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藤井政人の異世界戦記 ~勇者と共に召喚された青年は王国の統治者となる~  作者: へびうさ
第四章 ガロリオン王国の動乱

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103.民衆の怒り

 翌朝、政人たちとエルクールの住民五千人は、公都アザレアに向かって進軍を開始した。


 もちろん体の弱っている者は、その世話をする者と共に留守を任せている。


 いくら戦闘にはならないとはいえ、政人の本音では、やはり女、子供、老人たちを加えることは反対だったのだが、公都の住民に与える心理的効果を考えれば、五千人という人数は大きい。


 エルクールのほとんどの住民が戦う姿を目にすれば、彼らも発奮し、「俺たちも戦おう!」と思うはずだ。



「進め! 進め!

 故郷を取り戻すため、俺たちは敵地へと行進する

 シャラミアよ、気をつけるがいい

 これが民衆の怒りだ!


 戦え! 戦え!

 誇りを取り戻すため、俺たちは剣を手にする

 臆病者よ、立ち去るがいい

 これは勇者の戦いだ!


 新しい世界は栄光に満たされるだろう

 偉大なる王クオンの名のもとに!」



 少年少女たちが舌足らずな声で、何やら勇ましい歌を歌っている。

 その中心にいるのは、例の町長の息子だ。名前はエリオというらしい。


(ガロリオン王国のガブローシュだな)


 彼らをなんとしても守らねばならない。

 将来、クオンと共に王国を背負って立つ者たちである。


 今回、大人たちと共に戦ったという経験は、一生の財産となるだろう。




 公都までは大した距離ではなかったのだが、足の弱い者たちも混じっているので、三日がかりの行軍となった。


 それでも、特に体調を崩したものはいなかった。

 彼らは意外にしたたかで、食料も隠し持っていたようだ。


 政人が閉口したのは、行軍中だというのに、毎晩酒宴を開いて騒ぐことだった。

 プリオン神父によれば、昼間に飲むのを我慢しているだけでも褒めてやるべきなのだそうだ。


 公都には壁もなく、守備兵もいなかった。

 住民たちは、そのまま町に入り、街路を行進した。


 突然やってきた五千の軍勢を目にした公都の住民たちは、慌てて逃げ出そうとした。


 だが、よく見るとおかしな軍勢である。

 持っている武器は(すき)(くわ)などの農具であるし、女や子供まで混じっている。


 やがて住民たちは、ロッジの姿に気付いた。

 公都の住民にとってはなじみ深い、そして彼らが敬愛する公子の帰還である。


「ロッジ様が帰ってきたぞ!」


 人から人へ話が広まり、興奮した住民たちが町に飛び出してきた。


「エルクールの町の奴らが、反乱を起こすらしいぞ! 俺たちも急げ!」


 ロッジは勝手知ったる街路を進み、中央広場へと群衆を誘導した。

 公都の住民たちが武器を手に手に集まってきて、広場は人で埋め尽くされていく。


 彼らはもはや、大人しい羊ではない。ジスタス家の家紋の如く、猛々(たけだけ)しい『虎』だった。


(勝ったな)


