第二百二話 三階
戦いが終わった後、二人に刺さった剣を丁寧に抜いてやった。
「いたたた……もう、言い訳出来ないくらいの完敗ね……。ね、姉様?」
「痛ぅっ……。そうね、妹。私たちの負け。それにしても、あれだけ沢山の剣をどこから出したのかしら……?」
流石は吸血鬼。もう、傷が治り始めている。
感心しながら、私はナイトメア姉の疑問に答えた。
「……これ?」
無詠唱の《剣創世》を創ってみせる。
「《剣創造》みたいなものなんだけど……これを、ありったけ出してみただけ」
「へーぇ……貴女も無詠唱魔法が使えるのね。それもあんなに沢山出す程の魔力。やっぱり貴女、本当は化けものなんじゃない? どう思う、姉様」
「私も化けものだと思うわ、妹」
「いや……、化けものじゃないから……」
私は普通の人間、化けものじゃない。絶対。
しかし、二人は息ぴったりに言い返してきた。
「「嘘ね!」」
§ § § §
「どちらにしても、私たちの負け。消滅させないように、わざわざ急所を外して手加減するなんて優しいのね」
いや……、手加減はしてないんだけど。
急所が外れたのは、沢山飛ばす事だけ考えて適当に放ったせいだから。
「負けたからには、これを渡さないとね……。三階の鍵よ。受け取りなさい」
それは、ありがたいかも。
姉が胸の谷間から鍵を取り出した。
この世界の胸が大きい人は、皆、谷間に品物を隠す決まりでもあるんだろうか?
「三階への階段は、ボス部屋の丁度逆の位置に隠し部屋があるから、そこよ。……その部屋の奥の壁、下から三番目、左から五番目のタイルに鍵穴があるわ。そうよね、妹」
「そうよ、姉様」
最後まで、ねたばらしをする姉妹だった。
「さようなら。また遊んで頂戴、剣士さん」
「もう一度攻略に来てね、剣士さん」
私は二人に別れを告げると、ジルを起こして隠し部屋へと向かった。
§ § § §
隠し部屋を探すと、二人に言われた通りの場所にあった。
酷いねたばらしだ。
隠し部屋の扉を開けて言われた通りのタイルを探すと、タイルが剥がれるようになっていて、そこに二つの鍵穴が隠されていた。つくづく酷いねたばらしだった。
急いでレンちゃんたちを助けたいんだけど、それでも一応は迷宮なんだから……スリルとか先が分からない楽しみとか、そういうのが必要だと思うんだけど。
一階ボスと二階ボス……二本の鍵を刺すと、天井から縄梯子が降りてくる。
「ここから三階に行けって事ね」
「まったく酷い吸血鬼姉妹でしたわね。攻略中の迷宮のネタバレをするなんて、これがRPGでしたら友達を失くしますわよ!」
ゲームに限らず、ジルの言う通りだ。
私だって、次の年にやる新戦隊を放送一ヶ月前にばらされたら、絶対に友達をやめる自信がある。
ジルのぼやきを聞きながら、縄梯子を登っていく。
この建物は、ボス戦で魔物側が有利になるように、天井が高く作られている。そのため、結構な長さの梯子を登る事になった。
不安定な梯子を登りきると、そこは三階の部屋。
早速、数体の幽霊がお出迎え。
子供が自力では来れないから、魔物も罠も撤去されていないみたい。
「ジル、《死霊祓滅》お願い! ……って、今は無理か」
「ですわ。アリサさんにお任せしますわ」
ジルは今、一回でも奇跡魔法を使えば昏倒してしまう。
私がやるしかないという事になる。
「《剣創世》――!」
魔法名を叫び、切れ味を上げる。
その強力な魔法剣を装備して、私は全ての幽霊を斬り裂いた。
「お見事ですわ」
「ここまで来たら、後は『お館様』の部屋に行くだけ。……急ぐよ、ジル!」
「了解ですわ!」
それからは、しらみ潰しに全ての部屋を探索した。
途中、私たちにさまざまな罠が襲いかかってきたけど、実害はなかった。
というのも……。
ポルターガイストが家具を投げつけてくる罠。
……見てから避けられる速さのため、まず当たらない。
血まみれの少女が斧を持って追いかけてくる罠。
……少女も斧も幻影で、見た目が怖い以外は何もなかった。
ドアを開けると液状化した腐肉が大量に落ちてくる罠。
……臭いだけで、特になんの攻撃でもない。
迷宮というよりは『お化け屋敷』みたいな罠だらけで、その一瞬だけは驚くけど、冷静になると普通の迷宮の罠の方が命がけな分、よっぽど怖かった。
どれも、怖がりな人を気絶させる程度のものでしかない。
例えば……カナとか。
逆に魔物、つまりアンデッドは強力になり、霊体や素早く動ける怪物が中心となった。とはいっても、ナイトメア姉妹を倒した私たちには、少々物足りない程度の強さだったけれど。
§ § § §
そして、最後の部屋に到着。
ここは隣の部屋に入り口があり、吹き抜けの廊下からは入れないようになっている。いかにも何かあります……といった部屋だった。
「……やっとね。今度こそ『お館様』がいると思う?」
「いて貰わねば、困りますわ……」
「じゃあ、開けるよ……せーの!」
そう言って、ドアに手をかけた瞬間。
もの凄い殺気が私たちを射抜き、私たちは同時に左右へと跳んで避けた。
そして、ドアも、壁も突き崩して魔物が現れた。
咄嗟に避けていなかったら、私たちは瓦礫の下敷きか、こいつに轢き殺されていたか。三階最後の罠は、ボスそのものだったという事。
軍馬に跨がり、その全身は白銀色の甲冑。
右手には長大なランス。左手は盾の代わりに自らの首を携えた騎士。
その魔物の名は――。
「「デュラハン!!」」