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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第四章 ガロリオン王国の動乱

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104.公都アザレアの解放

「そ、そんな……」


 カダレは青くなって震えている。


「自決しろだと? なめるな小僧! こんなことをして、ただで済むとでも思っているのか!」


 トラディスが怒鳴ったが、政人は意に介さない。


「へえ、どうなるって言うんだ?」


「ここが反乱軍の手に落ちたと陛下が聞けば、すぐに討伐軍を派遣してくださるだろう。そうなれば、貴様ら雑兵の群れなど、あっという間に蹴散らされる。首謀者は当然死刑だ」


「討伐軍なんて派遣できるわけがないだろ。王家が抱えている兵士のほとんどが、ソームズ家を討伐にホークランへと向かったんだから。他の諸侯もそうだ。ここにまわす兵力は存在しない」


 それはクリッタの発行した地下新聞にも書いてあったことだ。

 政人の言葉はその通りなので、トラディスには返す言葉がなかった。


「さあ、カダレ、潔く自決しろ。そうすれば、二千人以上いる役人や兵士たちの命は助けよう」


 カダレは助けを求めるようにトラディスを見た。

 トラディスはカダレを嫌っていたが、見捨てるわけにもいかない。


「ここで貴様とクオンを人質にすれば、外にいる連中も手が出せまい」


 そう言って、剣に手をかけようとしたが、ルーチェに「動くな!」と一喝されると、本当に動けなくなった。

 トラディスだけではない。

 執務室には他に三人の兵士がいるが、同様に動けないでいる。


「そんなことをさせると思う? なんのためにアタシがここにいると思ってるの?」


 ルーチェは既に自分の「声」の能力を自覚して、使いこなしている。

 彼女が威圧すれば、この部屋に何十人いたとしても、制圧できるだろう。


「さあ、おまえも代官を務めるほどの男なら、覚悟を決めろ」

「ううう……」


 カダレは額から脂汗を流し、見るも哀れな状態だ。

 だがそこへ、救いの神が現れた。


「マサト、彼はただ、命令されたからここにいるだけです。助けてあげてくれませんか」


 クオンがそう言うと、カダレの表情は、希望を見出したように明るくなった。

 だが、政人の返事はつれない。


「いや、クオン。それでは領民たちは納得しない。誰かが血を流す必要があるんだ」

「マサト、僕はそうは思いません。僕は誰も死なせたくはないんです。どうか、考え直してください」


 このやり取りは、もちろん茶番である。

 政人とて、誰一人犠牲にするつもりはない。


 ただ、クオンを「慈悲深い王」として知らしめるために、この茶番劇を演じている。

 クオンのために自分は悪役になるつもりだった。


「クオンがそう言うのであれば、仕方ないな」


 政人はカダレに言った。「おい、降伏するなら命まではとらない。どうする?」


 カダレはクオンに向かって、ひざまずいた。


「このカダレ、クオン様に生涯の忠誠を誓います」


 クオンはカダレに近づき、彼の手をとった。


「僕はまだ子供なので、優秀な人たちの助けが必要です。どうかあなたも僕を助けてください」

「仰せのままに」


 カダレは涙を流した。生き残るための方便ではない。心からクオンに忠誠を誓っていた。

 他の兵士たちもクオンの前にひざまずき、忠誠を誓った。


 残るはトラディスだけになった。その(ほお)から(あご)まで覆っているひげが、怒りで震えている。


「この裏切り者めらがっ!」


 トラディスはクオンに向き直った。「誰も死なせたくないだと? なめるなよガキが! 陛下の家臣が、腰抜けばかりではないことを教えてやるわ!」


 そう言うと彼は、ルーチェに威圧されているにもかかわらず、剣を抜き放った。


(さすがに騎士だな。たいした気迫だ)


