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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第五章 摂政殿下の政

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133.タロウとアモロ

 父親を帰した後、政人はアモロと話し合い、彼を秘書として月三万ユールで雇うことで合意した。

 特に高い金額ではないが、残業手当は別に支払う。


 いろいろと話をしてみてよくわかったが、彼は十四歳にしては広い知識と深い教養を持っていた。

 ヴェネソンと同様に、様々なジャンルの本を読んでいるからだろう。


 知識と教養だけでなく知力も高いようで、政人の話をすぐに理解し「それはこういうことですね」と自分なりの見解を加えて質問してきた。

 一を聞いて十を知るとはこのことか、と政人は感心した。


 彼が信頼に足る人物であると判断した政人は、レンガルドに召喚されてからの、これまでの経緯を話した。

 故郷の地球に帰ることを諦め、この国のために生涯をささげる決意をしたことを。


「魔王討伐という大変な仕事を、ヒデキ一人に任せるのは心苦しい。でも、俺はクオンと共にガロリオン王国を豊かな国にすると決めたんだ」


 アモロは表情を引き締めた。


「では俺はガロリオン王国を、世界一教育水準の高い国にします」


 こいつならやるだろう、と政人は思った。



 政人は、アモロをまずルーチェ、タロウ、ハナコに紹介しておくことにした。


「セトルモンド・アモロです。殿下の秘書として使ってもらうことになりました。よろしくお願いします」


 彼は、ルーチェたちに向かって頭を下げた。


「よろしくね」


 ルーチェはさわやかな笑顔を見せ、アモロの肩をたたいた。


「マサトはとても重い責任を負わされて大変なの。どうか助けてあげて」

「は、はい」


 彼は赤くなってうつむいている。


(ルーチェが俺の恋人であることは、後で話しておいた方がいいな)


「御主人様のそばにずっといられるとは、うらやましいのである」


 ハナコは、少し納得がいかない様子だ。

 政人は、ハナコを秘書にしようかとも考えたのだが、彼女にはもっと大きな仕事をさせたいとも考えていた。


「こう見えても御主人様はすごい人なのである。近くにいれば、学ぶことは多いであろう。励めよ、少年」

「はい」


(この二人も大丈夫そうだな、問題は――)


「タロウ、彼とはこれから一緒にいることが多いだろう。仲良くやってくれ」

「……わかりました」


 政人にうながされ、タロウはアモロに向かって、軽く頭を下げた。


「……よろしくな」

「ああ、よろしく」


(やはり、ぎこちないな)


 タロウの気持ちは、政人にもなんとなくわかる。

 彼は警戒しているのだ。

 突然やってきて政人の直属の部下になった、自分と歳が近い少年を。

 どちらが順位が上か、などとは考えていないだろうが、ライバル意識は持っていそうだ。


(時間が経てば、仲良くなってくれるだろう)


 そう期待することにした。




「国債が全く売れないだと?」

「はい、まだ売り出して一週間ではありますが、一件の買い手もつきません」


 フサーレの報告は、政人にとって意外なものだった。


 国債が売れなければ、資金を確保できない。

 非情にまずい事態なのだが、報告するフサーレの声は嬉しそうだった。

 赤字国債など、売れない方がいいと思っているのだろう。



 ここは先代のジスタス公も使っていた、摂政の執務室だ。

 政人はまだ正式に摂政に就任したわけではないが、既に国政の最高責任者として活動している。

 政治的空白をつくるわけにはいかないからだ。


(思い通りにはいかないものだな)


 政人は黒檀製の高級な机に肘をついて、考えを巡らせる。


 そんな政人の隣に立っているのは、「従士(じゅうし)」に任じられたタロウだ。

 主な任務は政人の身辺警護である。

 この城にいる間は危険はないはずだが、彼は気を緩めることなく警戒を続けている。


 近くにある机で書類仕事をしているのは、秘書のアモロだ。

 仕事をする人間には、命令された仕事をきっちりこなす者と、自分から仕事を探して動く者がいるが、彼は後者だった。

 どちらのタイプが優れているかは一概には言えない。

 だが、やることが多すぎて、てんてこ舞いの政人にとっては頼もしく感じられた。


「告知はちゃんと行ったのか?」

「はい、王都内の数か所に公報を掲示しました。また、ヘルン新聞にも広告を載せています」


(まだ一週間しか経っていないし、判断を下すには早いが……)


