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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第三章 玉座への道

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49.タヌキビトの少年

「タヌキビト?」

「タヌキビト族の中には、ごく(まれ)に、他の人間に化けることができる者がいるのである。あの小僧がそうなのであろう」


「化けるって……まるで魔法だな」

「魔法のような大したものではないのである。あのように、つまらん悪戯(いたずら)にしか使えんからのう」


 ハナコが言う、「つまらん悪戯」をしたタヌキビトの少年は悪びれる様子もなく、後ろ手に(しば)られたまま、ふんぞり返っている。


「このクソガキがっ! タヌキのくせに人間様をたぶらかすとは許せん! タヌキ汁にしてくれるわっ!」


 (だま)された兵士が激高するが、少年はふてぶてしい態度を崩さない。


「おう、殺せ! もうこの世に未練はねえ! 最期にてめえらのバカ(づら)を拝めたからな!」

「なにをっ! 望みどおりに殺してやる!」


 その兵士が剣を抜いたので、他の兵士が慌てて止めた。


「とりあえず、牢に入れておけ」


 役人がそう指示すると、少年は連れていかれた。

 政人は気になったので、近くの役人に聞いた。


「なあ、あの子はこれからどうなるんだ? まさかタヌキ汁にはしないだろう?」

「ん? ああ、もちろんだ。この程度のことで殺すわけがないさ」


 それを聞いてひとまず安心したが、次の言葉を聞いてまた嫌な気分になった。


「まあ、二週間ばかり、牢に入ってもらうことになるな」


「ずいぶん長いな、まだ小さな子供だぞ」

「タヌキビトは人間様をなめてやがるからな。しっかり反省してもらおう」


 日本では、子供が刑事罰を受けることはなかった。

 もちろん、ここは日本ではないが、政人は納得できなかった。単なる子供の悪戯ではないか。叱ってやれば済むことだ。


 あのぐらいの歳の子供にとって、二週間という期間がいかに長いものであるかは、よく知っている。

 ずっと牢にいて、耐えられるものではない。


 とりあえずその場は引き下がったが、既にタヌキビトの少年を助けようと心を決めていた。




 政人は五人の男たちを呼び出し、牢にいるタヌキビトの少年を助けるように頼んだ。


「マサトさんの頼みでも、そんな危険なことはしたくねえだ」

「無理を言ってるのはわかっているが、それでもやってくれ」


「御主人様、オレがやります。オレなら闇に(まぎ)れてアイツを逃がせると思います」


 タロウが言った。


「ダメだ。万が一見つかったら、タロウまで捕まって牢に入れられるかもしれない」


「オラたちは捕まってもいいんですか?」

「まあ、そうだな」

「ひどい!」


 政人は非情である。


「それでは、兵士たちに見つからないように、タヌキの小僧をこっそり逃がせばいいんですね?」


 リーダー格のゼバルが聞いた。


「いや、タヌキビトの少年は見つからないようにするが、お前たちは、わざと見つかってもらう。俺たちが逃がしたと疑われないようにな」


「そんな! なぜ見ず知らずのガキのために、そこまでしなきゃならないんですか?」


「どこの子供だろうと関係ない。()()()()()()()()()()()()()


 そして、政人は作戦を説明した。


「作戦が成功したら、おまえたちはバラバラに逃げろ。兵士たちは本気で追ってはこないはずだ、所詮(しょせん)、子供の悪戯だからな。逃げ切ったら、山道をタンメリー女公領側に抜けたところにある宿場町ピンロイで、俺たちが来るのを待っていてくれ。ルーチェもおまえたちに同行してもらう」


 ルーチェを付けるのは、男たちが逃げないようにするためだ。


 男たちはそれでも渋っているが、


「やるのか、やらねーのか、どっちだ!」


 ルーチェが槍を突きつけ一喝(いっかつ)すると、男たちの運命は決した。




―――




 その日の深夜――。


 タヌキビトの少年は牢で眠れぬ時間を過ごしていた。


 この世に未練はない、と昼間言ったことは本当の気持ちだった。


(もう人間たちに(しいた)げられて、生き続けるなんてごめんだ)


 鉄格子の扉の前には誰もいない。ケモノビトのためにわざわざ人員を()いて、牢番を置くことはしないのだ。だからといって、鍵のかかった扉を開けて外に出られるわけもない。


 その時、少年の耳に足音が聞こえてきた。


(誰だ、こんな時間に)


 やってきたのは、無精(ぶしょう)ひげを生やした、パッとしない中年の男だった。


「おい小僧、逃がしてやる。とっとと出るだ」


 そう言って男は鍵を開け、扉を開いた。


「オラについてこい」


 わけがわからないまま、少年は外に出た。


「こっちだ」


 その男の後についていく。


 宿場町の各宿の前には明かりが(とも)されている。二人は建物の裏側の陰になっているところを移動する。


 遠くから「タヌキの小僧が逃げたぞー」という声が聞こえてきた。


「止まるだ。静かにしていろ」


 無精ひげの男がそう言って、建物の陰から様子を(うかが)う。少年も(のぞ)いてみると、二人の男が走って逃げていて、兵士たちがそれを追いかけていた。


 追っている兵士たちの中に、髪の薄い男がいた。少年の耳に、男と兵士たちの会話が聞こえてきた。


「手前の男がタヌキの小僧が化けた姿です。その奥にいる男が牢の鍵を開けて、小僧を逃がしたんです」


(オイラはここにいるんだから、あれはオイラじゃないぞ)


 髪の薄い男が嘘をついて、兵士たちを誘導しているようだ。


「なぜあの男はタヌキの小僧を逃がしたんだ。何者だ、そいつは?」

「さあ、俺にはわからねえです」


 やがて、髪の薄い男が立ち止まった。


「それじゃ、俺はこのへんで……お先にドロンします」


 そう言って男は別の方向に走り出した。


「おい、どこへ行く?」


 兵士たちがキョトンとしていると、また別の男がどこかから現れ、叫んだ。


「バカモン、あのハゲがタヌキの小僧だ! 追え!」


 兵士たちは混乱しているようだったが、髪の薄い男を追い始めた。


「あいつら、上手くやってるようだな」


 無精ひげの男はそう言うと、少年をさらに人気のない所に誘導した。

 するとそこに、若い男と女、それにイヌビトの少年が立っていた。


「マサトさん、連れて来ましただ」

「よくやった、おまえも逃げろ」

「へい」


 無精ひげの男はそう言って、去って行った。


「ルーチェ、すまないが、彼らを頼む」

「任せとけ。タロウ、後は頼んだぞ」

「はい」


 ルーチェと呼ばれた女性も立ち去った。

 少年が状況を理解できずに立ち尽くしていると、マサトと呼ばれた男が声をかけてきた。


「君、もう大丈夫だ」

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