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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第二章 闇の勇者を求めて

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29.イヌビト職業斡旋所

 その記者は王領内を一人で取材しているが、そろそろ戻ってくるらしい。

 記者が帰ってきたら宿まで連絡してもらうことになった。


 セリーによれば、その男は強いので他に護衛を雇う必要はないそうだ。


 確かにルーチェとタロウもいることだし大丈夫だとは思うが、それでも政人は、安全のためには念には念を入れておきたかった。


 もし戦闘になった場合、非戦闘員である政人は足手まといになるだろう。それを補うためにも、こちらの戦力は揃えておきたい。


「マサトは心配性だなー。アタシが守ってやるって」


 新聞社を出て、冒険者を雇うために再び冒険者ギルドに向かうと告げると、ルーチェが言った。


「御主人様、オレはまだ未熟者ですが、御主人様の盾になるぐらいはできると思います」


 タロウは健気なことを言っている。


「タロウ、俺は子供を犠牲にしてまで、自分が生き延びるのは嫌なんだ。そんなことになるくらいなら、死んだ方がましだ」


「御主人様が死ぬなんて、オレは想像したくもないです。そうなったら、オレはどうやって生きていけばいいのか……」


「そのときはルーチェ、俺の代わりにタロウの飼い主になってやってくれないか?」


 と、言おうとしたが、慌てて言葉を飲み込んだ。さすがに無責任すぎる。


(飼い主がペットより先に死ぬわけにはいかないよな)


「でも、冒険者を雇う費用もバカにならないだろ? この仕事が何日かかるかわからねーんだから、節約した方がいいんじゃねーか?」

「それはまあ、ルーチェの言う通りだ」


 仮に一人の一日分の雇用費が千ユールだとすれば、十日で一万ユール。三人雇うと三万ユールもかかる。さらに食事代も払わねばならない。


 現在の所持金は九万ユールほどだ。増える見込みがない以上、無駄には使えない。予期せぬ出費が必要になることも、あるかもしれない。


 今までは大勢の騎士に守られて旅をしてきたが、これはかなり恵まれた状況だったと言える。


(命を守るために金はケチりたくはないが……先のことを考えれば節約するべきかもしれない。金策も考える必要があるな)


 どうしようか考えながら歩いていると、「イヌビト職業斡旋(あっせん)所」という看板が目に入った。


(職業斡旋所か……そういえばゾエの町のペットショップで聞いたことがあるな)


 冒険者を雇う場合は、期間を決めて雇用することになる。期間が過ぎてからも雇いたい場合は、改めて契約する必要がある。


 だがイヌビトを雇う場合、それは「飼う」ということと同義であり、雇用期間は「一生」である。


 重い契約になるが、何度も契約し直すよりは安上がりだろう。


「ん? またイヌビトを飼うのか?」


 イヌビト職業斡旋所の前で足を止めた政人を見て、ルーチェが声をかけた。


「ああ、ボディーガードが務まるイヌビトがいるか、ちょっと見てみたい」


 政人がそう言うと、タロウはショックを受けたようだ。


「御主人様、オレ、もっと強くなります。だからどうか、見捨てないでください」

「見捨てるわけがないだろ」


(そういえば日本にいたころ、二匹目の犬を飼うときは注意するようにという話は聞いたことがある。たしか先住犬を尊重したほうがいいんだったかな)


 政人はタロウに優しく言い聞かせた。


「タロウ、大丈夫だ。二人目のイヌビトを飼ったとしても、俺にとって一番大切なイヌビトはおまえだ」


 それを聞いたタロウは、恥ずかしそうに顔を赤らめて言った。


「そうですか、御主人様がそう言われるなら……」


 まだ不安はありそうだが、とりあえず納得してくれた。


「でもマサト、金は足りんのか?」

「ああ、三万ユールまでは出してもいいかな、と思ってる」


 ゾエの町のペットショップで「予算は三千ユール」と告げて、店員に呆れられたことを思い出した政人は、思い切った金額を口にした。

 たしかに大きな出費だが、それで一生守って貰えるなら、安いものだ。


 中に入ると、若い男の職員が声をかけてきた。


「どのようなイヌビトをお探しですか?」

「戦闘力の高いイヌビトだ。ボディーガードをさせようと考えている」


「一応確認させていただきますが、迷宮に連れて行こうとお考えですか?」

「いや、そのつもりはない」


「そうですか、それなら問題ありません」

「迷宮に連れて行くと、なにか問題が?」


「ウチでは迷宮に連れていく、と言う方には紹介しないようにしているんです。昔は冒険者のお供をさせられて迷宮で戦わされ、命を落としたイヌビトが何人もいたので」


 それを聞いた政人は感心した。ちゃんとイヌビトの安全に配慮しているのだ。


 余談だが、レンガルドではイヌビトを戦争に参加させることも禁止されている。

 ケモノビトの国であるズウ王国を除く七王国で、そのための条約が結ばれている。


「戦闘職のイヌビトはこちらです」


 職員に案内され、ジムのような広い部屋にやってきた。


 そこでは、筋肉の鎧に包まれた屈強なイヌビトたちが、思い思いに汗を流していた。


 ひたすら剣の素振りをする者、腹筋やスクワットなど筋肉トレーニングをしている者、実戦形式のスパーリングをしている者などだ。


 筋トレをしていた一人のイヌビトが政人たちに気付き、近づいてきた。

 三十歳ぐらいの男のイヌビトで、身長は百八十五センチはありそうだ。


 その男は政人の前に来ると、くるっと振り向き、背中を見せた。そしてポーズをとって、逆三角形の鍛えられた肉体を見せつけた。


「私の広背筋(こうはいきん)をどう思われますか?」

「とても、たくましいな」

「私の御主人様になっていただけるなら、この筋肉は貴方のものです」


 隣にいる職員に、彼はいくらするのかと尋ねた。


「十二万二千ユールです」

「高っ!」


 予算は三万ユールだと告げると、職員に呆れられた。


「イヌビトをなんだと思ってるんですか?」


(またこのパターンか)


「彼らは皆、強くなるために、日々の厳しい修行に耐えています。そして飼われた後は、命の危険がある仕事につくことになるんですよ」


 どうやら、縁がなかったようだ

 職員に帰ることを告げ、部屋を出た。


 廊下を進んでいくと、イヌビトの女の子が、こちらに歩いてくるところに出会った。その女の子は立ち止まり、政人の顔をじろじろと見つめている。


 政人は不審に思ったが、そのまま歩き続けた。だが、すれ違ってからしばらくして、甲高(かんだか)い声が後ろから聞こえてきた。


「そのほう、止まれい」


 政人が振り向くと、その少女は、傲然(ごうぜん)と胸を反らせて言い放った。


「おぬしを、我の御主人様にしてやろう。ありがたく思うがよい」

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