表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/370

10.争いを終わらせるために

 ならず者の集団が、政人たちのいる僧坊の前にやってきた。

 口々に「出てこんかいオラァ!」「火ィつけっぞ!」などと気炎(きえん)をあげている。



「アタシに妙案がある」


 ルーチェがその場にいる全員を見渡して、ドヤ顔で言い出した。


「どんな案だ?」


 隊長が一応確認する。どうせロクな案ではないだろう、と思っていることが顔に出ている。


「ゴドフレイが先頭付近にいるのが狙い目だ。扉をあけたらアタシが飛び出して、すぐさまゴドフレイを討ち取る。すると奴らはボスを討たれたことで、うろたえて逃げ出す」


 ルーチェは皆に説明する。「まあ、逃げ出さないとしても、混乱するのは間違いない。その隙にアタシたちは町から脱出する。混乱が収まった後にマサトが一人で町に戻り、船に乗ってガロリオン王国に行くんだ。アタシや聖騎士たちは連中の恨みを買ってるようだけど、マサトはたぶん見逃してもらえる」


(正気か、こいつ)


 隊長たちが本気でその案を検討している様子を見て、政人はたまらず言った。


「ダメだ」

「なんでだよ、いい案だろ」


「俺たちは町から脱出できるかもしれないが、その後この町はどうなると思ってるんだ」

「どうって……アタシ達がいねーんだから、連中もどうしようもないだろ。まさか王都までは追ってこねーだろうし……」


 政人はルーチェにも理解できるように説明する。


「俺の元いた世界にも、あの手の連中はいたんだ。だから奴らの思考回路はなんとなくわかる。奴らが最も大切にしているのは『メンツ』だ」

「メンツ……?」


「三百人も人数集めて、ボスを討たれて、ボスを討った相手は町から逃げ出して手が出せない。これほどメンツをつぶされることはないだろ」

「まあ、そうだな」


「だから連中は、何らかの形でケジメをつけなければならない。この僧坊を焼き討ちするか、庁舎の役人たちを殺すか、……さっきルーチェはないだろうと言ったけど、王都へ鉄砲玉を送り込むことも、十分あり得ると思う」

「それは……」


「何よりも問題なのは、絶対的なリーダーであるゴドフレイが死んでいるということだ。そのため、ここで手打ちにする、という決定を下せる人間がいない。だからその抗争がいつまで続くかわからない」

「う……」


「争いを終わらせるためには、敵のリーダーは殺すべき相手じゃない。話し合うべき相手だ」


 政人の本質が勇者でも騎士でもなく「政治家」であることが、この言葉に表れている。

 もっとも、彼がその政治の才を存分に活かせるようになるまでには、もうしばらくの時間が必要だろう。


「マサトの言う通りだ。アタシは敵のリーダーを真っ先に倒すのが、戦いの常識だと思ってた。でも、そうじゃない。それじゃ最後の一人を殺すまで戦いは終わらない。アタシは間違ってた」


 すぐに自分の間違いを認められるのはルーチェのいいところだ。


「では、どうすればよいでしょうか」


 隊長が政人に尋ねる。すでに政人の洞察力に信頼を置いている。


「連中のメンツを立ててやればいいんだ」


 そして政人は全員を見渡して言った。「俺に考えがある」




―――




 考えを説明する時間はなかったが、とりあえず皆は政人を信じて送り出してくれた。


「なんだテメエらはっ!」


 政人と隊長が外に出ると、さっそく威嚇してきた。


「親分さんと話をさせてください」

「誰だオメエは?」

「聖騎士隊の警護対象者、フジイ・マサトといいます」


「コイツ、女や聖騎士と一緒にいた奴ですぜ」


 あの時のスキンヘッドの男が説明している。


「テメエじゃねえっ! 女を連れてこいって言ってんだよ!」


 こいつは、ルーチェに殴られた角刈りの男だ。


「暴力を振るったことは良くなかったですが、その前にあなたの侮辱的な発言がありました。こちらの責任だけを追及するのはフェアではありません」

「うるせえっ! まずテメエからたたっ斬ってやろうかっ!」


(ちくしょう、なんだってこんな怖い目にあわなきゃならないんだ。俺は普通の高校生だったんだぞ?)


 隊長が負けじと大声を張り上げた。


「私は聖騎士隊の隊長、ライバー・ロベルトだ! 我々は話をしたいと言っている! 野蛮人でないならば、話くらいはできようっ!」


「なにが聖騎士だ! 王都に帰って、いつものように女王のおっぱいでも吸ってやがれ!」


 隊長はキレた。剣に手をかけ、怒鳴り返す。


「チンピラの分際で陛下を侮辱するかっ! そんなに死にたいなら、我が剣のサビにしてくれるわ! この命知らずどもめっ!」


(あんたもな)


 政人は隊長がルーチェの父親であることを改めて実感した。

 いよいよ武力衝突が起きようか、という時だった。


「やかましいっ!!」


 喧騒(けんそう)に包まれていた場が、一瞬で静まり返った。


 その男が悠然(ゆうぜん)と歩きだすと、前をふさいでいた子分たちは慌てて道を開けた。

 そして男は政人の前に立つと、静かだが力のこもった声で言った。


「話を聞かせてもらいやしょうか」


 ゴドフレイ・オリバーは意外に優しい目をしているな、と政人は思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on 新作長編
黒蛇の紋章

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