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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第二章 闇の勇者を求めて

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40.六神派の史劇

 クリッタは聖司教との面会の約束を取り付けるため、一人で闇の神殿に向かった。


 公衆浴場を出てさっぱりした政人たちは、町を散策することにした。

 大勢でぞろぞろ歩くのもどうかと思ったので、五人の男たちとは別行動をとることにした。


「しっかし、賑やかな町だなあ」


 ルーチェが感心したような声を上げる。「異端者たちは世間から隠れて、ひっそり生きてるんだと思ってた」


 浴場でクリッタから聞いた話を教えてやった。


「税がないだって!? そりゃ(うらや)ましいや」


「人間たちのやることは、よくわからんのう。信じる神が一つ多いからといって何が違うというのであるか」

「そういえば、ハナコとタロウはメイブランド教の信者なのか?」


「違うぞ。神などという見たこともないモノを信じるなど、理解できぬのである」


「オレもよくわかりません」


 タロウは付け加えるように言った。「イヌビトにとっての神とは、飼い主のことですから」


(重いな)


 大きな建物の前に来た。看板を見ると「クロア大劇場」とある。


(劇場があるのか)


 掲示板を見ると、今は「カラパスカとメランティーヌ女王」という演劇をやっているらしい。


「演劇をやってるみたいだな」

「演劇ってなんだ?」

「知らないのか? 役者が舞台の上で物語を演じるんだ」

「面白いのか、それ」


 神聖国メイブランドにはその手の娯楽がなかったので、ルーチェにはピンとこないようだ。


「我は本で読んで知っているが、実際に見たことはないのである」


 ハナコはそう言って、政人を上目遣いで見上げてきた。「一度観てみたいのである。駄目……かの?」


(こいつ、その表情が俺の弱点だと気付きやがったな)


 料金を見ると、大人百ユール、子供五十ユールと書いてある。かなり安い。


「まあ、いいか。俺も観てみたいしな。ルーチェとタロウも入ろう」


 中は半円形の野外劇場になっていた。一番低い所に舞台があり、それを見下ろすように、客席がある。


 観客は三百人ぐらい入っているようだ。


「ちょうど今から始まるみたいだな」


 政人たちは最前列に座った。

 舞台奥から、ボロボロの服を着た男の役者が現れた。


「六(はしら)の神々よ、私にどんな罪があるというのか!」


 そして、男の独白が始まった。


「私は平穏に暮らしていただけなのに、突然役人がやってきて、私と家族に改宗をせまった。闇の神への信仰を捨てるなど、できるはずがない。だが彼らは何を言っても聞く耳をもたない。私が宗旨を変えないと知るや、私の土地と家を奪った。彼らに何の権限があって、そんなことをするのだ」


 彼が主人公のカラパスカのようだ。


 カラパスカは闇の神への信仰を捨てるように迫られ、それを拒否すると財産を奪われた、という話らしい。


 メイブランド歴六三五年のテドラエ公会議によって、闇の神は神ではないということに決められている。

 六柱の神を信仰している者たちは「六神派」と呼ばれ、異端扱いされるようになったのだ。


 これは実際にあった歴史に基づいた史劇だ。


「スランジウム王国を追い出され、たどり着いたローゼンヌ王国では、妻と子が石を投げつけられ、殺された。私は命からがら逃げ出せたが、もはや私に残された物は何もない」


 ここまでは悲嘆にくれるだけだったカラパスカだが、だんだん様子がおかしくなってくる。


「もうこの世界に私の生きる場所はないのだ。世界が私を拒むなら、私が世界を変えてやる。手始めに闇の神を信じない不信心者どもを皆殺しにしてくれるわ」


 カラパスカの表情は狂気を帯びていた。


(さすが俳優だ。たいした演技力だな)


「さあガロリオン王国にやってきたぞ。誰から殺してやろう。よし、最初にこの道を通りかかった奴から殺してやろう」


 舞台奥から、身分の高そうな女性と、二人の騎士が現れた。女性はガロリオン王国の女王、ヴィンスレイジ・メランティーヌだ。


「陛下、もう帰りましょう。こんな辺境に人がいるとは思えません」

「いいえ、夢でお告げがあったの、ここに私の運命の人がいると。帰りたいなら、貴方たちだけで帰りなさい」


「そんなことができるはずがないでしょう。子供のようなことを言わないでください」


 そう言った騎士は舞台の脇に移動し、傍白(ぼうはく)のセリフを言った。「まったく、こんな気まぐれな女王様に仕えることになるなんて、ついてねえな。この国の未来は真っ暗だ」


 そこへ斧を持ったカラパスカが現れた。


「おまえたちには恨みはないが、ここで私に会ったのが運の尽き。死んでもらおう」


 そう言って女王に襲い掛かるが、騎士二人にあっさりと武器を奪われ、組み伏せられた。


「くっ、殺せ。もうこんな世界には愛想が尽きた。闇の神よ、私を受け入れたまえ」


「闇の神だと、おまえ六神派か」

「いいだろう、望み通り殺してやろう」


 騎士たちが男を殺そうとするが、女王が止めた。


「おやめなさい」


 女王はそう言って、男に顔を寄せた。「私はガロリオン王国国王、ヴィンスレイジ・メランティーヌです。あなたは誰? なぜこんなことをしたの?」


「私はカラパスカ。おまえたちが六神派と呼んで迫害している者だ。私が生きられる場所は、もうこの世界にはないのだ。さあ、殺せ!」


「あなたが生きる場所は、私が用意します」


 女王はそう言ってから、騎士たちに命令した。「彼を放しなさい」


 騎士たちは渋々男を解放した。

 カラパスカは驚いて言った。


「なぜ、私を助ける?」

「なぜなら、あなたは私の運命の人だからよ」


 女王はカラパスカを抱きしめて言った。「あなたを一目見た瞬間、好きになってしまったの」


 政人はこの脚本を書いた奴を、怒鳴りつけてやりたくなった。



 その後は、見てる方が恥ずかしくなるようなメロドラマが展開された。


 女王は家臣たちの反対を押し切ってカラパスカと結婚し、自分も闇の神を信じる六神派となった。


 そして領内に六神派が安心して暮らせる町を造った。その町には噂を聞きつけた六神派の信徒たちが、世界中から集まった。それがクロアの町だ。


 フィナーレでは、全出演者が舞台に登場し、音楽に合わせて踊り始めた。

 政人はシラケた気分だが、ルーチェとタロウとハナコは楽しそうだった。




「いやー、面白かった」


 ルーチェは満足そうだ。


「それはよかったな」


 政人は硬派な歴史劇を期待して見ていたら、実はラブロマンスだったので、がっかりしていた。

 とはいえ収穫もあった。この町に住む六神派の者たちの「願望」が透けて見えたからだ。


 ヴィンスレイジ・メランティーヌが六神派を保護して、クロアの町を造ったのは歴史上の事実だが、六神派のカラパスカと結婚したわけではない。自らが六神派に宗旨替えしたなどという事もない。


 メランティーヌはただ、迫害される者たちを哀れんだだけである。

 この劇はあくまでも実話を基にしたフィクションだ。


 もし、王とその配偶者が六神派であったなら、その子孫の王たちも信仰を引き継いでいただろうし、国民の間にも広まっていただろう。

 だが、そうはなっていない。六神派は異端でありつづけているのだ。


 以上が、政人が百科事典を読んで得た知識である。



(メランティーヌが気まぐれで六神派を保護したならば、後世の王が気まぐれで迫害することもあり得るな)


 豊かに見えるクロアの町は、砂上の楼閣(ろうかく)にすぎないのかもしれない。

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