表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/290

第四十六話 亡命

 彼女の問いに、私は答えた。


「エーゴスよ」


「エーゴス……?」


 聞いた事がない、といった表情で彼女が聞き返してくる。

 仕方なく、私は詳しく言い直した。


「シュトルムラント王国、カットマン男爵領で一番西の街エーゴス」


「やった……。やっとサジェスから逃げる事が出来たんだ……」


 不安そうだった彼女の顔が、笑顔へと変わる。


「私は助かったのね――!」


「助かった?」


 今度は私が尋ねる。

 すると、彼女はそれまであった出来事を語り始めた。



    §  §  §  §



 ――彼女の話を要約するとこうだ。


 彼女は隣国サジェスの国民で、南の農村に住んでいた。平和に暮らしていたはずが、ある日突然軍人たちが村に攻め入ってくる。その軍人は、見た事もない茶と黒の鎧に白い仮面をかぶった軍隊だったらしい。


 彼らは抵抗した村の男衆を皆殺しにした後、残った女子供を捕まえて馬車に押し込んでどこかに連れていこうとした。


 彼女がどこかへ運ばれている途中、たまたま馬車が車輪を踏み外して横転。その事故に乗じて逃げ出し、命からがらここまで逃げてきた……という事らしい。


 サジェスはシュトルムラントと同じで平和な国のはずだけど、何故そんな事になっているのだろう。私が思索に耽っていると、通りの向こうから男が三人、いたぞとか、あっちだとか、怒鳴りながらやって来る。


 彼女の言った茶と黒の鎧、それに白い仮面が付いた兜。仮面で顔は見えない。


「その女を返して貰おうか……」


「どうして?」


「その女は、我がゾディアック帝国の奴隷となったのだ。逃げた奴隷を連れ戻すのは、主人の役目だろう?」


 奴隷――。

 それはシュトルムラントでは法律で禁止されている制度。

 でも、他の国にはその制度が存在する国もあるとは聞いている。


 それに……『ゾディアック』

 つまり、サジェスはゾディアック帝国に攻め込まれて、こんな事になっている……という事?


 私が混乱して答えを返せずにいると、リーダーらしき男が言う。


「返さないと言うなら、力尽くでいくぞ!」


 続いて他の男たちも、私に向かって汚い言葉を投げかけてきた。


「ついでにお前も奴隷にしてやる」


「中々いい体つきをしているじゃないか。高値で売れそだな!」


 奴隷にされて売られるなんて、冗談じゃない。

 抵抗させて貰いますとも!


 私は小さく魔法名を呟いて刃引きの剣を創ると、それを抜いた。



    §  §  §  §



 私が戦いに応じたと分かるなり、男たちのリーダーは片手用の長剣を抜いた。他の二人も懐から小さな塊を取り出す。武装をしていない村民を捕えるのなら、片手剣で十分なんだろう。しかし、残りの二人は……。


 キューブ。そう、あれは魔導具。


 獣人に変身したり、病気を食い止めたりと、さまざまな魔法が込められていて、

魔術師でなくとも簡単に魔法が行使出来るという怖ろしい代物。


 一体、なんの魔法が飛び出てくるか分からない箱が二つも。


 十分に警戒しないと、本当に捕まって奴隷にされてしまう。

 未知の魔導具の存在と、私の後ろで怯える女性を庇いながら戦わなければいけない状況。私の方が若干……いや、かなり不利だ。


「……私のヒーロータイム……なんて言ってる余裕はないわね。どうしよう?」


 剣を握り直して、打開策を思案する。

 ただの雑兵三人ならなんとかなるんだけど……。


 その時、私の後ろから声が聞こえてきた。


「……帰りが遅いので、どこで油を売っていらっしゃるのかと思えば……一体、どういう状況ですの?」


 それは正に天の助け……ジルだ!

 これでなんとかなりそう。


「ちょっと巻き込まれちゃってね。三人程、悪人をやっつけなきゃいけなくて……」


「全く、お人好しですこと……!」


 胸から錫杖を取り出し、構えをとるジル。


「それに、魔導具持ちですか……厄介ですわね」


「でしょ?」


「でしょ、じゃありませんわ……! ああ、面倒くさい」


 そんな私たちの会話に、痺れを切らした雑兵のリーダーが斬りかかってくる。それと同時に魔導具の男の一人が、それを回して発動させる。


 魔法剣で難なく長剣を受け止めるも、小さく光った魔導具から放たれたのは、幾重にも屈曲した鋭い稲光。


「《電撃(ライトニング)》ですわ!」


 ジルが叫ぶ。


 そのジルの助言よりも速く、私はその稲妻を躱す。

 体を捻って体勢が崩れている私にリーダーの追撃が振り下ろされるも、大きく横へと跳んでそれも避けきった。


 即座に踵をひるがえして踏み込み、リーダーへと斬りつける。しかし、そこに三人目の男が割って入り、魔導具を回すと大きな光の盾が現れて、私の剣を受け止めてしまう。


 更に道の奥から二人のゾディアック兵が走ってきて戦列に加わった。この二人も、ジルと同じ、帰りが遅いという理由で来たのだろう。

 敵は総勢五人となって、あっと言う間に私たちは囲まれてしまう。


 サジェスの女性を挟むようにして、背を預けあう私とジル。


「これは……ほんの少し、大変ですわね」


「そうね……」


 これは、『戦隊』で何度も見かけた、絶体絶命のピンチ。

 私たち自身の身が危ないというのに、心の中ではヒーロー的展開になって喜んでいる私がいた。


 でもこの状況、どうやって切り抜けよう……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] よく考えたら、正々堂々ではないのなら潜入されるのもあり得るぽい、しかしヤバイ案件です。
[一言] あの女性が居なかったらヒーロー展開を楽しめたかもなぁ。 しかし、待って、交戦している場所は何処ですか?王国?つまり帝国が隣国に勝ったとはいえ、帝国軍隊が既に堂々と王国の内部に入り込めている!…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