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第百四十〇話 解決

 ――間に合った。


 けれど、カナもジルも大怪我をしてしまっている。

 もう少し早く戻ってこれたら……そう、名乗りとポーズをしていなければ、二人が怪我をする前に戻れたはず……とは思うけど、今は悔やんでいる暇はない。


 追加でもう二体の獣人を蹴り倒し、王女を降ろしてカナに手を差し伸べる。


「立てる?」


「ああ……なんとかな」


 カナの手を掴んで引き起こし、王女をカナに預ける。

 王女は不満そうに文句を言っているけど、そこは無視しておこう。


「王女様の事、頼める?」


「任せな」


「じゃあ、行ってくるね……ここからは、私のヒーロータイムの始まりよ――!」



    §  §  §  §



 私が戻った庭園は、獣人たちが猛り狂う阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 これだけ沢山の獣人が派手に騒いでいると、まるで動物園みたいだけど、本物の動物園だったらどんなに楽か……。


 近衛騎士団は、獣人に変身したのが貴族だからと手を出しあぐねて、ジルは痛みにうずくまっている。カナも王女を守るので手一杯。それでも騎士たちは、鎧を活かして市民を庇ったり避難の誘導をしているけど、実質戦えるのは私だけ。


 ――これは忙しくなりそう。


 まずは、目の前でオオカミ獣人に襲われている女の子を助ける。無詠唱で出した魔法剣で殴ると、オオカミ獣人は簡単に吹き飛んでいった。


 相手が獣人と分かっていると、手加減の必要がないから結構楽が出来る。獣人には防御力があって、ちょっと斬った程度で死なないのが分かっているから。


「大丈夫?」


「ありがとう、『剣聖の姫君』様!」


 今助けたのは偶然にも、宿屋近くのパン屋の娘さん。

 まだ九歳の幼い子だけど、下町の皆から慕われている看板娘。


 こんな子が獣人の爪を受けたら、ひとたまりもない。

 大事になる前に助ける事が出来てよかった。


「早く逃げて」


 彼女の手を引いて、逃げやすい方向へと誘導する。 

 すると、彼女はもう一度ありがとうと言って、城門の外へと走っていった。


 次は、ゾウ獣人に踏み潰されそうになっているお兄さん。

 低姿勢で滑り込みながら救出し、起き上がると同時に後ろ回し蹴り。よろけたところに、柄打ちを叩き込んで獣人を気絶させた。


 更にギルドのお姉さんを助けながら、ワ二獣人に連続打ち込み。

 その後も市民たちを救出、誘導しながら獣人を蹴散らす。


 ――戦闘を始めてから十分。不意に私の手から魔法剣が消え去る。

 私の魔法、《剣創世(ソード・ジェネシス)》は十分で効果時間が切れる。そうすると消えてしまうので、再び創り出す必要があった。


 獣人の数が数だから、長丁場になる。おそらく二、三本では済みそうにない。


 剣が消えた瞬間に襲ってきた獣人を、逆の手に出現させた剣で倒す。

 複数で同時に迫る獣人を、もう一本剣を創って二刀流で薙ぎ払う。


 そうして剣を何度も替えながら、ひたすら戦い続けた。


「アリサ……やっぱ(つえ)えな……」


 私が戦う姿を見て、カナが呟く。


 強いかどうかよりも、ここは剣士にとって得意な戦場だからね。

 乱戦じゃなかったら一人ずつ相手する私より、何十人も吹き飛ばせるカナの方がよっぽど強いと思うよ。


 しばらく救出と撃退を繰り返して、ようやく獣人を全員倒し終わった。

 気絶した獣人は皆、人間に戻っている。


 あとは、暴れ出した獣人だった人たち――この貴族たちを縛るだけ。

 一人、内臓が飛び出しているけど、あとでジルに治して貰えば大丈夫。


 市民の避難も済んだし、これにて一件落着。



    §  §  §  §



 事件後、今年は王城での催しが中止という事になった。

 獣人が暴れ、民衆が混乱して踏み荒らし、庭園はめちゃくちゃに。

 これでは、とても新年を祝う状況ではない。


 私は貴族たちを縛り上げながら、無惨に荒らされた庭園を眺める。


「本当に、酷い事になってるわね……」


「ですわね」


 ジルが悲痛な表情で答えた。


 そこかしこに血溜りが出来て、丁寧に整えられていた木々も、刈り揃えられた芝も、変わり果てた姿になっていた。あれだけの騒ぎで、死人が出なかったのは不幸中の幸いだけど、やるせない気持ちになる。


 そんな中、この悲惨な光景に異質なものを見つけた。


「これは……『魔導具』?」


 魔法を発動する立方体。それが、暴れた貴族たちの足元に転がっていた。

 今では、王子の働きかけによってゾディアック製魔導具はご禁制となっているから、違法で所持していたという事になる。


 魔導具は生活にも、医療にも、そして戦いにも非常に便利な道具で、一度その利益を享受してしまうと、中々手放せない事から、魔導具の撲滅には至っていないとか。


 私が貴族を縛っている横で、目を醒ました者から順に近衛騎士団が尋問をしている。


 話に聞き耳を立てていると、暴れたのは十五人の貴族、それと繋がりのあった豪商たち、更にその貴族や豪商の召使いたち。全員で二百人近く。


 彼らに共通していたのは、暴れている間の記憶がない事、王女がバルコニーにお見えになった途端、魔導具が勝手に光り出したという事。そして、彼らは一年以内に新しい魔導具を入手していたらしい事も判明した。


 つまり今回の事件は、シュトルムラント王国の新年祭を利用しての、ゾディアックの計画的な犯行だった……という訳ね。


 私はそれを上手く阻止出来た事に、胸をなでおろす。


 普段なら使えなくなるだけの時限装置を、新年祭に合わせて変身して暴れるように仕組んだと。それ以上の詳細は、衛兵に連行するように頼んだ『毒蜈蚣』の尋問次第って事になりそう。


 もしこれが、王国にゾディアックが戦争をしかけ、宣戦布告したタイミングで発動する仕組みだったら……と思うと、背筋がぞっとした。


 ゾディアックが何故、王女を誘拐しようとしたのかも気になる。


 それに、ゾディアック帝国五騎士……。『毒蜈蚣』こそ弱かったけれど、他の五騎士もそうとは限らない。


 ――きっと、またいつか戦う事になる。そんな予感がしていた。

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