第三十五話 捜索
あれから、私とキャサリンは二人で考えた。
まずは、今ギルドにいる人達から魔力を少しずつ貰おうという話になったのだけれど、手始めに受付のお姉さんに頼んだら、魔力枯渇であっという間に倒れてしまった。
「嬢ちゃん、ウチの職員に無理させんなよ」
私たちはギルドの執務室に呼び出され、ギルドマスターからお叱りを受けた。
その後、酒場スペースにいた何組かの冒険者たちにも頼んだけれど、お姉さんの一件を見られていたため、ほとんどに断られてしまう。
それでも、親切なBランクの上級パーティが魔力を流しこんでくれたものの、私と一緒で倒れそうになっていた。
結局、ギルドで魔力を分けて貰うという方法は失敗。
「魔力でしたら、魔石を使ってみてはいかがでしょうか?」
そう言ってくれたのは、先程倒れた受付のお姉さん。
私たちが色々やっている間に、ようやく動けるようになったらしい。
「魔石?」
「はい。魔物の心臓部となる宝石です。そこから魔力を引き出せます。魔法店に行けば売っっていますよ」
――魔石。
過去、親友のカナと一緒に魔物を狩っていた頃、ギルドに売ってはお金に替えていた石だった。確かにそれさえあれば、あるいは何とかなるかも。
「「ありがとう、お姉さん!」」
早速、私とキャサリンは二人で魔法店へと向かった。
§ § § §
魔法店は、ギルドが建っている通りに面した場所にあった。
中に入ると、いかにも魔女といった見た目のお婆さんが店を構えていて、魔法を憶えるための書物や、一般の人でも手軽に魔法が使える巻物、それに目的の魔石を売っていた。
「うーん、高いね……」
「そう……ですね」
大きいものは、一体誰が買うんだろうという値段で、流石に手が届かない。
仕方なく小さい石を買って魔導具に押し付けてみたけれど、魔石が一瞬光って、その光が箱の中に吸い込まれただけで魔石は砕け散ってしまう。
「どう、使える?」
「駄目……みたいです」
キャサリンが箱を回しても、うんともすんとも言わない。
小さい魔石程度では、この箱を使うだけの魔力は供給出来なかったみたい。
「これくらいじゃ、駄目かあ……」
ギルドのお姉さんに申し訳なさを感じながらも、魔法店を出る。
「とりあえず、私の魔力が回復したら一回分の魔力をその箱に注ぎ込むから、まずはそれで様子を見て……そこから先は、使った後に考えよう?」
「はい……」
今日はキャサリンを家まで送って、明日、魔力を注入する事になった。
二人で帰ろうとしていると、向こうから柄の悪そうな男たちが近付いてきて、その中のリーダー格らしき男がキャサリンに声をかけてきた。
「おう、キャサリンじゃねえか。身売りする準備は出来たのかよ?」
「身売り?」
私が聞き返すと、男の代わりにキャサリンが答える。
「お母さんが病気で動けないから、どうしようもなくてお金を借りたんです。……そうしたら借りたお金は銀貨十枚だったのに、利子だって言って金貨三百枚にもなって……」
キャサリンの目から涙が零れ落ちる。
暴利と言われるトイチだってそんなに高くならないから、かなりの悪徳振りだ。
「高利貸しって訳ね……」
「ほら、こっちに来いよ。出来るだけ高い所に売ってやるからよ。……まあ、もっとも、それだけで返しきれる額じゃねえけどな。ハッハッハ!」
「卑怯者……!」
「その隣のネェちゃんも一緒に売れば全額返せるかもな? 偉いべっぴんさんだし、いい金になりそうだからな。……ほら、来いよ!」
男がキャサリンに手を伸ばす。
とっさに私は刃引きの魔法剣を創り出して、その手を打ちつけ、空いている手でキャサリンを引き寄せた。
「な……何しやがる! 優しくしてりゃ、付け上がりやがって! ……おい、お前ら! こいつら取っ捕まえて、一番最下級の娼館に売りつけるぞ!」
私たちの周りを取り囲もうとする男たち。
人数は全員で七人。
ジルを護衛した時の失敗を思い出して、キャサリンを護る事だけに集中する。
彼女には壁を背負わせ、壁と私で挟むようにして護った。
これで後ろから襲われる事はない。あとは、前と左右にだけ気をつければいい。
刃引き剣で軽く四人程伸したところで、残りの男たちは逃げていった。
「あっ……待ちなさい、こらっ!」
追いかけようにもキャサリンと一緒だから、思うように追いかけられない。
そこで、私はキャサリンを抱きかかえ、いわゆるお姫様抱っこで全力疾走する。
「お……お姉さん……」
街の中をこの格好で走っているせいで、キャサリンは恥ずかしそうにしている。
でも、男たちを見失うわけにも、彼女を置いていく訳にもいかない。
しばらく追いかけていると、キャサリンが叫ぶ。
「あっ……こっち、私の家の方です!」
男たちはただ逃げただけではなく、同時にキャサリンの家へと向かっていた。
私には敵わないと見て、彼女の母親を人質にするつもりだろう。
「させない……!」
……とは言ったものの、やはり人一人抱えたままで追いつくのは厳しかった。
しかも、この街を地元とする彼らと、この街に来たばかりの私では土地勘に圧倒的な差がある。見失わないように追いかけるのがやっとだった。
そして、男たちは彼女の家へと駆けこみ、無理矢理に押し入った。
このままでは、キャサリンのお母さんまで危ない――!