12.ゾエ防衛軍
政人がそう提案すると、隊長は驚いた。
「マサト殿! ならず者たちを雇うなどありえません! それに、そんな事を決める権限がマサト殿にありますか!?」
あるわけがない。
「今までも上納金という形で金を渡していたんだろ。そしてゴドフレイ一家は町を守っていた。非合法でやっていたことを合法的にやるだけの話で、何も変わっていない」
政人は隊長に言い聞かせる。「それどころか、今まで完全に野放しになっていたゴドフレイ一家を統制下におけるようになるんだから、町にとってもいい話だ」
政人はゴドフレイに向き直った。
「どうでしょうか。住民との間にあった壁を、なくすことができると思うのですが。もし提案をのんでいただけるなら、俺と隊長で代官を説得して、交渉に応じるようにさせます」
「私も?」
隊長が聞き返したが、政人は当然だというように答える。
「あの押しに弱い代官なら、隊長が有無を言わせぬ口調で説得すれば聞くはずだ」
ゴドフレイは政人を、面白い生き物を見るような目で眺めている。
「いいのかい、オイラたちは女王だろうが聖騎士だろうが、屁とも思わない無法者だぜ」
「女王など糞食らえだ」
強い調子でそう言うと、ゴドフレイはニヤリと笑って言った。
「あんたとは、気が合いそうだな」
―――
代官は隊長が説得するまでもなく賛成した。ゴドフレイ一家の暴力行為が収まるならば、彼としてもありがたい話だ。
交渉の結果、ゴドフレイ一家はゾエの町の防衛軍となり、ゴドフレイが司令官として指揮を執ることになった。
防衛軍へは、町の予算から軍事費として報酬を支払う。
商店からみかじめ料を徴収するのをやめる代わりに、今までの上納金の倍の額を支払うことになった。
また、政人の提案により、防衛軍の兵士には、そろいの制服を着せることになった。
今までは構成員がならず者の恰好で町を歩くので、住民が怖がっていたが、これからは防衛軍の制服を着ることになる。ビシッと制服を着こんだ兵士の姿は、住民の目には頼もしい存在として映るはずだ。
「先生、お疲れ様です!」
町で政人に会った防衛軍の兵士が、なぜかそんな挨拶をしてくるようになった。
(ヤ〇ザの用心棒になった覚えはないんだが)
政人は防衛軍において「特別顧問」という役職についていると、後で聞かされた。政人本人のあずかり知らぬところである。
ルーチェがそんな彼らの様子を見て言った。
「すげーよなあ、三百人もいた連中を追い返したばかりか、従えちまうなんて」
「従えているつもりは全くないが……、まあ、うまくいったのは、ゴドフレイが聞く耳を持っている人物だったおかげだな」
「それにしても、マサトが頭いい奴なのは知ってたが、三百人のゴロツキ共の前に出ていく度胸も相当なモンだぜ」
(確かに、日本にいたころの俺なら無理だったかもしれない。見知らぬ世界に放り込まれて精神的に強くなったかな?)
ルーチェはこの事件における政人の活躍を聞いて、心底から感嘆した。彼女の抱いていた常識では「敵は倒す」であって、「敵と仲良くなる」などということは、思いもよらないことだった。
他の聖騎士たちからも称賛された。
隊長は、政人の女王に対するコメントに対して、思うところはあったろうが、それを表に出すことはなかった。
(こいつらとも、そろそろお別れか)
そう思うと寂しい気分になった。ずっと一緒にいれば、どうしても情はわく。
そんな寂しさを紛らすべく、政人はあることを考えていた。
――イヌビトを飼おう、と。