止められるとしたら、自分しかいないと思った。

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黒蛇の紋章

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