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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第三章 玉座への道

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50.ポンチャと万年筆

 政人たちが泊っている部屋に少年を連れて行き、話を聞くことにした。

 少年はポンチャと名乗った。


 彼は王都ヴィンスレイジアに家族と共に住んでいたのだが、重税に加え、父親が悪い商人に(だま)されて多額の借金を負ってしまい、土地も家も失うことになった。


 その後、一家はホームレスとなり、道行く人から施しを受けたりして、なんとか生きていこうとしたが、どうしようもなくなり、ついには盗みで生計を立てるようになった。


 だがある日、商店から靴を万引きしようとしたところ、店の人間に見つかり、両親はその場で殴り殺され、妹は奴隷商人に売られた。


 ポンチャだけは、化ける能力のおかげで、逃げることができた。


「オイラたちが人間なら、万引きをしたぐらいで殺されたり売られたりせずに、ちゃんと裁判をしてもらえたはずなんだ。殴り殺した店の人間たちは、特にお(とが)めがなかった。殺したのがタヌキビトだったからだ」


 ケモノビトは、人間から差別的な扱いを受けることが多い。


 そのため、二十年以上前にシシビト族のガウハント・リオンがズウ王国を建国したとき、ケモノビトたちはズウ王国に移住したのだが、全てのケモノビトが移住したわけではない。


 土地や家などの不動産を持っているケモノビトは、それを捨ててまで移住することには抵抗があった。


 他にも様々な事情があって、人間たちの国に残った者もいた。

 その結果、残ったケモノビトはさらに少数派になってしまい、差別も強くなった。


「オイラが一人になってからは、王都を出てこの町の近くにやって来て、山で獲物を捕らえたり、時々町で盗みをしたりして暮らしてたんだ」


 ポンチャは言った。「最近、役人たちがやってきて旅人を調べ始めた。なんでもシャラミアが通らないか調べているらしい。シャラミアなら王都にいた時に見たことがあるから、顔は知ってた。だからシャラミアに化けて、奴らをからかってやろうと思ったんだ」


 ポンチャの話を聞いたハナコは、感極まって泣き顔になった。


「辛かったのう。悔しかったのう。でも、もう大丈夫なのである。御主人様はこう見えて、とても優しいのである」


 そしてポンチャを抱きしめて言った。「今夜は我が添い寝してやるのである。ありがたく思え」


 政人は一つあくびをすると、言った。


「とりあえず、今日はもう寝よう。これからどうするかは、明日考えよう。盗みをしなくても生きていける方法を考えてやる」




―――




 三人が眠った様子なのを見て取ったポンチャは、そっとハナコの寝床を抜け出した。


(なにが、盗みをしなくても生きていける方法を考えてやる、だ。人間は信用ならねえ。優しい振りをしておいて、後で奴隷商人にでも売りつける気なんだろう)


 そのまま部屋を出て行こうとしたが、政人の枕元に万年筆が置いてあるのに気付いた。


(これは高そうだな。頂いていくか)


 そして、そーっとドアを開け、部屋を出た。

 そのときポンチャは、タロウの耳がピクピク動いていることには気付いていなかった。




 宿を出るとポンチャはそのまま、町の出口まで歩いていく。

 彼は盗んだ万年筆を見てニヤリと笑った。


(へっ、ざまーみやがれ。タヌキビトをなめんじゃねーぞ)


 そして町を出ようか、という時だった。


「待て!」


 後ろから怒声が聞こえた。振り返ると、さっき部屋にいたイヌビトの少年――タロウがいた。その顔は怒りにゆがんでいる。


「ポンチャ、御主人様から盗んだものを返せ!」


 そしてタロウは、ポンチャに飛び掛かった。「御主人様に助けてもらっておいて、恩を仇で返すのか!」


 ポンチャはタロウに倒され、ねじ伏せられた。


「ちくしょう、人間に尻尾を振るイヌビトめっ、離しやがれ!」


 そこへ、騒ぎを聞きつけた兵士たちが集まってきた。


「なんの騒ぎだ?」

「あっ、こいつはタヌキの小僧じゃねえか!」


 兵士たちがポンチャに気付いた。


「こいつがオレの御主人様の万年筆を盗んだんです」


 タロウがそう言うと、兵士たちはいきり立った。


「なんだと、人間様の物を盗みやがったのか!」


(くそっ、なんだってこんな事に)


