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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第二章 闇の勇者を求めて

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38.クロアの町の秘密

 脱衣場から浴場へ続く扉を開けると、硫黄のにおいが漂っていた。湯は白く濁っている。


「これは、ひょっとして温泉か?」


 政人はクリッタに聞いた。


「ああ、近くに温泉があってな、そこから引湯(ひきゆ)してるんだ」


 五人の男たちも「なんだこりゃ」「すげえ」と目を丸くしている。

 まだ早い時間だからか、入浴客は政人たちだけだった。


 軽く体を洗ってから湯に足を入れると、やや熱めだが、いい湯加減だった。


「はああああっ」


 肩まで浸かると、あまりの気持ちよさに思わず声が出た。


 皆の表情を見ても、心からリラックスしているのがわかる。

 タロウは泳いでいるが。


 ルーチェとハナコはもちろん女湯だ。


「クリッタさん、どうなってんすか、これ」


 男たちの一人が納得がいかない様子で尋ねた。


「何がだ?」

「六神派の町のくせに、なんで立派な風呂があるんですか。聞いたことねえですよ、こんなの」

「俺も不思議に思ってた。風呂だけじゃなく、ずいぶんとこの町は豊かだよな」


 政人はヴィンスレイジ王領の民は、重税を課されて貧困にあえいでいると聞かされていた。

 だが、町の様子からはそんな印象はまったく感じられない。


 デモンド一家も、その隣人も大きな家に住んでおり、いきなり五人も客がきても泊めることができた。とくに彼らだけが裕福というわけでもないようだ。


「この町の者が豊かなのは、税が完全に免除されてるからだ」


 クリッタは驚くべきことを言った。


「えっ……そうなのか?」


 ガロリオン王国では税の徴収は個人単位ではなく、町や村単位で行われる。

 町や村の規模に応じて税率が定められ、町長や村長が住民から集めた税を、代表して納めるのだ。


「先代の王ヴィンスレイジ・アイオンは、六神派が差別され、苦しんでいることに同情したんだ」


 クリッタは先王を懐かしむように言った。「そこでクロアの町からは税を取らない、ということを独断で決めた。弟のセイクーンや重臣たちからは強く反対されたが、押し切ったんだ。摂政のジスタス公は、先王の遺訓を今も守っているようだな」


 それを聞いた男たちは、口々に不満を言った。


「そんなの、ずるいっすよ!」

「そうだ、そうだ!」

「逆差別じゃないすか、それ」


(当然、そう思うよな)


「俺に言われても困る。俺だって、ここまで他の町と扱いに差をつけるのは、やりすぎだと思ってるんだぜ」


「もし、この事実を皆が知ったなら――」


 政人はまた不安の種が増えたな、と思いながら言った。「六神派に対する憎しみがさらに強くなるな」




―――




 ヴィンスレイジ・シャラミアは馬に乗って街道を駆けていた。


 目指すのは、「カテナ離宮」。王太后が領内に造らせた離宮の一つである。

 現在、王太后はそこにいる、との情報を得ていた。


 その後ろに付き従うのは二人の騎士。


「シャラミア様、速度を落として下さい。これ以上速く走らせ続けると、馬がつぶれます」


 そう言ったのは、真面目そうな短髪の騎士。まだ十九歳の若さだ。


「そうね、気が(はや)っていたわ。ありがとう、ネフ」


 シャラミアは馬の速度を緩め、ネフと呼んだ若き騎士の横に並んだ。


「ま、気持ちは分かりますがね。王太后は逃げませんよ。どうせ今夜は若い男を隣に(はべ)らせて、しっぽり楽しんでるんでしょう」


 皮肉めいた口調で言ったのは、やや軽薄そうな長髪の騎士だ。こちらも二十一歳と若い。


「ギラタン、王太后陛下が男と密会しているなどというのは噂に過ぎないわ。軽々しい発言は控えて」


「これは失礼をば。俺はそういう噂が大好きなもんですから、つい」


 ギラタンと呼ばれた騎士は、あまり反省した様子も見せず続けた。「でも、王太后がほとんど王宮にいないのは事実でしょう。今さらシャラミア様が(いさ)めたところで、聞くようなタマじゃないでしょうに」


「ギラタン、言葉遣いに気を付けろ。王太后『陛下』だ」

「へいへい」


 同僚のネフに注意されても、聞き流しているようだ。


 ネフとギラタンは、シャラミア直属の騎士である。彼女が心から信頼できる人物は、彼ら二人と侍女のティナしかいない。


(私がしっかりしなければ)


 ジスタス公や王太后に直言できる立場の人間は、もはやシャラミアしかいない。国が危機に陥っている今、その命運は彼女の双肩にかかっているのだ。


 だが、彼女はまだ十七歳である。王族として、蝶よ花よと育てられてきた少女なのだ。重い責任に押しつぶされそうな気持ちになる。


(お父様が生きていれば)


 彼女の父親、ヴィンスレイジ・セイクーンはクオン王即位の三ヶ月後に、病気で亡くなっている。

 王太后に毒殺されたのでは、などという噂がささやかれたこともあったが、証拠はない。シャラミアも、そんな話は信じたくない。


 とはいえ、ジスタス公や王太后が好き勝手に振る舞い始めたのは、セイクーンが亡くなってからなのは確かである。


「シャラミア様、どうかお一人で気負わないでください」


 そんな彼女の内心を見透かしたかのように、ネフが言った。「私もギラタンも、全力でお支えしますから」

「ええ、ありがとう」


 彼女はネフに微笑みかけた。


(でも私が欲しいのは、上から指示してくれる人なのよ。お父様のように)

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黒蛇の紋章

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