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第百八十三話 情報

 私と、カナ、ジルの三人に戻って旅をする事、一週間。

 西隣にある領の関所に到着。


 西隣はパトレン領。

 王都と王国東側を繋ぐ重要な領で、パトレン伯爵が統治している。


 東側の物流は、この領をまたいで行商人達が届ける事になっていて、とにかく人の往来が盛んだ。この領の街は、どこも行商人と旅人であふれている。


 王都の東に位置する剣聖領との行き来も、ここを経由する。

 当然、ゴーシュ領――私の領から湖を奪おうとしたドラグニ侯爵の領も。


 とはいってもゴーシュ領はお取り潰しになって、剣聖領に統合されてしまったのだけれど。


 関所のある宿場町は、私が冒険者を始めたナックゴン村に似ている。

 ただ、大国シュトルムラントの東西を繋ぐ重要な街だから、隣接するのが小国サジェスだけのナックゴンよりも格段に規模が大きくなっている。


 様々な特産品がここに集まっていて、露店で売られているものも彩り豊かだ。

 食べものだけはなく、織物や陶磁器、はては箪笥まで露店で売っている。


 街に着くなりジルが露店巡りをしているのは、いつも通りの事。

 気がつくとカナと一緒に、食べものを両手一杯に抱えている。


 特に、ブラートヴルスト――日本でいうところのフランクフルト。串刺しブラートヴルストのソースがけは美味しそう。あとで私も買っておこう。


 宿は以前、剣聖領に向かう時に利用した宿でいいとして、まずは冒険者ギルド。ここで旅の資金を稼ぎたい。それと、今回はもう一つ重要な用事もある。


 二人が食べ歩きをしている間に済ませてしまおう。



    §  §  §  §



 冒険者ギルド。

 ナックゴンとは違い、ここも立派な作りになっている。

 いつも通りに両開きのスイングドアを開けて、中へと入る。


 こういった流通のパイプとなる街でのお約束だけど、ロビーにいる冒険者は柄が悪いのが多い。前回、この街に来た時はギルドをスルーしていた。剣聖領というはっきりした目的地があり、食料や備品をしっかり準備してあったからだ。


 今回は、ゾディアック帝国の手がかりや、残りの五騎士を探すという漠然とした目的。どれくらいの期間と距離を旅するのか、まったく見当もつかない。だからこそ資金を稼いだり、情報を集める必要がある。


「おい、嬢ちゃん。ここは嬢ちゃんのようなガキが来る所じゃないぜ?」


 そう言いながら、私の肩を掴もうとする男。

 私はその腕をすり抜けて足をかけ、転ばせた上で腕をひねり上げる。


 今回はちゃんと加減が出来ている。

 ブルーンの時のような、鳴ってはいけない音は鳴っていない。


「あいてててて……!」


 新顔の冒険者は、その土地のベテラン冒険者に絡まれる。

 それはどこに行ってもそう。当然、ここでも。

 ただ、今回は王都近くの領な事もあって、少しだけ反応が違っていた。


「おい……あのマントに、あの美貌……あれ、『剣聖の姫君』じゃねえか?」


 酒場スペースで飲んでいる冒険者の一人が、私を知っていた。

 あの美貌だなんて、ちょっと顔がにやけちゃう。


「間違いねえ。『剣聖の姫君』だ! アサガを……Bランク戦士を一捻りに出来る女なんて、そうそういねえよ……」


「マジかよ……あれが、『剣聖の姫君』……」


「なんだって『剣聖の姫君』がこんな所に……」


 だから皆、呼び名……言い辛くないの?


「おい、アサガ! 謝るなら今のうちだぞ。殺される前に謝っとけ!」


 失礼な。ちょっと絡んできただけの相手を、殺したりなんかしないから!


