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第二十三話 刺客

 ――それから数日。


 聖女様はこの数日間、沢山の病人や怪我人を無償で治して、街の人々に優しい声をかけ続けてきた。聖女様が手を差しのべた所からは、いつも喜びと感謝の声が聞こえる。


 聖女様はやっぱり『聖女』なんだ、と尊敬してしまう。


「『()()()』のご加護ですわ!」


 ……このあからさまな布教さえなければ、本当に人格者だと思う。


 私は私で、ギルドでいくつかの依頼を受けて、旅費稼ぎ。次の街まで持つ程度のパンとチーズ、それに水を買いだめする事が出来た。お肉好きの聖女様のために、塩漬けの干し肉なんかも買い込んだ。


 おおよそ聖女様の布教も終わり、この街を出る準備も整って旅を再開する。


「さあ、行きますわよ!」


「はい!」


 はきはきとした聖女様の声にあわせて、背嚢(バックパック)を背負って、出発。


 ナックゴンとゴレン以外のゴレンジ領を知らない私には、今回の街も、次の街も未知の土地。次の街はどんな街なんだろう……私は聖女様との旅を始めて、『冒険』という言葉の意味を知ったような気がした。



    §  §  §  §



 そんな希望に満ちた、新たな一歩をくじくように邪魔が入った。

 まあ、これも冒険の一部……なのかな?


「お前たちに恨みはないが、死んで貰うぜ……」


 街を出て、ほんの少し進んだ所で現れたのは、ニ十人以上からなる賊。

 最初は数人程度だから、余裕でなんとかなりそうと思っていた。


 すると、街道脇の背が高い茂みや並木から、一体どこに隠れていたのかと思う程、次から次へと後詰めが現れる。最初の数人を相手している間に、ニ十人以上になってしまっていた。


 最初から『死んで貰う』と言ってきている事から、ただの盗賊ではなく、おそらく聖女様の命を狙った暗殺者。


 有名な『聖女』ともなると、命も狙われるようだ。


 王子の時と違って馬車という遮蔽物がない今、数人程度ならともかく、この大人数から聖女様を護りながら戦うとなると……私一人では無理がある。


 歩き旅、開けた街道、人数を予想出来ていなかった事、全てが裏目に出ていた。


 それでも一つだけ幸運なのは、この賊全員が護衛役である私から片付けようと、私だけを見ている事。これなら、なんとか出来そう。


「でやああああっ!!」


 まず、最初の一人が長剣で斬りかかってくる。それを軽く避けて出来た隙に魔法剣を出し、柄頭で後頭部を叩いて気絶させる。


 最初の一人目を皮切りに、次々と襲ってくる賊たち。

 一人一人は大した実力ではなく、七、八人までは簡単に倒す事が出来た。

 しかし……。


「きゃああっ……!」


 彼らは私だけを狙っているように見せかけて、私が聖女様から目を離す瞬間をうかがっていた。眼前の敵に集中していたわずかな隙をつかれて、聖女様が捕えられてしまう。


「武器を捨てな。でないと、この女を殺すぜ?」


 形勢が逆転し、一気に不利になってしまった。

 一瞬戸惑った私に、聖女様が叫んだ。


「……アリサさんっ! (わたくし)の事は構わず、逃げて下さい!」


 それじゃ護衛の意味がないですよ、聖女様。


 聖女様を捕えている賊の隙を見計らって助けようと思ったけれど、素早く他の賊が割り込んできて、私と聖女様を引き離してしまった。これでは、もう攻撃を当てる事も出来ない。


 かといって、ここから剣を投げたら聖女様にも当たってしまう。


 ……もう、ここは武器を捨てて、私はどうなってもいいから聖女様だけは助けて、とお願いしてみようかな。多分、聞き入れて貰えなさそうだけど。

 そう思いながら、剣を手から離そうとした瞬間。


「《旋風(タイフーン)》!!」


 魔法名を叫ぶ声が後ろから聞こえてきた。

 それと同時に突風が横切り、聖女様を囚えていた賊が吹き飛んでいく。


「大丈夫ですか、お姉様!」


 この声は、モモさん! 助かった!


 そして、後ろから三人の大男が現れ、次々と賊をやっつけていく。

 ベギー、マッツ、ヤーマン。モモのパーティメンバーの男たちだ。


「依頼で街を出たら、姐御たちが襲われてるじゃねえですか。助けに来ましたぜ、姉御!」


「右に同じ!」


「俺もっす!」


 お姉様は散々言われてきたけど、姐御と言われるのは初めてかな……と思いながら、私も賊を蹴散らす。突然の加勢に怯んだ賊は、数の有利がきかなくって、あっという間に戦列が瓦解した。


 筋骨隆々なベギーが敵を押さえ、お調子者のヤーマンが周囲の敵を威嚇する。その間に、ベギーが止めている敵を素早いマッツが横から仕留める。

 連携の隙を狙ってくる別の敵を、モモが魔法で吹き飛ばす。


「お姉様、私、頑張りました!」


 あれから和解したのだろう。四人の息がぴったりと合っている。


 ……これがパーティ。


 カナと別れてからずっと一人で戦ってきた私には、四人が羨ましく見えた。

 ただ羨ましがってるだけじゃ駄目だと思って、自分の両頬を思いきり叩き、私も参戦する。


 いつの間にか右手から零れ落ちていた剣はそのままに、新しい剣を創り出す。


「姐御がボーっとしてるから、何事かと思いましたよ!」


「右に同じ!」


「俺もっす!」


 三人が心配してくれていた。

 私は寝ぼけた頭を振り払うかのように、剣を一振り。


「お待たせ! 間に合った?」


「大丈夫ですよ! 姐御の分はちゃんと残してあります!」


 私が聖女様から目を離してしまっても、ベギーたちがフォローしてくれたおかげで、思う存分戦えた。四人の息の中に私も混ぜて貰って、まるで五人でパーティを組んでいるかのよう。


 五人……こんな時に考えるのは不謹慎だけど、なんだか『戦隊』みたいで嬉しい。パーティってこういうものなんだ。


 私もいつか、パーティを組んでみたいな……。


 そうして五人で次々と賊を撃破し、最後にベギーが全員を縛り上げた。


「一丁上がり!」


 ぱんぱんと手を叩いて埃を払うベギー。

 これで、一件落着。


「やりましたね! お姉様!」


「……助けてくれて、ありがとう……!」


 思わずモモを抱きしめ、お礼を言った。


「……お姉様」


 だから、そこで頬を赤らめないで。私の方が恥ずかしいから。


「あの時私を助けて下さったお姉様に恩返しが出来て、私も嬉しいです」


「モモさん……!」


 この後、私はモモだけでなく、三人にもお礼を言って握手を交わした。


 聖女様はお礼ですわと言いながら、四人に一本ずつ治癒のポーションを渡している。そして、もう一度あらためて二人でお礼を言った後、『黄色い砂塵』の面々と別れた。


「命拾いしましたわね」


「そうですね」


 かろうじて賊を撃退した後も、私たちの旅は続いている。

 今日みたいな事が二度と起きないように、気を引き締めていかないと。

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、本当に聖女的な行いをしてくれるだから、あからさまな布教でも何の問題も無いですし、信じてみるのも良いだと思います〜 しかし、護衛対象を見捨てたら護衛の意味が無いとアリサさんは言っても、襲…
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