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第百七十二話 ボス部屋

 それから、いくつもの部屋を魔族と一緒に回って、壁や扉の修繕をした。


 補修係の魔族と一緒にいる事で、全ての戦闘を回避し、迷わず迷宮(ダンジョン)を進む事が出来た。魔族は地図帳を見ながらこの迷宮(ダンジョン)を直して回っているのだけど、カナが通訳した話によると、迷路の順路変更はパターンがあるらしい。


 聞いてみたら、一部屋目でAランクの魔物が出ていたのは、迷路が誤作動を起こしたからだとか。今ではAランクどころか、Bランク以上の部屋が一部屋目にはならないから安心していいとの事。


 私の予想は、当たらずとも遠からずといった所。

 ジーヤの言っていた、Aランクは退治済みというのも半分だけ正解。


 角材や板といった補修材が切れ、石壁の補填やガーゴイルで魔力も切れた魔族は、私たちに頭を下げて、魔族語でのお礼だろう……一声吼えると、帰路に就いた。ここからが私の作戦。彼についていけば、自動的にボス部屋前まで行ける。


 六人もの大所帯パーティだから大変だけど、音を立てないよう、気配を悟られないように彼の跡をつけていく。気分は、探偵か刑事。異界渡りで日本に行った事のあるジルも、同じ考えなのか、表情からわくわくしているのが分かった。


 補修係は罠にかかる事も、通路で魔物に遭遇する事もない。そして、最短距離でボス部屋に戻る。だからこそ安全、確実、最速でここまで到達した。


 大きな鋼の扉。

 この世界のボス部屋は、鋼と扉と相場が決まっていた。それに壁も一際高く、外周から部屋も相当広い事が想像出来る。


 壁の高さはここだけ二十メートル、広さはざっと百メートル四方はあるだろうか。


「……あそこ……ですわね……」


「……うん、間違いないね……」


 十中八九、ボス部屋だ。

 補修係の魔族、ありがとう。


「気を引き締めて参りましょう」


「中にどんなボスがいるのかな?」


「……だったら、ホラ。そいつを使えばいーだろ」


 私とジルの探偵気分に、カナが割り込むようにして助言を寄越す。

 カナの親指が差す先はパーティの最後尾……私のガーゴイルだ。


 えっ……まだいたの? っていうか、ついて来ていたの?


