表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生したら、『剣聖の姫君』と呼ばれるようになりました。  作者: 姫騎士はるか
第三章 『剣聖、冒険者になる』編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

220/290

第百七十九話 捜索隊

 竜亜人(ドラゴニュート)の村に寄り道したり、ボスがティラノサウルスだったり、一階層しかないはずの迷宮(ダンジョン)に地下階層があったり、また村に立ち寄ったりと色々あって、ようやく中央都市に帰還した。


 例によって市民から歓迎され、人波をかき分けて冒険者ギルドへと向かう。

 目的は迷宮(ダンジョン)制覇の報告と、倒した魔物素材の売却だ。


 視察だからお宝は諦めたけど、素材を売らないとは約束してないからね。それに事前申請から一週間以上も経っているから、早く報告しないと捜索隊が出されてしまう。


 建物の中に入ると、冒険者たちが慌ただしく戦いの準備を始めている。

 ただならぬ雰囲気に疑問を感じた私は、手近にいた冒険者に尋ねる。


「一体、何があったの?」


「これは『剣聖の姫君』! 捜索隊ですよ。中々帰ってこない者がいるとかで」


 中々帰ってこない……それって私たちの事?

 今帰ってきたばかりだから、早く誤解を解かないと!


 出発しようとする冒険者たちの流れに反して、急いでカウンターへと駆け寄る。


「ねえ、捜索隊って?」


「これは領主様! はい、行方不明者が……」


「それって、私の事!? 私なら、もう探さなくていいから!」


 受付嬢の答えを最後まで待たずに、大声で叫んでしまう私。

 それを聞いた全員の動きがぴたりと止まる。


 数秒後、誰かが吹き出したのを皮切りに、笑い声がギルドホール中に木霊した。


「さっすが、『剣聖の姫君』様だぜ! 皆の緊張を一瞬で吹き飛ばしてくれた!」


「面白い冗談ですよ、『剣聖の姫君』!」


「ご領主様……これは、壺にはまりましたよ!」


 腹を抱えて転げ回っている冒険者や、奥で突っ伏したまま肩を震わせているギルド職員までいる。


「え……? また、私何かやっちゃった……?」



    §  §  §  §



 一通りの笑いが収まると、受付嬢が私に説明をしてくれた。


「職員の一人が、今日で三日も無断欠勤しているんですよ」


 一日なら体調不良かも知れないけど、三日なら誰だって心配する。


「無断欠勤なんか、一度もした事がない子ですから……捜索隊を出そうって話になったんです」


「その無断欠勤をしている子っていうのは?」


「クレオといいます。このギルド唯一の魔族職員で……」


 私が事前申請をしにきた時、受付に立っていた子だ。

 魔族の職員なんて珍しいから、忘れようがなかった。


「あの、よく頭をぶつける……」


「そうです、その子です!」


「誰か、その子の家には行ったの?」


 体調不良にしても、それ以外にしても、まずは家に確認しにいくのが普通。当然、そんな事は既に誰かがやってると思うけど、念のために聞いてみた。


「はい。私が彼女の借家に行ったのですが、誰もいませんでした。……実は彼女、欠勤する二日前に、二日間の休暇を取っているんです」


 二日。これも合わせると五日間、音信不通となる。


「お兄さんが、キガハラの樹海で『狩猟者(ハンター)』をやっていまして。久しぶりにお兄さんに逢いにいくとかで……」


 キガハラの樹海とは、私がこの領に来た目的の一つだ。

 丁度そこで、カナと修行をしようと考えていた所だった。


 どこの森でもゾディアック帝国に狩られ、カナですらゾディアックに拐われたこの情勢で、『狩猟者(ハンター)』が健在の森というのも珍しい。


 まさか……今回の欠勤も、ゾディアックが関係しているとか?


 それなら、一刻を争う。三日以上も経っているのだから、最悪の事態だって予想出来てしまう。彼女やお兄さんまでもが、カナの二の舞になるなんて……絶対にあってはならない。


 私はカナの失くなった角の跡をちらりと見て、すぐに決意する。


「わかった。私も捜索隊に加入する! ……ええと、クレオちゃん? あの子を助けに行くから!」


 それを聞いたギルドホール内の冒険者が沸き上がった。

 まるで、もう彼女が助かったかのような勢いで。


「『剣聖の姫君』が捜索隊に!? これは心強い!」


「ご領主様が参加して下さるなら、もう安心だ!」


「『剣聖の姫君』様、万歳!!」


 安心するのは早いよ、皆。

 まだ、見つかってないからね……。



    §  §  §  §



 最終的には、私たちも含めて八つパーティが捜索隊に参加した。

 この街に常駐している冒険者、これから迷宮(ダンジョン)に向かおうとしていた冒険者、外から流れてきたばかりの冒険者、その素性はさまざまだ。


 けれど、たった一人の女の子を救うために、皆がここに集まっている。

 これが冒険者。ここに集まった一人一人が全員、誇らしいヒーローだ。


 八パーティの内、二パーティは街に残って借家周辺の捜索。

 二パーティは街道周辺をしらみ潰しに探す事に。

 そして、私たちを含めた四パーティは、キガハラの樹海に向かった。


 本当は、カナと私の『狩猟者(ハンター)』の勘を取り戻すための、気楽な魔物退治で行くはずだったんだけど、こんな大変な事になるなんて……。


 ギルドが用意した大型馬車二台に乗って、一日弱。


 途中、山賊コボルトや、群れからはぐれた大猪なんかが襲ってきたけど、全部私が倒した。急いでいるから、少しも時間はかけたくなった。


「これが、『剣聖の姫君』の剣技……」


「Bランクの戦士である俺ですら、剣筋が全く見えなかったぞ」


「て……敵には回したくないもんだ……」


 気配を感じるなり馬車から飛び降り、数秒で始末する。そんな私の鬼気迫る剣技を見て、他の冒険者パーティは震え上がっていた。


「……でしょう? これこそが、レッドヴァルト辺境伯の長女にして、王太子殿下の婚約者、自らも伯爵の――」


「ジル……今はそれ、いいから」


「ですが……」


「い・い・か・ら……!」


 ジルの長い口上を全部聞いている暇はない。

 すぐに馬車に戻って、先を急いだ。


 昼過ぎにギルドを出発したので、到着はちょうど太陽が真上に昇る頃になった。



    §  §  §  §



 たどり着いた『樹海』は、私の想像した樹海とは全く違うものだった。

 普通、日本人が樹海と聞いて想像するのは、富士の樹海。あれを思い浮かべる。しかし、目の前に広がる『樹海』はそうではなかった。


 熱帯雨林――いわゆる、ジャングル。


 ワニやピラニアでも出てきそうな広大な樹林が、私の目に飛び込んできた。

 私は『一刻も早くクレオを助けなければ』という使命すら忘れて、『樹海』の前で立ち尽くしていた。


「なんなのよ……これ」


 熱帯雨林といえば、赤道直下にだけある気候。ほぼ常春といえる、シュトルムラント王国にこんなものがあるのは、ただ異質でしかない。


「何を驚いてますの、アリサさん。……RPGや異界の英雄譚(ラノベ)ではこんな事、日常茶飯事ですわよ?」


「いや、いくらなんでもおかしいでしょ……」


「アリサさんのその顔を見たら、女神(あの女)だって言うでしょう。『アリサさん、地球の常識に囚われてはいけませんよ』と――」


 確かに言いそうだけど……。

 女神様、『地球を模して創った』って言ってなかったっけ?

 どこをどう見ても、これはいい加減で大雑把過ぎる。


「ええー……」


 私は気を取り直して捜索を開始するのに、数分を要した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