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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第二章 闇の勇者を求めて

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39.王太后

 シャラミアはカテナ離宮の美麗さに目を奪われ、うっとりしたが、すぐにそう感じてしまった自分を恥じた。


(これを建てるために国民は重税を課され、貧困にあえいでいるのよ)


 馬を下り、門に近づく。


「止まれ、何者だ」

「無礼者、シャラミア様の顔を忘れたか!」


 ネフが門衛を怒鳴りつけた。

 門衛はシャラミアの顔を怪訝(けげん)そうに眺めていたが、ハッと気づくと慌てた様子で言った。


「し、失礼しました。どうぞお通り下さい」

「お役目ご苦労様。馬を厩舎へ入れておいて頂戴(ちょうだい)

「はっ」


 中に入ると広いホールになっていて、正面に幅の広い階段があり、踊り場から左右に階段が分かれている。床には高価そうなカーペットが敷き詰められていた。


 シャラミア達の姿を見たメイドが近寄ってきたので、ネフが声をかけた。


「こちらは先王の(めい)であり、クオン陛下の従姉弟(いとこ)にあたるヴィンスレイジ・シャラミア様である。シャラミア様は王太后陛下との面会をご希望だ。すぐに案内しろ」


 それに対しメイドは、恐縮して答える。


「も、申し訳ございません、王太后陛下はただいま入浴中でありまして。陛下のお部屋にご案内いたしますので、しばらくお待ちください」


(例の温泉ね)


 王太后は領内に三つある離宮の全てに温泉を引かせている。その工事費用も相当な額になったはずだ。


 王太后の私室は予想通り、広く豪華な部屋だった。

 三人で中に入ろうとすると、メイドに止められた。


「申し訳ありませんが、御付きの方は控えの間でお待ちください」


「おいおい、俺たちはシャラミア様を守るのが仕事なんだぜ。傍にいなくて、どうやって守るんだ?」


 ギラタンが文句を言い、ネフも不満そうだったが、シャラミアは二人を制した。


「大丈夫よ、二人とも下がっていて。伯母様が私に危害を加えるはずがないもの」


 二人は渋々と控えの間に行った。

 シャラミアは一人で王太后の部屋に入り、座って待つことになった。


 しばらく待っていると、突然ドアが開き、王太后が入ってきた。


「あら、久しぶりねえ。少しやせたんじゃなくって?」


 王太后はバスローブ姿だった。湯上りで火照っているのか頬が紅潮しており、まだ乾ききっていない長い髪が顔にかかって、なんともいえない妖艶(ようえん)さを(ただよ)わせている。


 まだ二十九歳の豊満な肉体は、女のシャラミアの目から見ても、ため息がでるほど美しかった。


「こんな恰好(かっこう)でごめんねえ」


 そう言って王太后は戸棚からワインのボトルを取り出し、二つのグラスに注ぎ、テーブルに置いた。


「どうぞ。ウェントリー産の上物よ」

「あの、伯母様。私、お酒は……」

「いいから飲みなさいよ。あなたももう子供じゃないでしょう?」


 王太后はそう言って、グイっとワインを喉に流し込んだ。


「それで、何をしにこんな所まで、私に会いに来たのかしら?」

「伯母様、王都に戻って、クオンと一緒にいてあげてください。あの子はまだ十一歳なんです。父親が亡くなって、母親もそばにいないなんて、あまりにもかわいそうだわ」


 それを聞いた王太后は(あき)れた様子だ。


「わざわざそんなことを言うために来たの?」


「クオンが毎日何をしているか、御存じですか? 一人で人形に話しかけているんです。母親がいない寂しさを少しでも(まぎ)らわそうとして」


 そして訴えかけるように続けた。「王がそんなだから、家臣たちも国民も、国の先行きに不安を感じているんです」


「クオンは『白痴(はくち)王』と呼ばれているそうね」

「それを知っていてなぜ行動しないのですか! 彼は本来賢い子なんです! 精神的な不安がなくなれば、きっと人々に利発な少年王として愛されるはずなのに!」


「熱くなりすぎよ」


 王太后はそう言って、またワインを口に流し込んだ。「私だってあの子を愛しているわ。母親なんだから当然でしょう?」


「では王都に戻っていただけますか」

「はあ……わかったわよ。戻ればいいんでしょ」


 王太后は諦めたように言った。


「ありがとうございます」


 シャラミアは安堵(あんど)した。これで、ここに来た目的の一つは達成できた。後はもう一つの要求を王太后に飲ませなければならない。


「それと、もう一つ伯母様にお願いがあるのですが」

「今度は何よ」

「新たな離宮の建設をやめていただけませんか」


 王太后は三つある離宮に加えて、さらに四つ目の離宮の建設を進めようとしている。


「みんな私の建築趣味を無駄な浪費だと非難するけれど」


 王太后は挑戦的な口調で言った。「悪いことばかりじゃないわよ。人夫たちは仕事がもらえて喜んでるわ」


「人夫たちはそうだとしても、大多数の民衆は苦しんでいます。このままでは本当に国が潰れます。伯母様もわかっていらっしゃるでしょう?」

「この国はそんなにヤワじゃないわ」

「なぜそこまでして離宮を造ろうとなさるのですか? とても必要だとは思えません」

「…………」


 王太后が何も言い返せないようなので、シャラミアはたたみかけることにした。


「まさか噂が本当だという事はありませんよね」

「どんな噂かしら?」

「王太后陛下は、離宮ごとに一人、男を囲っていると」


 突然、頬に鋭い痛みが走った。

 自分が引っぱたかれたのだと理解したのは、数秒経ってからだった。

 呆然(ぼうぜん)としているシャラミアに、王太后は言い放った。


「つけあがるんじゃないわよ! 大人しく聞いていれば、いい気になって!」


 そしてドアを指さして、叫んだ。「出ていきなさい!」


 シャラミアは自分が失敗したことを悟った。

 彼女は何も言わずに王太后の部屋を出た。


(ネフとギラタンに会う前に顔を洗わなければならないわね。涙の跡を隠すために)

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黒蛇の紋章

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