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第九話 潜伏

 毒蠍が逃げた先の村に到着。

 途中、急ぐ私たちの横を偶然ケルベロスが通りかかり、カナが事情を説明すると私たちを乗せてくれた。


 でも……ケルベロスが急いでくれたにもかかわらず、村は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。獣人化した魔族たちが吠え、その狂った凶刃によって罪もない魔族たちが死体となって転がされていた。


「酷い……」


「これは……(わたくし)たちがここを通るのを知って、こうしたのでしょうね……」


 私の呟きに、ジルが苦々しく答えた。


「こうしておけば、(わたくし)たちが放っておかないと……知っての凶行でしょう。時間稼ぎにしては悪質ですわ……」


 得物の錫杖を取り出しつつも、爪を噛むジル。


「とりあえず、獣人は全て無力化。元の姿に戻して、その後で生存者が残っていないか調べましょう」


「わかった」


 私たちは獣人化した魔族を、次々に気絶させていった。

 獣人は一体一体が強敵。かなりの時間を要して、全部の獣人を魔族へと戻した。戦いで怪我をした者は、ジルが治していく。


 ミオと響子ちゃんが手分けをして、家屋の中に隠れている魔族たちを探し、「もう大丈夫」と知らせて回った。屋内に逃げ込んでいた魔族たちは全員無事。……それでも、助ける事が出来なかった魔族は多い。


 惨状の後始末をしながら、悔しさがこみ上げてくる。


「逃げるためだけに、ここまでするなんて……。私たちがもう少し早く着いていれば……」


「これだけでも救えたのですから、よしとしましょう。それよりも次ですわよ、アリサさん」


「次……?」


「この先の村で、ゾディアックがまた同じ事をするはずですわ……急ぎましょう」


 ケルベロスにまたがって、私たちは更に次の村へと急いだ。



    §  §  §  §



 ケルベロスは全力で走ってくれた。

 女の子ばかりとはいえ五人も乗せて、人の足なら何日もかかる行程を、一日で走り抜いた。


 今は激しく息を荒げながら、脱力して伏せている。

 彼が急いでくれたおかげで、まだここでは前のような惨劇は起きていない。


「「「間に合った――!」」」


 村の無事を確認すると、私たちも力が抜けてへたり込んでしまった。入ってくるなり入口で座り込む女の集団を見て、この村の魔族たちも何事かと驚いていた。


 ここは、村というには大きく町に近い規模で建物も多い。きっと魔族も沢山住んでいるだろう。もし、この村で獣人化した魔族が暴れていたら……と考えたら、背筋が冷たくなった。


 そして、ジルが錫杖を支えに立ち上がると、私たちに呼びかけた。


「こうしている場合じゃありませんわ。一刻も早くゾディアックを見つけないと」


「そうね」「だな」「ですわね」「ですよね……」


 ジルに続いて私たちも立ち上がり、村の中へと歩を進める。


「でも、どうやって探そう? 前の村みたいに、獣人を全員集める?」


「駄目ですわ。それが出来るのは事件が起きた後。まだ、何も起きていないのに、よそ者の(わたくし)たちが急に『これから事件が起こるから、獣人を全員集めて下さい』などと言っても……協力して貰えるとは思えませんわ」


「それもそうよね……」


「まずは、村長に確認してみましょう。外から来た獣人の情報を聞けば、それがゾディアックの可能性大ですわ」


 流石は私たちのブレイン。てきぱきと捜査の段取りを勧めてくれた。



    §  §  §  §



 ――今は村長宅。

 ここの村長は、見た目若々しい二十代の二本角。ただ、実際の年齢は二百を越えるらしい。剣聖領の騎士竜、アスナ並の年齢だ。


「『四本角』様、その角はどうなされました。おいたわしい……」


「いや、ちょっとあってな。んなコトより大事な話があんだ。聖女サマ、頼む」


 カナが上手くいつものやり取りを躱して、ジルに説明をさせる。

 今まで三つの村で起きた事件、ゾディアック帝国という敵、獣人化の危険性……ジルはさまざまな話を分かりやすく、説法のように解説した。


「まさか、この地でそのような事が……」


 目を丸くして驚く村長。


「それで、新しく来た獣人を調べたい……と仰るのですね?」


「そうですわ。事態は急を要しますわ」


 そこで、村長が顎に手を当てて悩み始めてしまう。

 協力したいのは山々だけれど、どうしても出来ない……そういった表情だ。


 しばらく考えた後、眉をひそめながら村長が口を開く。


「申し訳ありません……村の恥を晒すようでお恥ずかしい限りですが、この村は現在、魔族と獣人で区分けをしておりまして……。獣人とは、互いに不干渉となっているのです」


「それは、何故ですの?」


 ジルが単刀直入に尋ねる。

 その問いに、いかにも言いにくそうな顔をして村長は答えた。


「数百年前に、魔族と獣人の間にちょっとした諍いがありまして……。それ以降、村は二つに分かたれ、村長も二人……という事になっておりまして」


 彼は、本当に申し訳ないという顔をしている。


「ですので、我々は獣人の区画に足を踏み入れる事が出来ないのです」

 

「差し支えなければ、諍いの内容を伺っても?」


「我が村には『ザントクーヘン』という名物の菓子がありまして……。先代村長がが楽しみに取っておいた、おやつの『ザントクーヘン』を、当時の獣人の一人が食べてしまったのです」


「まあ! それは万死に値しますわね!」


 万死に値しないから。


 そう思ってるのは、食いしん坊のジルだけだから!

 お菓子一つで村が二分するなんて、くだらないにも程があるでしょ。


 私は心の中で突っ込む。ミオや響子ちゃんまで、微妙な顔をしている。


「それ以降、数百年……ずっと魔族と獣人の間に確執があるのです」


「く……くだらねえ……」


 私たちがあえて口にしなかった事を、カナが呟いた。

 そんなカナに、神妙な顔をして村長が反論する。


「お言葉ですが、『四本角』様。その菓子には大量の砂糖を使うのです」


 この世界で高価な砂糖を使うなら、確かに喧嘩にはなりそう。

 それでも、村を二分するっていうのは大げさ過ぎると思うけど。


「とにかく……獣人の事でしたら、獣人の区画に直接お願いします」


 何百年も仲違いしているなら、しょうがないよね。

 いとまの挨拶もそこそこに、私たちは獣人の区画へと向かう事にした。



    §  §  §  §



 獣人の区画。村中央にある通りを堺にして、ここまでは魔族、ここからは獣人と綺麗に道行く種族が分けられていた。


 魔族と仲違いをしているものの、旅人にまでそれを強要する事はなく、私たち、特にカナが入っても嫌な顔はされなかった。


 そうこうして、もう一人の村長の家に着く。


「村長のシロガネです。人間の方々が、本日はどのようなご用件で」


 早速、本題から聞いてくる村長。


 透き通るような輝きで、青みがかった銀の毛並みを持つ長身の人狼。

 獣人だけあって、ぱっと見の年齢は分からない。


「実は……」


 魔族の区画でも話した事を、もう一度村長に説明した。

 村長は、にわかには信じがたいといった面持ちで口を開く。


「獣人を暴走させた上に、更に別の獣人に変身させる魔法の品ですか……」


「はい」


 私が答えると、腕を組んで考え始める村長。

 彼はしばらく思案した後、こう言った。


「では、外から流れてきた獣人たちを集めましょう。妙な魔法の品によって村が全滅だなんて、絶対に避けるべき事案ですからね……」


 話の分かる相手でよかった。

 村長の招集で、三人の獣人が村長宅へと訪れた。

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