 ルーチェとタロウが、政人とクオンをかばうように前に出た。

 だがトラディスの狙いは、政人でもクオンでもなかった。


 彼は剣の切っ先を自分の胸に向け、そのまま突き刺そうとした。


 反応できたのはタロウだけだった。

 彼は低い体勢で、一瞬でトラディスに近接し、その無防備な足を払った。


「うおっ」


 トラディスはバランスを崩して転倒した。

 慌てて起き上がろうとしたが、タロウに腕を取られ、そのまま腕ひしぎ十字固めを()められた。

 すでに剣は取り落としている。


 政人はこんな命令は出していない。

 トラディスが自決するのを黙って見守ることもできたはずだ。


 タロウはとっさに、自らの判断で動いたのだ。


 もちろん、トラディスを助けたかったわけではない。

 クオンに従うことをよしとせず、シャラミアに最後まで忠誠を捧げた男がいた、という事実を作りたくなかったのである。

 彼は、政人の意図をそこまで読み取れるようになっている。


「よくやった、タロウ」


 政人はそう言って、二人に近づいた。


「くそっ、殺せ!」


 トラディスはタロウに完全に動きを封じられたまま、()えていたが、やがて諦め、抵抗しなくなった。


「タロウ、放してあげて。もう大丈夫だと思うから」


 クオンも近くに来ていた。

 タロウは政人を見た。政人がうなずくと、トラディスを解放した。


 トラディスは放心したように、表情をなくしている。

 興奮状態が一旦()めてしまうと、また気分を盛り上げることは簡単ではない。

 もう自決しようという気力はないようだ。


 クオンはトラディスの手を取ろうとした。


「待て、クオン! そいつは、子供だって殴るような奴だぞ!」


「マサト、大丈夫だよ」


 クオンはそう言って、トラディスの右手を両手で握りしめた。「どうか死なないでください。僕に仕えなくてもいいです。でも、生きていてください」


 トラディスはその言葉に、全く打算がないことがわかった。

 それは、直接言葉をかけられた彼だけが、わかることである。


 彼にはもう、抵抗する気力がなかった。


「わかりました」


 トラディスは姿勢を正して言った。「クオン様に……忠誠を誓います」



 それからほどなくして、城内の者たち全てが降伏した。

 ここにジスタス家の公都は、クオンの支配下に入ったのである。




 政人とクオンたちは、再び中央広場にやってきた。


 カダレたちは来ていない。

 群衆が彼らの姿を見れば、憎しみにかられて暴動が起きる恐れがあるからだ。


 群衆はさっきよりも、さらに増えているようだ。


 成り行きを心配していたロッジたちに、上首尾に終わったことを説明すると、彼らははじけるように喜びを爆発させた。


「みんなよくやったのである。褒めてつかわそう」


 ハナコが政人たちを上から目線で褒めた。

 政人は苦笑いするが、クオンは素直に喜んでいる。


『やったね、さすがは私のマサトさん。クオン君も頑張ったね』


 ミーナが『私の』などと余計なことをメモ帳に書いているので、気になってルーチェの様子をうかがったが、彼女は妹を見るような優しい目付きで、ミーナを見ていた。


 ルーチェは、政人からの愛を全く疑ってはいないようだ。

 政人が自分以外の女を好きになるなど、絶対にないと信じているのだ。


(もし、その信頼を裏切ったときにどうなるか……想像したくもないな)


 そしてロッジは泣いていた。

 泣くほど嬉しいのはわかる。

 だが、彼にはまだやることがあるのだ。いつまでも泣いていられては困る。


「おい、ロッジ。ここに集まった民衆を見てみろ。皆、おまえの言葉を待ってるんだ。いつまでも泣いていては、頼りない領主と思われるぞ」


「そうなんですが、ウウッ、涙が止まらないんです」


 ロッジは手で顔を覆っているが、その下から涙と鼻水があふれてくる。「私の代でジスタス家がなくなってしまい、ご先祖様には本当に申し訳なく思っていたんです。でも、これでようやく、ご先祖様に顔向けができます」


 ルーチェがロッジの肩に手をあてて、(さと)した。


「大丈夫よ、ロッジ。その気持ちは、ここに集まっている者たち全員が共有しているから。さあ、彼らの呼びかけに答えてあげて」


 群衆たちから、「ロッジ様、頑張ってー」と声がかかる。


 ロッジはルーチェに背中を押されて、群衆の前に立った。


「みんな、本当にありがとう。グスッ。みんなのおかげで、公都を、取り戻せました」


 その言葉を聞いた群衆から、大歓声が上がった。

 それを聞いたロッジは、それ以上言葉が出ないようだ。


(ジスタス家は王都では嫌われていたが、領民からは慕われていたんだな)


 とはいえ、ロッジがこの調子では、どうにも締まらない。群衆たちからも、戸惑いの気配が伝わってくる。

 どうしたものかな、と思っていると、クオンが口を開いた。


「マサト、ロッジ、ここは僕に任せてもらえませんか?」

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