 国債の募集はガロリオン王国全土で行っているが、電信のないこの世界では、情報の伝達速度は遅い。

 だから一週間程度では、遠くにいる購入者の情報が入ってこなくても当然である。


 それでも、王都の購入者の情報は入ってきてもいいはずだ。

 不景気とはいえ、アモロの実家のような資産家も少なくはない。一件も買い手がつかないとは予想外だった。


「ガロリオン銀行はどうした。交渉に行ったのだろう?」


 ガロリオン銀行はこの国で最も大きな銀行で、本店は王都にある。


「はい、私が直接頭取と会って国債の購入を勧めたのですが、相手は言葉を濁して、買うとも買わないとも返答せず……」

「今は金利も低くはないし、目先の利く銀行家なら、この話に飛びつくと思ったんだが……」


 赤字国債を発行するという案は、皆の反対を押し切って始めた政策だけに、結果が出ないことに焦りを感じた。


「アモロ、意見を聞かせてくれ。赤字国債を発行するというのは、やはり良くなかったのだろうか」

「いえ、そんなことはありません。殿下でなければ思いつかない、斬新で素晴らしいアイデアだと思います」


 初めからこの案に賛同したのは、彼が初めてだ。


「では、なぜ買い手がつかないのだろうか」


 アモロは顎に手をあてて考え込んでいたが、しばらくして言った。


「おそらく、王家が信用されていないのだと思います」

「信用?」

「前政権の悪政はひどいものでした。領民にとってお上は、自分たちの財産を奪い取る存在です」


 フサーレの顔が引きつったが、アモロは構わず続ける。


「そんな王家が、赤字国債を発行したのです。警戒されるのは当然のことかと」


 政人はアモロの言わんとするところを察した。


「なるほど、踏み倒しを警戒しているわけか」


 国家権力に物を言わせれば、借金を踏み倒すことは可能だ。

 もちろんそんなことをすれば信用を失うが、もともと信用されていないのであれば、関係ない。


「そのとおりです。王家はそういうことをやりかねないと思われています。シャラミア女王の悪政は、それだけ酷かったのです」


 フサーレは黙っていられなくなった。彼はシャラミアの政権で宰相を務めていたのだ。


「黙れ小僧! 貴様に政治の何がわかるか!」


「ああ、俺にはわかりませんね。あんたは領民が困窮(こんきゅう)していたにもかかわらず、さらに徴税し、貧民を大量に生み出した」


 アモロはきつい口調で難詰(なんきつ)した。「そこにどんな政治的意図があったのか、小僧の俺でもわかるように、教えてくださいよ」


「何を!」


「やめろ二人とも!」


 政人は二人を黙らせた。「フサーレ、国債については引き続き募集を続けてくれ」


「はい」


 フサーレは退出した。部屋を出る前に舌打ちをしたのが聞こえた。


(あいつは俺に命令される立場になったことに、不満を感じているだろうな)


「アモロ、君が言いたいことはわかるが、言葉遣いには気を付けろ。無駄な軋轢(あつれき)を生むことになる」

「しかし、あの男は前政権の宰相でした。あいつがちゃんと庶民の暮らしに目を向けていれば――」


「アモロ、御主人様は言葉遣いに気をつけろと言ったぞ。反論する前に答えろ」


 タロウが注意した。

 アモロはタロウをちらっと見ただけで、政人に向き直った。


「……失礼しました、殿下。言葉遣いには気をつけます」


 彼らが打ち解けるには、まだ時間がかかりそうである。


「でも、どうしましょうか。このままでは資金を得ることができません」


 アモロは心配そうだ。


「信用がないのなら、信用を高めればいい」

「どうやって信用を高めるのですか?」

「俺に考えがある。聞いてくれ」


 政人は自分の考えを話した。




 ――それから二日後。


 ソームズ公とタンメリー女公が王都に到着した。

 これで、五人の諸侯がそろったことになる。


 さっそく、クオンの即位式の準備が整えられた。

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黒蛇の紋章

― 新着の感想 ―
[気になる点] 戦争の後ですし徴税も厳しかったし生産が滞ってますよね 大変ですね
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