表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生したら、『剣聖の姫君』と呼ばれるようになりました。  作者: 姫騎士はるか
第三章 『剣聖、冒険者になる』編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

207/290

第百六十六話 隠村

 私たちは、中央都市から馬車で一日の所にある迷宮(ダンジョン)へと向かう。

 領主専用の馬車は中が広く、六人全員を余裕で乗せる事が出来た。

 ……身長が二メートルを越えるデルマだけは、狭そうにしていたけど。


 まずはギルドに行って、迷宮(ダンジョン)に挑戦する事を申請する。

 申請自体はやらなくても問題ないんだけど、カナとジルがやれと言ったのでする事にした。


 事前申請をすると、換金の際に天引きされる税金が安くなるとか。


 それに万が一、迷宮(ダンジョン)内で迷ったり倒れたりして長期間帰ってこない場合、ギルドから救助依頼が出るらしい。これのおかげで、スライムに消化される寸前で助けられた冒険者もいた……なんて話も聞く。


 ギルド前で馬車を降りると、沢山の市民に囲まれてしまった。

 その人波をかき分けてギルドに入ると、今度は冒険者の人垣が出来ていた。


 領主、しかも『剣聖』がやって来たとなると、一目見たいのもうなづける。私だって、大好きな戦隊のレッドが街にやって来たら、絶対にサインを貰いに行くから。


 更に人垣を乗り越えて、やっと受付カウンターに到着。

 この街での受付は、窓口が沢山あるけど職員は少ない……という珍しい形式だった。多分、前領主が迷宮(ダンジョン)運営に失敗したからだと思われる。


 迷宮(ダンジョン)があるから、ギルドも窓口を沢山用意した。そうしたら、意外にも挑戦する冒険者が少なくて赤字になり、人件費を減らすためこうなった……というのが、悲しい程に理解出来る。


「りょ……りょ……領主様!!! あ(いた)っ!」


 土下座のようにひれ伏し、カウンターに頭をぶつけてしまう受付嬢。

 今までの受付嬢の中で一番、初対面でのインパクトがあった。


 頭を上げると、魔族の受付嬢。


 褐色の肌に二本の角。見た目こそは十五になったばかりにしか見えないけれど、魔族は非常に長寿。カナはともかく、デルマは三十代後半だと思ったら、なんと三百三十五歳! ……この受付嬢も、見たままではなさそう。


 女性に年齢を聞くのは失礼だけど、聞いてみたい衝動に駆られる。

 

