18.退廃する王家
現在のガロリオン王は、ヴィンスレイジ王家の当主、ヴィンスレイジ・クオンである。
クオンはなんと、まだ十一歳の少年だ。
三年前に父親である先王ヴィンスレイジ・アイオンが崩御し、当時わずか八歳のクオンが即位した。
もちろん八歳の少年に国の統治ができるわけもないので、母親である王太后ヴィンスレイジ・テラルディアが後見する。
そしてテラルディアの父親で、諸侯の一人であるジスタス・バート公が、摂政として国政を担うことになった。
政務のほとんどは、摂政のジスタス公が執り行っており、王太后は自分の趣味に没頭していた。
その趣味とは、「建築」である。
王族が居住する王宮がすでにあるにもかかわらず、彼女は自分専用の宮殿を王都内に建てさせた。
さらに領内の三ヶ所に離宮を建て、その全てに温泉を引いている。その工事費用は国の財政を大きく圧迫した。
少年王のクオンも、母親ほどではないが、趣味のために国費を浪費していた。
彼は「陶器の人形集め」という女の子のような趣味を持っていた。
その陶器の人形は、隣国のローゼンヌ王国の特産品である「ローゼンヌ焼」で作られている。
髪、表情、服装まで精巧に表現されたその人形は、工芸品として価値が高い。
値段は高い物だと一体十六万ユール――日本円に直せばおよそ八十万円――以上することがある。
そして彼はその人形を大切に扱ったりはしない。壊すのである。
何か気に入らないことがあると、かんしゃくをおこし、人形を壁や床に叩きつけて壊すのだ。
そしてまた、ローゼンヌ王国から輸入することになる。
王や王太后がそんな無駄遣いをするため、国庫は火の車となり、たびたび増税や臨時徴収が行われ、領民は苦しんでいた。
ジスタス公はそんな彼らを諌めるべき立場のはずだが、特に浪費をやめさせる様子もない。
彼にとって大切なのは自分の領地であり、ヴィンスレイジ王領の領民が苦しもうと、あまり気にならないのかもしれない。
「……という訳で、ソームズ公領に貧民たちが逃げ込んでくるんですよ。彼らはほとんど財産を持っていないので、その生活を成り立たせてやるために、私たちも頭を痛めているんです」
バーラの話を聞いて政人は、これはまずい時に行くことになるな、と不安になった。
国が乱れているときは、何が起こるかわからない。
民衆が蜂起するかもしれないし、隙をついて隣国が攻めてくるかもしれない。
治安が悪ければ、政人たちが安全に行動することが難しくなるのだ。
タロウは政人と一緒に、バーラの話を真剣に聞いている。
だが、ルーチェは明らかに興味がなさそうで、あっちへフラフラ、こっちへフラフラと道草を食っていた。
政人が注意すると、
「難しい話は苦手なんだよ。考えるのは任せた」
と、いかにも彼女らしい返答が返ってきた。
(まあ、仕方ないな。これは元々俺の仕事だ)
四人は港へとたどり着いた。
バーラの船は全長が五十メートルはありそうな、三本マストの帆船だった。
一番高いマストの天辺には、円の中に猛禽類のような鳥が描かれた旗が翻っている。
「あれはソームズ家の家紋です。『鷹』をモチーフにしています」
ルーチェとタロウは初めて見る船の威容に興奮していた。
「すっげーっ! こんなにデカイのかよっ!」
「……驚きました。これが船なんですね」
バーラは驚く二人の様子を微笑ましそうに眺めている。
「これだけじゃありませんよ。そこに停泊している船もソームズ家の船です」
と、隣に停泊している同型船を指差して言った。二隻編成でソームズ公領へ向かうようだ。
二隻の船では、荷物の積み込み作業が行われており、何人もの男たちが汗を流して働いていた。
(メイブランドには、輸出するような品があったかな)
「何を積み込んでるんですか?」
「海産物や羊毛、じゃがいも――それとゴルグ石ですね」
「あ、ゴルグ石ならアタシ知ってるぜ。確か世界一硬いんだよな」
ルーチェがやや誇らしげに言った。
「親父の剣がそれでできてるんだ。刀身が虹色に光ってるんだよ」
「それはとても貴重な剣ですね。ゴルグ石はメイブランドでしか採れない上に、加工が難しいんですよ」
それからバーラは眉をひそめて言った。「少量しか輸入できない貴重な素材なので、ソームズ家お抱えの鍛冶師にだけ渡るようにしてるんですが……」
「どうかしましたか?」
「どうも横流ししている業者がいるらしくて……なんとか摘発しようとしてるんですが……」
いろいろと苦労はあるようだ。
バーラは気を取り直したように言った。
「今夜までには積み込みが終わるでしょう。明日の朝九時に出航しようと思うのですが、よろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
明朝、ここで落ち合うことを約束してバーラと別れた。
それから、別れの挨拶をするため、ゴドフレイの屋敷に向かった。
入り口で立ち番をしている男に、ゴドフレイに会いたい旨を告げると、応接室に通された。
「そうか、もう行きなさるのか」
ルーチェとタロウを紹介し、明朝出航するつもりだと告げると、ゴドフレイはどこか寂しそうな様子だった。
「はい、親分にはお世話になりました。ひと悶着はありましたが、落ち着くところに落ち着いたようでよかったです」
「世話になったのはこっちの方だ。あんたにはでけえ借りができたな」
そう言ってしばし考える様子を見せた後、言った。「オイラは借りは返さねえと気が済まねえ性分でね。なにかあんたの力になれることがありゃあいいんだが……」
「それでしたら――」
政人は言おうかどうしようか迷ったが、意を決したように言った。
「俺には親友がいるんです。名前は森沢英樹。光の女神の加護を受けた勇者です」