 ガーゴイルは、私がやっと気付いた事に大喜びして、その場を跳ね回る。


「てっきり剣と同じで、十分で消えるのかと思った」


「ガーゴイルってのは、主人の命令を遂行する種族だからな。命令が終わるまで消えねーよ。とりあえず、ソイツに偵察させればいーんじゃね?」


「そうね……。ガーゴイル、部屋の中を探ってきて」


 ガーゴイルは一度だけ、大きく頷くと扉を少しだけ開けて、中へと入っていった。



    §  §  §  §



 数分後、ガーゴイルが戻ってくる。


「どうだった?」


 するとガーゴイルは身振り手振りで、私に報告をし始めた。

 両腕をいっぱいに広げ、大きな半円を描く。中に大っきいのがいますよ、という仕草だろう。とりあえず、大きい何かがいる事は理解出来た。


 そこで、ガーゴイルは満足したように微笑むと、砂のようになって自壊した。

 私は、この可愛らしい使い魔の、生命が消え去った事に少し寂しさを感じた。


「ご苦労様……」


「デッケーのがいる……ってコトだけは分かったな。って、アリサ……泣いてんのか?」


「ちょっと、ね」


「また作りゃ、同じのが出てくっからよ。そう、寂しがんなよ」


 涙を拭って、私は前を向く。


 とにかく今は、大きなボスと戦う事。それが私たちの目的だ。

 話が分かる相手なら、領主であるという事を明かして、手合わせという形に持っていきたい。


 私たちは、おそるおそる扉を開けた。



    §  §  §  §



「これじゃ、話は通じそうにないわね……」


 私はボスの攻撃を避けながら独りごちる。

 それを聞いたジルも同意見。


「当然ですわ。それよりアリサさん……早く、なんとかして下さいな!」


 ――思い返すと、こんな顛末になる。


 扉を開けてそこにいたのは、巨大な怪物。

 しかもそれは、前の世界――地球にも存在した生物だ。


 全長は十メートルを越え、高さも五メートル以上はある。


「これって……恐竜って奴よね?」


「ティラノサウルスですわ。白亜紀に生息していた、最強の肉食竜ですわ」


「……なんで、この世界にいるの?」


「知りませんわ。大方、女神(あの女)が適当に創り上げたんでしょう」


 納得した。女神様――『創世の女神』は、この世界を創った唯一神だけど……酷く大雑把で、いい加減な神様だった。これが女神様の采配のせいだというなら、理解も出来る。


 私たちの会話を聞いて、獲物が部屋に入ってきたと判断したその恐竜は、もの凄い速度で突っ込んできた。恐竜の巨大な頭が私たちに迫る。


 六人全員、バラバラに散開する事でかろうじて避けたものの、分厚い壁が削れ落ちている。こんな攻撃を食らったら、私たちはひとたまりもない。


「これじゃ、話は通じそうにないわね……」


 ――という訳である。

 手合わせどころの話ではなかった。


 でも、これを飼い慣らす事が出来れば、ひょっとしたら私の戦隊ロボ替わりになるかもしれない。ティラノサウルスって言ったら、恐竜系戦隊ではレッドのパートナーとして伝統だから。


 私もレッド。これは運命かも知れない。


「アリサさん……ひょっとして、これを飼い慣らして巨大ロボの替わりにしよう……なんて、考えてません?」


 心を読んでいるかのように、ずばりと言い当てるジル。

 私は、恐竜の恐ろしさよりも、ジルに考えが見通された事で冷や汗をかいた。


「え……ちっ……違うよ! そんな事、全然考えてないから……!」


「あー、はいはい。それよりも、戦いに集中して下さいませ」


 私の挙動で完全にばれてしまっていた。

 倒すしかないみたい。


 私たちが会話している間にも、カナやデルマが応戦している。

 テラソマは部屋の隅に逃げ込んで、がくがくと震えていた。今まで平和な湖に棲んでいた人魚が、急にあんなものを見せられたら怖がるしかないよね。


 アスナは変身。最後のボス部屋だからこそ、今まで温存していた《竜化》を使って、上空……とはいっても天井は二十メートルだけど……からの、急降下攻撃を繰り返していた。


 対するティラノの攻撃手段は、突進と噛みつき。


 猛突進してくる恐竜の鼻先を、カナとデルマ――魔族の二人が怪力で押さえ、せき止める。そこに、アスナが一撃を加える。噛みつこうとする恐竜の牙を、二人が避けて仕切り直し。また、激しい突撃がやって来る。


 既に、これが何回か繰り返されていた。


「いくよ、カナ! そいつ押さえて!」


(おせ)ーよ、アリサ。まあ、止めんのは任せろ!」


 カナが笑いながら返事をして、デルマと一緒に恐竜の疾走を止める。

 私は駆け込み、魔法剣を創り出す。


「《剣創世(ソード・ジェネシス)・大斬刀》おおーっ!!!」


 飛び上がった私の両手に、巨大な剣――大斬刀が握られる。それを確認したカナが、出現したばかりの大斬刀に魔法をかけた。


「《火炎付与(エンチャント・フレイム)》!!」


 大斬刀が燃え上がる。


 その重量と熱気を、恐竜――ティラノの脳天めがけて振り下ろす!

 凄まじい激突音がした後、床に叩きつけられる恐竜の頭。


「……やったか?」


 カナが呟くと、ティラノはむっくりと起き上がる。

 頭を左右に振ると、今のダメージが消え去ったかのように機敏に動き出す。またも疾走し、頭から突っ込んできた。


「カナーっ! そのせりふって言っちゃうと、大抵は相手が生きてるってお約束なのーっ!!」


「マジかよぉ……っ!」


 カナ、私、デルマは追いかけてくる恐竜から必死に逃げる。

 アスナが上から攻めるも、尻尾ではたき落とされてしまう。


 流石にこの迷宮(ダンジョン)、完全攻略とか無理でしょ……と思った時、異変が起きた。


 逃げ回る私たちに苛立ちを感じ、激しく地団駄を踏んだティラノ。

 その太い足での震脚が、床を抜けさせた。


 がらがらと音を立てて崩れていく床。

 私たちはティラノもろとも、地下へと落ちていった……。

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