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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第四章 ガロリオン王国の動乱

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107.ギラタンは一計を案じる

「およそ三千人の兵士を乗せた船団が、ホークランを出航しました。ソームズ公も乗船したのを確認しています」

「ご苦労だった。引き続き、港を見張っていろ」

「はっ」


 ギラタンは、港を監視させていた部下の報告を聞き、ホークランを落とす機会が訪れたことを知った。


 ソームズ公はアンクドリアの救援に向かったのに違いない。


 つまり、今ホークランにはわずかな兵しか残っておらず、ソームズ公もいないということだ。


(やれやれ、大功を立てるチャンスが来ちまったな)


 ギラタンはもともと、今回の出兵には反対の立場であり、シャラミアにもそう意見していた。

 ダンリーが総大将であることも気に食わなかった。


 だが不本意な戦争であっても、命令を受けて出陣した以上は、全力を尽くさねばならない。


 彼の指揮下には王家の兵二万人と、傭兵九千人がいる。

 こうなれば、城を囲んだまま時を費やすべきではない。


 ギラタンはホークランを攻略することを決意した。



 彼はネフと共に、ずっとシャラミアのそば近くに仕えていたが、シャラミアの即位後は、将軍に抜擢(ばってき)されている。


 これはもちろん大出世と言えるのだが、相棒のネフが親衛隊長として、今もシャラミアの近くにいることを考えると、どこか釈然としない思いもあった。

 自分はシャラミアから遠ざけられたのではないか、と。


 だが、そうではない。これはシャラミアの人事が適材適所だったと言える。


 堅物で融通がきかないネフと比べて、ギラタンは判断力に優れ、臨機応変な対応をすることができる。

 シャラミアのボディーガードをさせておくよりも、戦場において実力を発揮するとシャラミアは考えたのだ。


 ギラタンは改めて、ホークランの威容を眺めた。

 南側に正門が見える。そして東と西にもそれぞれ門があり、北側は海に面している。


 ぐるりと取り囲む城壁の高さは十メートルを超え、さらにその外を、水堀が囲んでいる。


 ギラタンは、いかに兵力で敵を大きく上回ろうと、この城を力攻めで落とそうとは考えなかった。

 それではこちらも大勢の死傷者を出すことになる。そんな()は犯せない。


 彼は一計を案じた。




 先日の城門前の戦いの結果、千二百人のソームズ家の捕虜を得ていた。

 ギラタンは、捕虜たちに声をかけた。


「ソームズ公は三千の兵を率いてアンクドリアへと向かったそうだ。今、ホークランには二千程度の兵しかいないはずだ。俺たちはこれから総攻撃をかける。もうお前らに勝ち目はねえぞ」


 捕虜たちは、ギラタンの言葉を聞いても、じっと押し黙っている。


「だから、先がないソームズ家など見捨てて、今すぐに王家に仕えろ。おまえらに一つ仕事を与える。もしそれを上手くやってのけたら、褒美をやろう」


 ギラタンの言葉を、捕虜たちは口々に拒絶した。


「無駄な勧誘はやめろ! 我々が閣下を裏切るなどあり得ぬ!」

「貴様こそ、非道な女王など見限ってしまえ!」

「いくら大軍で攻めようと、ホークランは決して落ちぬ!」


(さすがソームズ家の兵士だな。どいつもこいつも大層な忠誠心だ。だが、千二百人もいれば、一人ぐらいは――)


「その仕事とやらに成功したら、褒美は何をくれるんだ?」


 一人の捕虜が手を上げた。まだ二十歳ぐらいの若者だ。


「そうだな、五十万ユールやろう」


 若者はニヤリと笑った。


「よし、俺はソームズ家から王家に鞍替えする。なんでも命令してくれ」


 周囲の捕虜たちから罵声がとぶ。


「リュッカ、おまえ裏切るのか!」

「見損なったぞ、恥を知れ!」


 だがリュッカと呼ばれた男は、仲間たちの罵声を意に介さなかった。


「なんとでも言え。俺は先がないソームズ家を出て、シャラミア女王に忠誠を誓う」


 ギラタンはリュッカという男を観察した。

 その目付きからは意志の強さと知性を感じさせる。だが今、その口元には卑屈な笑みが浮かんでいる。


(こいつなら大丈夫そうだな)


「よし、ついてこい。仕事を説明する」




「リュッカ、おまえにはこれから、ホークランに戻ってもらう。正面からじゃなく、船で港から入るんだ」


 ギラタンが言うと、リュッカは不思議な顔をした。


「船ですか? どこの港から出港するんですか?」

「港じゃねえ、近くの浜辺から、小舟で行くんだ」


 連合軍は軍船を持っていないし、大きな船を接岸できるような場所もない。だが漁師が使うような小舟なら、出すことはできる。


「おまえは捕虜になっていたが、(すき)をついて逃げてきたと、上官に報告するんだ」


 ギラタンは、リュッカが話についてきているのを確認しながら、続けた。「そして上官に、再びホークランを守るために戦いたいと申し出て、軍務につくんだ。できるな?」


「はい。軍務についた後はどうするんですか?」


「三日後の午前二時、俺たちは東門から夜襲をかける」


 ギラタンは作戦を打ち明けた。「おまえはその時間になったら、東側の跳ね橋を下ろし、門を開けるんだ。そして、俺たちは開いた門から突入する。できるか?」


「それは……あ、はい、できると思います。でも、門を開けた後はどうすればいいですか? 突入した兵に殺されたら、手柄を立てた意味がないですし」


「ソームズ家の軍装を脱ぎ、武器を捨てろ。ウチの兵士たちには、敵の兵士以外は攻撃しないように命令を出しておく」


「なるほど。ではその後は、戦いに巻き込まれないように隠れていますね」

「ああ、それでいい。だが、ウチの兵士たちが略奪をするかもしれないから、気をつけろ」

「略奪ですって!?」


「正規軍はそんなことはしないが、傭兵たちには略奪を許可してあるんだ」


 ギラタンは、苦々しい表情で言った。「だが、奪うのは財宝だけで、人間は傷つけないようにと言ってある。おまえの実家にも被害が出るかもしれんが、その分の埋め合わせは後でちゃんとする。だから、抵抗はするな」


「わかりました」


 とりあえず、納得はしたようだ。


「他に何か質問は?」

「大丈夫です。任せてください」


 リュッカが自信ありげに答えると、ギラタンは満足そうに微笑んだ。


「この作戦が成功すれば、一番の手柄はおまえだ。五十万ユールどころか、陛下から騎士に叙任してもらえるかもしれんぞ」


 そう言って、リュッカの肩をたたいて激励した。

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黒蛇の紋章

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