26.闇の勇者の研究者
政人は記事を読んでいった。
「ガロリオン王国のメイブランド教会の最高位である、ケンブローズ・ウェムジー聖司教が、初めて本紙記者のインタビューに応じてくれた。
彼は異端とされている六神派に属している。
これまではクロアの町の中心部にある廃砦(通称:闇の神殿)の奥にこもり、六神派の幹部以外にはほとんど姿を見せなかった人物だ」
――今回、我々の取材に応じてくれたのはなぜでしょうか?
『六神派』が異端とされたテドラエ公会議から千年以上、ガロリオン王国は五神派と六神派が共存できる唯一の国でした。
ところが近年、王領内で六神派排斥の動きが目立つようになっています。
私が思うに、それは皆さんが六神派について知らないからです。
五神派の方たちにとって私たちは、クロアの町に集まって得体のしれないことをしている不気味な連中、と思われています。
そう思われるようになった原因の一つが、私が闇の神殿にこもって外に出てこなかった事にあるのでは、と反省しました。
そこで今回、ヘルン新聞の取材に応じることで、六神派についての正しい知識を皆さんに持っていただきたい、と考えました。
――今まで闇の神殿から出なかったのはなぜでしょうか?
神殿内には、メイブランドが生きていた時代から残っている書物が保管されています。それらの書物は、現代では解読困難な箇所が多いのです。
私は数人の幹部たちと共に、脇目も振らずに解読作業を行っていたため、ずっとひきこもることになってしまいました。
ですがその過程で驚くべき記述を見つけました。それは闇の神の加護を受けた勇者についての記述でした。
――闇の神の加護を受けた勇者とは?
魔王については御存じですね? レウの預言書において、メイブランドの迷宮に誕生するとされている存在です。
そして光の女神の加護を受けた勇者が、魔王を倒すと書かれています。
この話はあまりにも現実離れしているため、信じていない方が多いですが、私は真実だと思っています。
そして一年ほど前、預言者ペトラススクの言動を弟子たちが書き留めたとされる『言行録』の中の断片的な部分を解読していたところ、闇の神の加護を受けた勇者が魔王を倒す、という記述を見つけたのです。
ペトラススク本人が書いたとされる『ペトラススクの預言書』が散逸して失われてしまった今となっては、これはとても貴重な資料です。
この記述により、光の勇者の他にもう一人、闇の勇者が存在することがわかります。勇者は二人存在するかもしれないのです。
現在私たちは、闇の勇者がどうすれば現れるのか、研究を続けているところです。
まだ詳しい内容については話せないのですが、その具体的な方法について、ある程度はわかっています。
――神聖国メイブランドにおいて、すでに光の女神の加護を受けた勇者が誕生している、という噂があるのは御存じですか?
そうなのですか? 私は俗世間と関係を断っていたので知りませんでした。
もしそれが本当なら、どうやって光の勇者が現れたのか知りたいです。
また、その勇者に会ってみたいです。
――今、民衆の間で『六神派』は危険だ、追放せよ、との声が高まっていることについて、どう思われますか。
私たちは『五神派』と敵対するつもりは全くありません。同じメイブランド教徒なのですから、きっと分かり合えると信じています。
―――
政人は新聞の売り子に、その記事を見せてたずねる。
「このインタビュー記事を書いた記者に会いたい」
「私はアルバイトなので何とも……本社で聞いてみてはどうでしょうか?」
「そうしよう」
ルーチェたちはどこだ、と辺りを見回すと――いた。
ルーチェは冒険者の一人と腕相撲をしていた。
周りには多くの野次馬がいて、はやし立てている。その様子をタロウが心配そうに見ている。
(何をやってるんだ、アイツは)
呆れながら、近づいていく。
「あ、御主人様」
「なんでこんなことになってる?」
「あの冒険者の人が、ルーチェさんに『俺たちのパーティーに入らねえか?』と声をかけてきて、それに対してルーチェさんが『どっかいけ、ハゲ』と答えたら、その人が怒って――」
(どう考えてもルーチェが悪い)
「その後、『ハゲじゃねえ! 剃ってるんだ!』『弱ェ奴はスキンヘッドにして強く見せようするんだよなー』『俺が弱いだとっ!』――という会話の流れがあって、最終的には『腕相撲で勝負をつけよう!』ってことになったんです」
「なぜそうなるんだ……」
ため息をついて、腕相撲をしている二人を見る。
今はまだ互角のようだが、必死の形相のルーチェに対して、相手の男はニヤニヤ笑っていて余裕がありそうだ。
(そりゃそうだ、いくらルーチェが強いと言っても女だ。相手の男の腕周りは、ルーチェの二倍はあるぞ)
誰もがルーチェの負けを確信した次の瞬間、その場にいた全員が凍り付くことになる。
「があああああああああああああっ!!!」
ルーチェが雄叫びをあげた。その圧倒的な声量に鼓膜が破れそうになる。近くにいた者たちは ショックのあまり、心臓が止まったかのように硬直していた。
ルーチェは呆けている男の手の甲を、思いっきりテーブルに叩きつけた。男は勢い余って、体ごと一回転して倒れた。
「おっしゃあああっ! アタシの勝ちだっ!」
ルーチェが勝ち誇るが、まだ周囲の者たちは反応できない。
倒れた男が、ようやく我に返ったようだ。
が、まだ体が震えている。
ぼそりと「怖かった……」とつぶやくのが聞こえた。
政人はゾエの町で、ゴドフレイがライバー隊長に浴びせた一喝を思い出した。あれもすごい迫力だったが、ルーチェの雄叫びはそれ以上だ。
(なんなんだ、これは)
政人に気付いたルーチェが、声をかけてきた。
「お、もう新聞とやらは読み終わったのか?」
「あ、ああ。それでこれから、その記事を書いた記者に会いに、新聞社に行こうと思うんだ」
「そっか、わかった。じゃ、行こうぜ」
三人は、呆気に取られている冒険者たちを後にして、冒険者ギルドを出た。