 それに、カナが二本角は『人間十人がかりでやっと』と言っていた。

 こんなに可愛らしいけど、多分凄く強いんだろうなという事も気になる。


「おい、どうしたんだ?」


 もたもたしている私の後ろから、カナが話しかけてきた。

 受付嬢はカナを確認すると、目を見開いて仰天する。


「よ……四本角の跡に、牙のペンダント……もしかして、有名なカナリア様ですか!? 初めまして! 私、……あ(いた)っ!」


 また頭を下げすぎて、カウンターにぶつけている。

 埒があかないので、早々に冒険者プレートを出して申請をお願いした。


「あの……迷宮(ダンジョン)に挑戦したいから、事前申請をしたいんですけど……」


「こっ……これが、Sランクのプレート! 初めて見ました!」


「いや、だから……申請を……」


 多分、この魔族(ひと)は新人さんで、本当に十五なんだろうな……って気がする。

 こういった紆余曲折があって、やっと申請が完了。


「入り口すぐのAランクは退治されてますけど、奥はまだまだ危険ですから無理はなさらないで下さいね!」


「はい」


「では、いってらっしゃいませ! あ(いた)っ!」


 お辞儀をして、またぶつけた……。

 ちょっと不憫に思えてくる。



    §  §  §  §



 もう一度、人波をかき分けて馬車に到着。

 馬車が出ると、市民たちが追ってくる事はなかった。


 ――街を出ると、馬車の中でアスナが私に聞いた。


「ねえ、アリサ」


「うん?」


「ちょっと……寄り道してもいいかな?」


 アスナが私にお願いをするなんて珍しい。

 彼女は気さくな性格とはいえ、主従関係を重んじて遠慮しがちだった。彼女が私に願い事を言った事は、今まで一度もない。


 そんな彼女が寄り道をしたいと言ってきた。

 これは絶対に、大切な用事だ。


「どこへ行くの?」


「私の生まれ故郷が迷宮(ダンジョン)に近いんだ。ずっと帰ってないから、挨拶くらいはしたくて……」


「アスナの生まれ故郷! いいね、行こう!」


「ありがとう、アリサ! これで、村の皆にも『竜神教』の、()っきな《竜化》を広められるよ!」


 うーん……それは無理なんじゃないかなあ……。


 ジルに怒られるから伏せおくけど、あれは教祖であるジルが真竜(ドラゴン)だから出来る技で、竜に化ける魔法じゃなくて、竜が人に化ける魔法を使ってるだけだから。


 竜亜人(ドラゴニュート)が巨大化出来るかって言うと、正直言って無理だと思う。

 ジルが、『一度竜になったら亜人には戻れない』魔法があるとは言っていたけど……それって、アスナの望む《竜化》じゃないよね?


 とにかくアスナの希望で、彼女の故郷へと馬車を走らせる事にした。



    §  §  §  §



 馬車で一日半。

 迷宮(ダンジョン)までは一日で、そこから街道のない方向へとそれて、獣道のような道を半日程走った。


「本当は、ここは竜車で行く道なんだけどね」


 アスナが説明する。

 竜車……初めて聞く言葉だった。

 不思議がる私の顔を見て、アスナは一言付け加えた。


「あ、竜車っていうのはね、飼いならした地竜(アース・ドラゴン)に鞍と荷台を乗せた乗り物でね……」


 そんなのがあるんだ!

 流石、アスナの故郷。乗り物まで竜なんて。……竜?


 私の脳裏に、以前遭遇した地竜(アース・ドラゴン)が浮かぶ。あれは、確かにドラゴンって名前だけど、前の世界で言う『コモドドラゴン』……単なる大トカゲだ。


 そんな事を考えていると、アスナが目的地への到着を告げた。


「もう少しで着くよ。……ほら、あそこだよ!」


 見えるのは獣道が途絶えた、ただの草原。

 そこは村どころか家の一軒すらない、ただ広いだけの野原にしか見えない場所だった。


「このまま、まっすぐ進んで」


 獣道が途絶えた先を馬車が走ると……急に道と、いくつもの家が現れ、そこでは幾人もの竜亜人(ドラゴニュート)たちが、楽しそうに生活していた。


 何もなかったはずの場所に、急に村が出現した!

 なんて不思議な現象だろう。


「幻術で、村全体を隠してるんだ」


 幻術……!

 デルマが、正体を隠すために使っていた魔法と同じもの。


「村全体に幻術をかけるなんて……竜亜人(ドラゴニュート)って、どれだけ魔力があるのよ」


「千年近く前に、ご先祖さまがかけたものだからねえ。きっと、ご先祖さまが凄かったんだと思うよ」


 そこから、いつも明るかったアスナの表情が少し翳りを見せる。


「私たちって、昔は人間から狩られてたらしいから。力があるから奴隷としても便利だし、角や羽も美術品になるし、鱗は鉄でも弾くから、貴族の鎧にされてたんだって。アリサも竜鱗鎧(ドラゴンスケイルアーマー)って聞いた事あるでしょ?」


 確かに聞いた事がある。あれって、竜亜人(ドラゴニュート)の鱗だったんだ……。


「……だから、いろんな国を逃げ回って、最後にこの国にたどり着いたんだ。この国の人たちはご先祖様を歓迎してくれたけど、それでも人間が信じきれなくて……ご先祖様は魔法をかけて、ここを隠れ里にしたんだよ」


「そんな大事な場所、私に教えちゃっていいの?」


「……私はアリサを信じてるから、大丈夫!」


 信じてる――そう言いながら、アスナはいつもの笑顔に戻った。

 そして、うやうやしく私に向けて騎士の礼をすると、高らかに声を上げた。


「ようこそ、領主さま! 竜亜人(ドラゴニュート)の村へ……!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