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第十三話 焙出

「この角を曲がるまでは、確かにいたはずなんだけど……」


 私はジルに説明した。でも、この通りを歩く人々は皆普通の獣人だ。

 毒蠍はどこにもいない。


「すぐに消えていなくなる、……なんて事はありえませんわ。きっと何か裏があるはず」


 ジルが、顎に手を当てながら考える。


「あっ……、獣人ですわ!」


「獣人?」


「ゾディアックは、何にでも化けれますわ。きっと、アリサさんの目が離れた隙に変身をしたんですわ!」


「……でも、『変身方体(キューブチェンジャー)』の光は出てなかったと思うけど」


 ゾディアック帝国の魔導具、『変身方体(キューブチェンジャー)』は衝撃波の光を放つ。その光で変身したかどうかは分かるはず。


 しかし、ジルは私の疑問を一言で吹き払った。


「《幻影(イリュージョン)》の魔法ですわ! あれなら、変身しても光りませんもの。本物の獣人化ではなくて、姿だけ別の獣人にしただけですわ。……それなら、アリサさんに気付かれずに変身出来ますもの」


「あっ……! そういえば、そんな魔導具もあったわね!」


 私も合点がいって、手をぽんと叩く。

 すると、道ゆく村民の中から声が聞こえた。


「ちっ……ばれたか!」


 逃げ出す、白虎獣人。

 角を三回曲がる前にはいなかった獣人。こんな目立つ格好をしているのに、どうして私は気付かなかったんだろう。


 またしても《加速(ヘイスト)》のキューブを捻って、高速で逃げようとする。


「カナさん、全員に《加速(ヘイスト)》を! 追いますわよ!」


 ジルが叫ぶ。待ってましたとばかりにカナが《加速》をかけた。

 次こそは捕まえてやるんだから――!



    §  §  §  §



 魔族区画に再び逃げ込んだ毒蠍。

 例によって建物をぐるぐると回って、不意に消えてしまう。


 道ゆく住民は、全員魔族。

 今度は獣人ではなく、魔族に化けたんだろうと分かる。


「また、見失ったわね」


「自分から正体をばらす間抜けな(やから)ですけど、逃げ足だけは一流ですわ」


「どーやって、探すか……。今度は、そー簡単に尻尾は出さねーだろうし……」


 私たちが顔を見合わせて悩んでいると、やや遅れてやって来たミオが響子ちゃんの腕から降りながら言う。


「あたくしに、いいかんが()えがありますわ!」


「いい考え?」


「ええ、お姉さま。みててくださいな!」


 自信ありげにミオが声を張り上げる。


「プリピュア・オーラチェンジャー!!!」


 ミオの叫びに呼応し、彼女の全身をトカゲのようなものが駆けめぐる。その動きに合わせて、全身が炎に包まれ……って、なんで『水の精霊』から火が出てるの?


 それに、変身のかけ声が前と違うような……。


 とにかく、まんちゃんと呼ばれる謎生物がミオの衣装へと変化した。


「変身なんかして、どうするの?」


「こうするんですわ……!」


 両手を口にそえて、ミオは叫ぶ。


どくさそり(毒蠍)っ、いるんでしょう? でてきなさいっ!」


 毒蠍は必死に隠れているのだから、当然反応はない。


「でてこないと、《大隕石群(メテオ・スウォーム)》をここにおとしますわよ! いのちがおしかったら、でてきなさーいっ!!」


 《大隕石群(メテオ・スウォーム)》――?

 そんなものをここに落としたら、大変なことになっちゃう。


「ちょっと……ミオ、やめなさい! そんな事したら、村の人たちにも被害が出るでしょ!」


「お姉さま、だいじょうぶですわ! まぞく(魔族)きぜつ(気絶)するていど、にんげんは()ぬていどにしゅつりょく(出力)をおさえますわ。あたくし、コントロールはとくいですのよ?」


 私だけでなく、この中の毒蠍にも聞こえるように諭すミオ。


「さあ、しにたくなければ……すなお(素直)にでてきなさーい!」


 そこまで言われても、出てくる様子はない。

 周囲の魔族を蹴散らしてあぶり出すなんて、常識外れもいいところで、脅しにしか聞こえないからだ。


 しかし、ミオの宣言は脅しでは終わらなかった。

 私が止める暇もなく、あっという間に魔法陣を描き上げ、魔法名を叫んだ。


「《大隕石群(メテオ・スウォーム)》っ!!!」


「あっ……! ミオ、駄目っ……!」


 私がミオの口を塞ぐより早く、魔法は発動してしまった。


 辺りに暗雲が立ち込め、その雲を切り裂くかのように大量の隕石が振ってくる。家屋や魔族、そして私たちに当たらないように絶妙に加減された隕石が大地を抉り、その熱波が容赦なく吹きつける。


 獣人が暴れた時以上の阿鼻叫喚。

 魔族たちは逃げ惑いながら、衝撃波と土砂によって吹き飛ばさていく。


「あーあ……どうしよう……」


 もう、それしか言葉が出なかった。

 沢山の魔族たちが気絶して、山と積まれた惨状。


 一応、目を回して人間の姿に戻っている毒蠍も一緒に積まれている。お手柄といえばお手柄なんだけど、たった一人を探し出すためにこれだけの被害が出てしまうと、素直に喜ぶ事も出来ない。


「えへへ……お姉さま。あたくし、みごと(見事)どく()さそり()をあぶりだしましたわ!」


 褒めてと言わんばかりに頭を差し出すミオ。

 可愛い妹のおねだりだから、仕方なく頭をなでる私。


「ミオ、よくやったわ……」


 私はそのまま、なでている手を下へと持っていく。


「でもね……村をこんなにしちゃって、どーすんのよ……!」


 ミオのもちもちほっぺを思いきりつねった。

 死人は出ていないし、大半は気絶しているだけ。怪我人もジルに頼めば治るけど、よかったねで済む話じゃない。


「あいたたた……お姉さま、いたいですわー!」


「あとで村中に謝りにいくからね!」


「ふぁあい……おねえひゃま……」


 前世から続くお姉ちゃんとして、締めるところはちゃんと締めないと。

 そんな私たちを横目に、ジルが縄を出しながら言う。


「姉妹喧嘩はその程度にして、ゾディアックをふん縛りますわよ」


 この惨状はともかく、ようやく私たちは毒蠍を捕まえる事が出来た。

 ジルが毒蠍を縛って一件落着。もう、魔族の村々が酷い目に遭う事もなくなる。


 これで安心して、魔王に逢いにいく旅を再開する事が出来そう。

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