「俺、『剣聖の姫君』に金貨一枚!」


「俺も、金貨一枚!」


「俺は大穴で、アサガに一枚だ!」


 私達をダシに賭け事まで始めている。本当に柄が悪いなあ……。

 これ以上力を入れると彼の腕が不味い事になるので、一旦手を離した。


「この……クソ(アマ)ァ……! 死ねええい!」


 せっかく離してあげたのに、殴りかかってくるアサガ。

 その硬い鎧越しの腹に、瞬間で出した魔法剣の柄を突きつけて気絶させる。

 ぐえっと唸って、彼は前のめりに倒れた。


「あのアサガを、一撃だって? 凄過ぎる……」


「それにあのもう一本の剣、いつどこから出したんだ?」


「あれが世界最強、『剣聖の姫君』か……なんて強さだ……」


 ……世界最強は、ちょっと言い過ぎだと思う。


 まあこれで、しばらく絡まれる心配はなさそう。

 一安心した私は、カウンターへと向かう。



    §  §  §  §



「ようこそ、パトカイザ・ギルドへ」


 パトカイザはこの宿場町の名前だ。

 私はFランクの冒険者プレートを、イケメンな受付のお兄さんに提示した。


「あの……アリサ様。アリサ様はSランクのはずでは?」


「やっぱり、駄目?」


「あれだけ『剣聖の姫君』と騒がれていては、普通に分かりますよ。本日は、Sランク冒険者の『剣聖』様が、どのようなご用件で?」


 確かに、ばれない方がおかしい。

 仕方なくSランクの冒険者プレートを出し直して、話を始める。


「実は、大事な用事があって来たの」


「『大事な用事』ですか。応接室をご用意致しましょうか?」


「大丈夫、ここで十分。……確か、ギルドにはネットワークっていうのがあるんでしょ?」


 冒険者ギルドのネットワーク。

 通信魔法を使って、国中にあるギルドの情報をわずか一日でやりとり出来る、優れた情報網だ。


「ございますね」


「それを使って、国中で探して欲しいものがあるんだけど」


「ネットワークの私物化は、いくら『剣聖』様でも……」


「緊急事態だから。国の存亡が関わってるの」


 私は、王国がゾディアック帝国に狙わている事、既に多数のゾディアック兵が国内に侵入している事、それを探したいという事を伝えた。


 ギルドのネットワークを使えば、あてもなく探すより確実に情報が手に入る。ゾディアックの情報が入ったら、私達はそこに駆けつければいい。凄く合理的な手段だと思う。


「そういう事でしたら、承らせて戴きます」


「探して欲しいのは、茶色と黒の板金鎧(プレートメイル)を着た軍人、それと獣人、これくらいの大きさの立方体……」


 ゾディアック兵は、忍ぶつもりが全くないのか、茶と黒の目立つ鎧を着ている。この国の人々には『変わった鎧を着た冒険者だ』程度の認識しかされていないけど、その認識を改め貰うのも含めての捜索依頼だ。


 獣人は言うまでもなく、五騎士。

 立方体は『変身方体(キューブチェンジャー)

 一刻も早く見つけ出して、倒さないといけない。


「あと……念のため、金の装飾付きの全身黒ずくめ鎧で黒髪の男も」


 黒ずくめというのは暗黒獅子皇帝ルーヴ。

 私達の前に顔を出すなと言ってあるから、もうこの国にはいないと思うけど念のため。


「かしこまりました。ですが……国家の存亡という話になりますと、ギルド本部の許可を通してからとなりますが、それでもよろしいでしょうか?」


「それでいいわ。それと、私はお忍びで調査活動をしてるから……今は、『Fランクの新米冒険者アリサ』って事にして欲しんだけど……」


「もう、既にばればれですよ?」


「事情があるの。お願い」


 生活費を稼ぐという事情が。

 Sランクでは、普通の依頼は受けられない。ジル個人の食費こそはジルの懐から出るけど、私のカナの生活費や、三人の宿代は私が稼がないといけない。


「……仕方がありませんね」


 イケメン受付は、少々呆れたような苦笑いで微笑んだ。


「承知致しました。では、よろしくお願いしますね……新米冒険者のアリサさん」


 イケメンさんと私で握手を交わす。


 よし、これで五騎士の捜索と生活費、両方なんとかなりそう。

 フランクフルト……いや、ブラートヴルストを買いにいくぞ!



    §  §  §  §



 ブラートヴルストは、ジルが買い占めて売り切れだったよ……。

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