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11.ゴドフレイとの会談

 僧坊に隣接する教会内に、話し合いの場を用意してもらった。


 政人と隊長の二人が並んで腰かけ、テーブルを挟んだ向かい側には、ゴドフレイが座っている。ゴドフレイの後ろには四人の子分が並んで立っている。

 昨日の事件の当事者であるスキンヘッドと角刈りの男は、この場にはいない。


 ゴドフレイはこちらを品定めするように、じっと見つめてくるが、その目にはどこか愛嬌があった。


「昨日の事ァ、ウチの息子らもよくなかった。だが往来で女に殴られて無様な姿をさらしたとあっちゃあ、そのままで済ますわけにゃいかねえ。それでも、本気で嬢ちゃんをどうこうするつもりはなかったよ。形だけでも、互いに詫びを入れて手打ちにするつもりだった」


(じゃあ、三百人も集めるなよ)


「息子さん達は、それで済まそうとは思ってないように見えましたが」

「どうも血の気の多い奴らでいけねえ。……まあオイラも聖騎士が絡んでるって聞いて、頭に血が上っちまったんだがよ。あいつらは――」


 隊長が何か言いそうだったので、慌てて言葉を引き取る。


「聖騎士になにか含むところがおありですか?」

「聖騎士だけじゃねえ、女王と聖騎士だな。あいつらは王都しか見てねえ。他の町には税を吸い上げるだけで何もしねえ」


「その税をかすめ取っているのは貴様らだろうが! 町の予算から上納金を受け取っていること、どう申し開くつもりだ!」


 隊長が我慢できずに言い返す。


「何も申し開かねえよ。貰うべきもんを貰ってるだけだ。おまえらの代わりに町を守ってやってる謝礼としてな」


(やはりそうか)


 政人はゴドフレイの言葉から、自分の考えが間違っていないことを確信した。


「ふざけるな! 町に寄生する寄生虫のくせに居直るつもりか!」


(もう黙っててくれないかな、この人)


「女王の犬がキャンキャン吠えるなっ!!」


 ゴドフレイが一喝すると、隊長も含めて、この場にいる全員が、息を吸うのも忘れたように凍り付いた。


 一代で三百人を超える組織を作り上げた親分だ。ただの愛嬌のある老人なわけがない。

 その迫力は、鬼神をも震え上がらせるものだった。


 隊長はなんとか言い返そうとするが、口がパクパクするだけで言葉が出てこない。

 その様子を見て、政人は隊長に言った。


「隊長、この町には兵士がいない。にもかかわらず町は平穏を保っている。なぜかわかるか?」


 町を散策したときのことを思い返す。通りには多くの種類の店が立ち並び、人々は笑顔で行き交っていた。


 屋台がならず者に蹴り倒されるという事件はあったが……まあ、みかじめ料とやらを払っていれば問題ないのだろう。


「それは……警察が治安を守っているからでしょう」


(ヤ〇ザに勝てない警察だけどな)


 警察と言えば聞こえはいいが、役人に当番制でパトロールをさせているだけである。


 メイブランド以外の国では兵士が町に常駐し、外敵に備えながら衛兵として町の治安も守っている。

 しかし、ここには兵士がいないので、官吏がその役目を担うしかないのだ。

 それを警察と呼んでいるわけだが、もともと治安維持が専門の者たちではないし、装備も貧弱なので、戦闘力は低い。


「警察は町の内部を守る組織だ。外からの敵には対応できない。外からやってくる敵に立ち向かうには軍隊が必要だ」

「神聖国であるメイブランドを攻める国など存在しません」


「それはあまりにも希望的観測だと思う。仮に攻めてこないとしても、備えはしておかねばならない。それは国家の義務なんだ」

「それは……そうかもしれませんが……」


「それに外国よりも、もっと現実的な脅威がある」

「現実的な脅威?」

「海賊だ」


 そう言った時、ゴドフレイが「ほう」という声を出した。


 海賊はこの世界にも存在する。

 沿岸の町や村を襲撃し、富を奪っていく。


 奪うのは「物」だけではない。「人」もさらっていく。奴隷として売るためだ。


 ゴドフレイに向き直り、言った。


「親分さん、昨日、灯台の高い所から遠眼鏡を覗いている息子さんを見ました。海賊を警戒していたのではありませんか?」

「気付いてやしたか」


 政人たちを見張るために、わざわざ灯台に上ったりはしないだろう。宿舎の場所は代官から聞き出せばいいのだから。


「ゾエではもう十年以上海賊の襲撃はありませんが、小さな漁村などでは今も時々被害が出ています」


 政人がそう言うと、隊長がハッとした顔で政人を見た。知らなかったのだろう。


「オイラの若いころは、いつ海賊がやってくるかとビクビクしてたもんさ」


 ゴドフレイは往時を思い出すように語る。「前の王は今の女王よりはマシな男でな。海賊対策に聖騎士をよこしてくれた。だがな、この聖騎士がまるで役に立たなかった」


 隊長がまた何か言い返すのではないかと心配したが、ここは黙って話を聞くことにしたようだ。

 さっきのゴドフレイの一喝が効いたのかもしれない。


「聖騎士は何人来たと思う? 二十人だぜ!? たった二十人でなにができる? 海賊は何百という数でやってくるんだ。海賊の襲撃時に真っ先に逃げ出したのは聖騎士だったよ」


 メイブランドの聖騎士の主要な任務は迷宮探索だ。迷宮内は大軍を展開できるほどの広さがない。よって、聖騎士の行動単位は最大でも二十人だ。


 町の防衛のためには聖騎士ではなく、兵士で構成される軍隊を送るべきだった。


「国は当てにできないと悟ったオイラは、自分たちで町を守ろうと決意した」

「そのために『家族』を集めたんですね?」


「世間にはよ、どうしても社会に溶け込めねえ奴がいるんだ。

 学がねえから周りからバカにされ、心がすさんでいく。

 自分も周りに強くあたる。

 そしてみんなから恐れられるようになる。

 堅気(かたぎ)とは壁ができちまって、もう真っ当に生きている者たちの中に入っていけねえんだ。

 生まれが貧しいせいで、初めから悪事に手を付けなければ生活できなかった者もいる」


 レンガルドには社会保障、という概念自体が存在しない。

 また、義務教育も存在しない。教育を受けられるのは金を持っている家の子供だけだ。


「オイラはそんな奴らを集めて、有り余ってる力を使わせてやってるんだ。……まあ、そいつらを食わせていくにはどうしても金が必要で、みかじめ料を取っているのもそのためだ」


「でも、それではいつまでたっても壁はなくなりませんよ」

「それはそうだが――」

「提案があります」


 政人はゴドフレイの目を見つめて言った。


「ゾエの町は、ゴドフレイ一家をゾエ防衛軍として正式に雇用します」

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