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異世界に転生したら、『剣聖の姫君』と呼ばれるようになりました。  作者: 姫騎士はるか
第二章 『騎士学校』編

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第二十二話 夜明け

 二手に分かれ、まだ痺れる体に鞭打って走りながら、安全で、水場が近い場所から順に他の生徒たちの野営地を探していく。


 最初の野営地が数分程度で見つかった。捕えた獲物の肉を焚き火で焼いて、楽しそうに談笑している。全員、男子だ――ここは襲われる心配はない。


 次、更に走ると、もう一か所でテントを見つける。今度は女子二人男子三人の班で、彼ら一人一人の顔を覗きこんだ。


 一体どうしたんだと聞かれたけれど、お構いなしに全員の顔を確認する。

 入学の日に見た、エスケーヴの仲間らしき男はいない。


 次……いた!


 リカの班だ。

 二班目から更に離れた大木の下で、テントの設営も終わって食事の支度をしている。リカ一人に男子が四人。


 二人は先程見た男子、残り二人のうち一人が、出来立てのイノシシ肉のスープに、今まさに何かを入れようとした瞬間だった。


 走り込んだ勢いで、エスケーヴの仲間に思いきり飛び蹴りを叩き込む。

 派手に吹き飛び、仲間の男は大木に激突して気絶した。


「いきなり何をするんですか、お姉様!」


 驚いて叫ぶリカに、男を縄で縛りながら私は事の顛末を話した。


「そんな事が……ありがとうございます。アリサお姉様」


「ごめん、まだこいつらの仲間……探さないといけないから。……行くね?」


「お気をつけて……」


 別れの挨拶もそこそこに、次へと向かう。


 更に森の中を駆け巡って、その先にあった班の野営地。

 二メートル程度の低い崖に空いた、洞窟のような場所に陣を構えていた。

 全員の顔を確認し……見つけた!


「さあ、出しなさい」


「な……なんの事だ?」


「あんたがやろうとしている事は分かってるんだから! さっさと薬、出しなさいよ!」


「ちっ……エスケーヴの奴、しくじりやがったか!」


 これ以上話しても埒があかないので、ぶん殴って気絶させ、薬を奪い取って縛り上げる。班の人たちに薬を見せて簡単に説明して、私は洞窟を出た。



    §  §  §  §



 洞窟を出たところで、スプリンゲンさんと合流した。


「こちらは二人捕まえましたよ。アリサさんは?」


「こっちも二人。エスケーヴも含めて、これで全員ね」


 なんとか危機は去ったみたい。

 私は安堵して膝から崩れ、その場にへたり込んだ。


「終わったあ……」


「お疲れ様です」


「いいえ、スプリンゲンさんこそ」


「これも、『騎士の仕事』ですから」


「……ですね」


 二人で笑い合って少しだけ休んだ後、最後の目的地へと向かう。

 教官たちのテントへ。


 二人で探すと、すぐにそれは見つかった。

 学生とは違って、手慣れた感じでしっかりと立てられているテントだ。

 入り口をふさぐキャノピーをめくり、中へとお邪魔する。


「ん、どうしたんだ? アリサ君」


 丁度、アーサー教官のテントだったらしい。

 私とスプリンゲンさんの二人は、教官に今起きた事を説明し、証拠の痺れ薬を見せる。


「後は私たちがなんとかしよう。君はまだ薬が残っているだろうから、ここでゆっくり休むといい」


 無骨な教官には珍しい優しい微笑みを見せて私を座らせると、代わりに教官が立ち上がった。


 他の教官たちのテントに次々と入っては、大声で指示をするアーサー教官。

 彼の指示に従って、森の中へと散らばっていく教官たち。


 数十分後には、全生徒がこの教官たちのテントへと集合した。

 縛り上げられた五人を、教官たちが引っ張ってくる。


「お前たち。サバイバル中のところ悪いが、この試験で不正行為が発覚した」


 アーサー教官が、よく通る声で全員に説明をする。


「……という訳だ。よって、途中ではあるが第二課題を中止とする」


 誰もが驚きざわめく。

 中止なら俺たちの卒業はどうなるんだと、心配の声を上げる生徒もいた。


「中止にはなったが、第二課題はこの()()()()()()()を除いて全員合格とする。……皆、それなら異論はないな?」


 今度は面倒な野営がなくなって、生徒全員が歓喜の声を上げた。


「暗殺を企てたこの五人は、採取試験失格のため騎士の資格は一切得られないものとし、退学処分となる! ……まったく、こんな最後の最後で馬鹿をやりおって」


 サービス課題で失格者が出る事に、悔しさを隠し切れないアーサー教官。

 なんともいいがたい複雑な表情になっている。


「あ……」


 大事な事を思い出して、突然声を上げる私。

 そうだ、一発ひっぱたいてやろうと思ってたんだ。


「どうしたんだ、アリサ君」


「あの、教官。私、殺されかけたから……一発くらいは殴ってもいいですよね?」


「まあ……被害者は君だ。煮るなり焼くなり好きにするといい」


「ありがとうございます」


 生徒が整列する中から抜け、縛られたままで気絶しているエスケーヴの前に歩み寄り、軽く揺すって彼を起こした。


「な……なんだここは!? 一体、何が? なんで俺は縛られてるんだ!?」


 事態が飲み込めず、喚き散らすエスケーヴ。


「あんたの悪だくみは、私たちが阻止したから。じゃあ……、一発殴っていいよね?」


「どうしたら、殴るなんて話に……うぶわっ!!!」


 答えきる前に、私は全力の拳をエスケーヴへと叩きつけた。


 彼の体が少し浮いた後、叩いた方向へ勢いよく転がっていき、体の随所を地面に打ちつけて十メートル程先の木に激突。そのまま彼は、情けない声を上げてもう一度気を失った。


 みっともなく伸びた姿を見て、私の気も収まる。


「ふう……すっきりした」


「気が済んだかね?」


「はい!」


「それでは、今度こそ本当に『撤収』だ!」


 私たちはすぐに森を出る事になった。

 退学になった事でエスケーヴたちはもう悪さも出来ないだろう。

 次は最後の課題、第三課題――。


 待ち受けていた試験は、意外な内容と結末だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そうか、体術と耐性は別々に扱うなのか。私はよく分からなくて、てっきり程度の差が有っても身体がレベルアップしたら全能力も増えると思った。なるほど。 [気になる点] しかしだ、今度こそ無視出来…
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