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異世界に転生したら、『剣聖の姫君』と呼ばれるようになりました。  作者: 姫騎士はるか
第三章 『剣聖、冒険者になる』編

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第百八十五話 獣化

「……今回もハズレでしたわね……」


 ジルが小さな声で呟く。

 でも、今はそれどころじゃない。


「……ゾディアック探し的にはね。でも、これはなんとかしてあげないと……」


 目の前には、幼い少女。

 熱にうなされ、苦しそうに呻いている……。



    §  §  §  §



 馬の二倍の速度で走れる魔犬、アイシーで一週間。


 バンキ村のあるガイアク領は、私の故郷レッドヴァルト領から東へ一つ、北へ二つ隣。レッドヴァルトが最果ても最果て、王国の一番南西に位置しているので、やや東寄りのパトレン領からはかなり遠かった。


 バンキ村に到着してすぐにギルドへ向かい、情報を聞いた。

 獣人がいる事件はまだ解決していないらしいけど、話を聞けば聞く程ゾディアックとは違う事件だと分かった。


 ギルドマスター――この村のギルドはレッドヴァルトと同じで、酒場を改装して店主がギルドマスターを務めている。冒険者が少ない地域では、この業態のギルドが多いらしい。


 ただ、レッドヴァルトとの違いは禿頭ではなく、髪も髭もふさふさだって事。いわゆるダンディなおじさまである。そんなギルドマスターに案内されて、獣人がいるという家に到着。


「ここです」


 通された先には、母親に看病されている少女がいた。


 ギルドマスターがお願いすると、母親がシーツを取って見せてくれる。

 そこにいたのは、獣と人を半端に混ぜたような怖ろしい姿の怪物だった。


 頭には獣の耳、少しだけ長くなっている鼻先、牙が不揃いに見え隠れしている。右腕、左脛がオオカミのそれとなり、胸の一部や腰も剛毛に包まれていた。あるはずのない尻尾まで生えてしまっている。


 所々残っている人の部分は赤くなっており、相当な熱を発しているのが分かる。息も荒く、汗だくだ。


「ママ……ママ……」


 と、虚ろな目でうわ言を呟いている。

 小さなその身には、とても辛そうだ。


「……今回もハズレでしたわね……」


「……ゾディアック探し的にはね。でも、これはなんとかしてあげないと……」


 なんとかしてあげたいけど、私には知識がない。

 戸惑っていると、ジルがすたすたと歩み寄って少女の脈を取り、医者のように色々と調べ始めた。


 一、二分程調べた後、ジルは診断結果を告げた。


「これは……人狼病(ライカンスローピイ)ですわ」


「「「人狼病(ライカンスローピイ)?」」」


 私もカナも、ギルドマスターも母親も、全員が首をかしげてジルに聞く。

 前の人生も含めて、生まれて初めて聞く単語だ。


「そうですわ。人狼病(ライカンスローピイ)……これは、人狼(ワーウルフ)などに傷をつけられると、稀に起こる病ですの」


 ジルは、この病気についての詳細を教えてくれた。

 人狼から傷を受けると、低確率で発症。高熱を出しながら、患者も人狼になってしまうという病気。姿が完全に変わる頃には理性もなくなってしまうという。


 小さな子供がかかると、発熱や変化に耐えきれず、命を落とす。

 なんて、おぞましい病気なんだろう。


「人狼ってそんなに危ない魔物だったの?」


「勿論ですわ。症例が少ないので、あまり知られてはいないのですけど。……お母様、最近この子が、怪我をして帰った事はありませんの?」


 ジルに聞かれて、はっとする母親。

 真っ青な顔で、ジルに話してくれた。


「二週間前に友達と森に行って、怪我をして帰ってきた事が……」


「潜伏期間、情報が入った時期を考えますと……やはり、という事になりますわね」


 深刻な顔をするジル。

 でも、最高位聖職者(プリースト)であるジルなら、奇跡魔法で簡単に治せるはず。


「ジルの《病巣治癒(キュア・ディジーズ)》で治せないの?」


「無理……ですわね。この病は、病気というより呪いに近いものですの。上級魔法、《解呪(リムーヴ・カース)》でなら治せますけど、今の(わたくし)の残りMP(エムピー)では……」


「じゃあ、どうしたら……」


 普通の病気ではないから医者も駄目、ジルの魔法でも駄目となったら、もう手立てはないんだろうか。

 治せないからって、このまま放っておくなんて絶対に嫌だ。


 私が何も出来ない悔しさに歯を食いしばっている時、ジルはぼそり……と助ける方法を呟いた。


「一つだけ……治す方法がありますわ」


「あるの?」


「伝説の秘薬ですわ。それを飲ませれば、たちどろこに治りますわ」


 伝説の秘薬。

 そんな都合のいい薬があるなんて。


「なんて薬なの?」


万丹丸(まんたんがん)ですわ」


 前の世界にも、万金丹(まんきんたん)という漢方薬があったような。

 確か……万能薬だっけ?


「コンドル、ライオン、熊――。三種の獣がよく食べるという草を、すり潰して作りますの」


「えっ……? ライオンって草食べるの?」


「食べますわ……。猫草ですけど。ネコ科の動物は皆、消化のために猫草を食べますのよ」


「へー……」


 初めて知った。ライオンも猫草を食べるんだ。

 ジルは本当に物知りだな、と感心した。


「コンドルは?」


「……」


 ジルはあからさまに顔をそらした。

 心なしか、冷や汗が垂れているようにも見える。


「ねえ、コンドルは?」


「……さ、さあ! 三つの草を探しに参りましょう!」


 それで、『伝説』なのね。

 腐肉すら食べてしまう、純肉食のコンドルが食べる草って一体……?


 こうして私たちの、先行き不安な素材探しが始まった。

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