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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第三章 玉座への道

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48.再び、タンメリー女公領へ

 政人はシャラミアたちとの会合を終えた後、デモンド家の隣の家に寄宿している、元盗賊の五人の男たちに声をかけた。


 彼らに、金策の協力をしてもらうためだ。


「おまえたちに、仕事を与える」

「なんすか、仕事って」


「タンメリー女公領のポルテン村へ行き、そこで畑仕事をしてもらう」

「ポルテン村って、どこっすか、それ」


「ひなびた小さな村だが、住民は皆親切だ。よそ者のお前たちでも、受け入れてもらえるだろう。王領と違って税率は低いから、楽な暮らしができるぞ」

「まあ、畑仕事なら慣れてるだが」


 明朝、政人たちと一緒にポルテン村へ旅立つことを告げると、男たちは特に不満も見せずに従った。




「えーっ、もう行っちゃうのー。もっといればいいじゃん」


 明朝旅立つことを告げると、ミーナは寂しそうだった。


「ミーナ、わがまま言うんじゃありません。マサトさんたちには仕事があるのよ」

「ぶー」


 母親にたしなめられても、不貞腐(ふてくさ)れている。


「はあ……後で戻って来るから、その時はまたここに泊めてもらうよ」

「うん、また買い物に付き合ってね、()()()()()


「なんだ、そのお兄ちゃんってのは?」


 ルーチェが不思議そうに聞いた。


「私とお兄ちゃんの秘密だもんねー」


(もう好きにしてくれ)


 ミーナの髪には、政人が買ってやったオタマジャクシの髪留めが付いている。

 友達には「ひどいセンス」「不気味」と不評だったそうなのだが、彼女は気に入ったらしい。


「それで、クリッタさんはもうしばらく、この町に滞在されるのですか?」


 ミーナの父親のジョージイがたずねる。


「ああ、まだ野暮用があるんでな」


 ジョージイたちにシャラミアのことは話していない。信用していないわけではないが、秘密を知る人間は、少なければ少ないほど安全になる。


 政人は、ずっとこの町で暮らしていけたらと思っていた。それほど居心地がよかったのだ。


 だが、そういうわけにもいかない。闇の勇者を神聖国メイブランドに連れて行くという目的がある。


(今日は、タロウとハナコと遊んでやったら、早めに休むとしよう)




 翌日、政人たちはタンメリー女公領に戻るべく、街道を歩いていた。

 正規のルートなので、ハルナケア山地までは石畳の道が続いている。

 周りには、旅人や行商人の姿がちらほら見える。


 やがて、山の麓のガレンという宿場町にたどり着いた。ここまでがヴィンスレイジ王領である。


「御主人様の予想した通り、検問が行われていますね」


 町に入る者に対し、王家の役人と兵士たちが取り調べを行っていた。


 だが、それほど厳重に調べているわけではないようだ。何をしに、どこへ行くかだけを聞かれたので、適当に答えておいた。


「通ってよし」

「お役目ご苦労様です」


(どうも王家の役人たちは勤務態度がだらけているな。上に立つ者が出鱈目(でたらめ)だからかもしれない)


「ちょっと早いが、今日はこの町で宿を取ろう」

「わかった」

「おまえらも、適当な宿を取って、休んでおけ」


 政人はそう言って、五人の男たちのうち、なんとなくリーダー格になっているゼバルという男に宿代を渡した。


「明日の朝七時に、ここで落ち合おう」

「へい、わかりやした」


 宿場町なので、大通りの両側に宿屋が建ち並んでいる。だが、どの宿も古びており、壁が()がれたり、屋根が壊れたりしている。


 宿泊客はそれなりに多いようなのだが、まったく景気がいいようには見えない。


(よっぽど税が重いんだろう)


 政人は宿に入り、部屋に案内されると、ベッドに横になった。


「すまんが、疲れたので俺は寝る。おまえらは適当に時間をつぶしていてくれ」

「そっか。じゃあタロウ、稽古をつけてやるから、外に出ろ」

「はい、お願いします」


 ルーチェとタロウは出て行った。


「あやつらは元気であるな。我はインドア派ゆえ、とてもついていけぬわ」


 そう言って、ハナコもふかふかのベッドに体を沈めた。


「これからまた山越えだぞ」

憂鬱(ゆううつ)である。だが、あの地獄の桟道(さんどう)を通らなくてもよいのなら、耐えてみせるのである」


「無理はするな。つらくなったら正直に言え」

「御主人様は時々優しいのである」

「俺は子供には優しいんだ」

「我はもう子供ではないぞ」


 それからしばらく時間が経ち、二人が寝入りかけた時だった。


 ドタドタと階段を駆け上がる音が聞こえ、部屋の扉が勢いよくバーンと開けられた。ルーチェとタロウが入ってきた。


「おい、マサト! 大変だ!」

「なんだ、騒々しい」


 せっかく眠りかけていたのに、と不満げに身を起こした政人は、ルーチェの言葉を聞いて、眠気がふっとんだ。


「検問でシャラミアが捕まったらしい!」




 政人たちは急いで町の入り口の検問所に向かっている。


(あり得ない)


 シャラミアはクロアの町にいるはずだ。あの足でここまで来られるわけがない。


「いったい、何があった?」


「タロウと稽古してたら、検問所の辺りから『いたぞ』『シャラミアだ』って声が聞こえてきたんだ。そんなバカな、と思って見に行ったら、ホントにシャラミアが捕まってたんだ」


「ルーチェさんがその場に飛び出そうとしたんですが、オレが『まず御主人様に知らせましょう』と言って止めたんです」


「よくやった、タロウ」


 褒められたタロウは、嬉しそうだ。


「あそこだ」


 ルーチェが指さす方を見ると、役人と兵士たちが慌ただしく動いている。


「すぐに王都に報告を」

「報告するよりも、我々が王都まで護送すればいいのでは?」

「でも、この場を離れていいとは言われてないぞ」

「シャラミアを捕らえたんだから、もう検問の必要はないだろう」

「いや、まだ御付きの騎士と侍女がいるはずだ」


 彼らも、思いもよらない事態に混乱しているようだ。

 まさかシャラミアが現れるとは思っていなかったのだろう。


 そのシャラミアは、と辺りを探すと――いた。


 兵士たちが周りを取り囲む中で、後ろ手に縛られて椅子に座っている女性の姿がある。


 確かにシャラミアのように見える。だが、どうも様子がおかしい。

 こんな状況だというのに、楽しくて仕方がない、というようにワハハハと笑っている。

 

「どう思う、あれ」

「全然わからねえ」


 政人たちが首をかしげていると、シャラミアが、しゃべった。


「アッハハハハ。こいつは面白えや。いつも偉そうにしてる役人たちが、オイラに(だま)されてあたふたしてやがる」


 周りの役人や兵士たちは呆気にとられてシャラミアを見た。


 と、次の瞬間、シャラミアは――男の子の姿になっていた。


 まだ十歳にも満たないように見える小さな子だ。


 目の周りは黒い(くま)ができており、頭から犬のような耳が突き出ている。タロウの耳がとがっているのに対して、その子の耳は丸い形をしている。お尻からは太くて短い尻尾が生えていた。


「イヌビトか?」

「いや、御主人様、あれはイヌビトではないのである――」


 政人のつぶやきに対し、ハナコは言った。


「あれはタヌキビトである」

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黒蛇の紋章

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