「おい、棍棒を持ってこい」

「ああ」


「えっ、棍棒をどうするんですか?」


 タロウが驚いて尋ねた。


「決まってるだろう。殴るんだ。人間の物を盗んだケモノビトは、背中を棒叩き十回の刑と決まっている」


「えっと、そこまでしなくてもいいんじゃ……」

「こいつらは口で言ってもわからないからな」


 兵士が棍棒を持ってやってきた。全長が一メートルほどで、先の部分が太くなっており、かなりの重量感がある。こんな物でポンチャの小さな体を殴れば、十回も殴る前に死ぬだろう。


 タロウは慌てた。ここでポンチャを死なせてしまったら政人は悲しむに違いない。


「あの、オレは万年筆を返して貰えれば、それでいいんで……」

「いや、こいつは昼間にくだらん悪戯(いたずら)で我々の公務の邪魔をし、さらに脱獄までしている。同情の余地はない」


 兵士たちはポンチャを組み伏せた。


(いやだっ、死にたくない! 助けて、誰か!)


 その時、後ろから声が聞こえた。


「どうかしましたか?」


 政人だった。騒ぎを聞きつけて、彼も起きてきたようだ。


「あっ、御主人様」


 タロウがホッとした様子で政人に駆け寄った。


「御主人様……というと、あなたがこいつに万年筆を盗まれた方ですか」


 政人は、ポンチャのそばにケンブローズ聖司教から貰った万年筆が転がっているのを見た。それを見た彼は、状況を読み取った。


「ああ、すまなかったな、タロウ。お前には話していなかったが、その万年筆は、その子にあげたんだ」

「えっ!?」

(えっ!?)


 兵士が(いぶか)しんで政人に聞いた。


「なんであんたは、そんな高級そうな万年筆を、タヌキビトのガキに与えたんだ?」


「金メッキがされてるから高そうに見えるけど、実際は安物でね。最近インクの出が悪くなってきたので捨てようと思ってたら、その子が物欲しそうな顔で見てるから、与えたんだ」


「そのガキは、昼間つまらん悪戯をして牢に入れられ、その後脱獄した奴だぞ。確か、あんたも見てたから知ってるだろ。見つけたなら我々に教えてくれなきゃならん」


「牢に入れられたのは知ってるが、脱獄は知らなかったな。その子が普通に歩いてるから、許されて出してもらったのかと思ってたよ」


 兵士は(あき)れたように、ため息をついた。


「まったく、人騒がせな」

「どうもすいません」

「おい、そのガキを牢に入れろ」


 そしてポンチャは兵士に連行されていった。なにがなんだかわからない、という表情をしている。

 政人は落ちていた万年筆を拾い上げ、ポンチャを追いかけた。


「忘れ物だぞ」


 万年筆を差し出した政人を見て、ポンチャは信じられないという顔をした。


「どうして……?」

「その万年筆は、ひょっとしたらまた書けるようになるかもしれないし、鑑定すれば意外な価値があるかもしれない。せっかくだから持っておけよ」


(そうじゃない、なんで嘘をついてまで、俺を助けたんだ!)


「牢に入っている間、おまえには考える時間がたっぷりある」


 政人はしゃがみ込んで、ポンチャと目の高さを合わせて言った。「考えて考え抜いてみろ。自分に何ができるか、何をしたいかを。おまえは『化ける』という、人間にはない特別な力を持っている。それはおまえの武器だ。武器は使い方次第だ。つまらない悪戯以外にも、何か使い道があるかもしれないぞ」


 政人がそう言うと、ポンチャはたまらず膝をついた。


「オ、オイラ、今まで人間から優しくされたことがなくて。だ、だから、なんでアンタがそんな事言うのか、わけがわからなくて。そんな事言われても、オイラどうしたらいいか、わからなくて」


 ポンチャは混乱して、自分の気持ちをうまく表現できないでいた。

 政人はそんなポンチャの頭を、ポンとたたいて言った。


「考えるんだ」


 そして、政人は立ち去った。




 その後、夜が明けるまで、牢からは少年のすすり泣く声が聞こえていた。

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