「ロッジ、俺はここの代官と交渉に行く。降伏を勧告するために」

「それなら私も行きましょう」


「いや、ロッジはここにいてくれ。君でなければ、彼らを抑えられない」

「危険ではありませんか? 御主人様に危害を加えようとするかも」


 タロウが心配そうに言った。


「敵がよっぽどのバカでなければ、そんなことはしない」


 政人は気にしなかった。「とはいえ、俺一人で行くような不用心なことはしない。ルーチェ、タロウ、一緒に来てくれ」


「はい!」


 二人がそろって返事をした。


「そしてもう一人――」


 こちらをじっと見ている赤髪の少年に声をかけた。


「クオン、君も一緒にきてくれ」




―――




 公都アザレアの政務の中心となる城――いや、平屋建てのその建物は城というより、邸宅と言った方がふさわしい。


 広大な敷地を持ち、貴族が住むのにふさわしい豪邸ではあるが、防御の事は全く考えられていない。


 ジスタス家では、領地は外に向かって拡大するものであり、守るものではないという考え方をする。

 そのため、防御を重視した城を建てることを恥と考える家風があるのだ。


 代々、ジスタス家の領主が住んでいた領主館だが、今は王家から派遣された役人たちが住み込んで、政務を()っている。


 ジスタス公領の統治の責任者である代官のカダレは、執務室で部下たちの報告を聞いて、青ざめていた。


 中央広場に賊の大軍が集まっている。しかもそれを率いているのは、ジスタス・ロッジだというのだ。


 窓から外を見ると、雲霞(うんか)の如き大軍が、怒声を上げているのが見えた。


「賊はエルクールの住民のようです。奴らは公都の住民を扇動(せんどう)していて、武器を手にした住民たちが続々と中央広場に集結しています。その数は正確にはわかりませんが、少なくとも三万人はいるかと。今も増え続けています」


「奴らの要求はなんだ?」

「まだ何も言ってきていません」


 カダレは頭をかかえた。もはや彼の手に負える事態ではない。

 町を警備していた兵士たちが慌ててこの館に集まってきたが、全て合わせても二千人にすぎない。


「トラディス、おまえの責任だぞ! エルクールの住民から強引に略奪をしようとするから、奴らが反乱を起こしたのだ!」


 カダレは近くに立っている髭面(ひげづら)の騎士を怒鳴りつけた。


 トラディスは、先日エルクールで金と食料を徴収しようとして失敗し、逃げ帰ってきた部隊の隊長である。ロッジに殴られた鼻が、まだ痛々しい。


 彼はジスタス公領の軍事の責任者でもある。


「なんだとっ! 貴様が住民から全財産を取り立てろと命令したんだろうが!」


 カダレはトラディスにとって上司にあたるのだが、責任をなすりつけられそうになり、言葉が荒くなった。


 二人が言い争いをしているところに、さらに報告の兵士が入ってきた。


「申し上げます。賊軍の代表として、フジイ・マサトという者が参っております」


「マサト? ……それはひょとして陛下を侮辱した大罪人か? 賊軍の代表として来ていると?」


 カダレが不思議そうに言った。「とりあえず通せ」


「はっ」


 兵士が出て行くと、トラディスが言った。


「わざわざ向こうから来てくれるとは好都合だ。マサトを捕えて陛下に差し出せば、褒美を頂けるだろう」


「バカか貴様は! 賊軍に囲まれている状況でそんなことができるものか!」


 またしても二人が言い争っていると、兵士に案内されて、政人たちが部屋に入ってきた。

 それを見たカダレとトラディスは、驚きのあまり言葉を失った。


 政人を見て驚いたわけではない。

 政人の後から入ってきたルーチェとタロウと、――そしてクオンである。


 二人ともここに来る前は王都の王城で働いていた。クオンはあまり部屋から出なかったが、王城で毎日勤めていれば、当然顔を見る機会はある。


 先王クオンの登場に、二人はどう反応してよいか、わからなくなった。


「俺がフジイ・マサトだ」


 政人は名乗った。「そしてその子が、先代の王であり、次にシャラミアに代わって王になる予定の、ヴィンスレイジ・クオンだ」


 クオンと聞いて、この部屋にいた他の兵士たちも動揺している。


「な、なんだと! 貴様ら、陛下に対して反逆を企てるというのか!?」


 トラディスが怒鳴るが、政人は鼻で笑った。


「今さら何を言ってる? 外を見てみろ、反乱軍はジスタス公領から王家を追い出せと叫んでいる。既に戦いは始まっているんだ」


 そして政人はカダレに向かって言った。「おまえがここの代官だな?」


「そ、そうだ。私はカダレ。女王陛下に代わってここを統治するため、派遣されている」


 カダレはなんとか虚勢を張って言ったが、次の政人の言葉を聞いて、ショックで倒れこみそうになった。


「ではカダレ、責任を取って自決しろ。そうすれば、部下の命は助けよう」

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